3.歯車は噛み合い回りだす
リヒトは膝の上にノアを乗せ、先ほど目を覚ました青年と向き合っていた。
「……俺を助けてくれたのはお前で合ってるか?」
「当たり前だろ。思う存分感謝してくれていいんだぜ」
「どちらかというと殺されかけたような気がするのは気のせいか……?」
「気のせいだろ。だいたい元から死にかけてたのにわざわざとどめさすような面倒なことやるわけないだろ」
「……そう言われればそうだな」
青年は改めて居住まいを正すと深々と頭を下げた。
「助けてくれたこと感謝する。貴方がいなかったら俺は確実に死んでいただろう。俺はアロン。あなたの名前を聞いてもいいだろうか」
「俺はリヒト。んでこっちがノア。よろしくな、アロン」
「よ!」
「ああ、よろしく。
……それにしても二人は兄妹なのか?それにお前たちみたいな子供が二人だけで行動しているとは……何か訳ありか?」
「んー?まあ、兄妹みたいなもんかな?てか、どっちかていうと瀕死の状態で倒れていたお前のほうが訳ありだと俺は思うけどな」
にっと口の橋を釣り上げてリヒトはアロンを見つめる。
「……っ」
アロンは言葉を詰まらせリヒトから視線を逸らす。
そんなアロンを特に気にすることなく、リヒトはあっさりと話題を変える。
「まあ、そんなことはどうでもよくて俺たちはお前の恩人だよな?」
「えっ、あっ、そうだな」
突然変わった話題に戸惑いながらも答えるアロン。
「命の恩人の頼みなら何でも聞いてくれるよな」
「ああ、もちろんだ。俺にできることならできる限り聞くつもりだ」
その言葉を待ってましたとばかりにリヒトは笑みを深める。
「その言葉に二言はないな?」
「あ、ああ。もちろんだ」
「ああ、よかった。実は俺たち、さっきもお前が言った通り子供二人で行く当てもなく彷徨ってたんだ。道もわからないし、箱入りだったからこの世界の常識も何もわからない。
さて、ここで考えてみろ。行く当てもない、何もわからない幼い二人が助けを求めてお前を見ている。しかもそれが命の恩人ときた。お前はもちろん喜んで俺たちの面倒を見てくれるよなあ?」
リヒトはにっこりと笑みをアロンに向ける。
そしてアロンはそれに対してうなずくという選択肢しか持ち合わせていなかった。
「それじゃあ、改めて末永くよろしくな、アロン」
「……ああ、よろしく」
こうしてリヒトとノアは寄生先を確保するのであった。