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となりの花鳥風月  作者: Fennel
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三章 : 嚆矢(こうし)

三章 : 嚆矢こうし


「石切り場……か。ここに来るのも久しぶりだな」

 三人が訪れたのは山の中腹にある大きな岩肌がせり出した崖であった。崖の斜面はモザイク状に切り取った様な跡があり、そこがかつて石を切り出した場所であることを示していた。

 八百里は石切り場にゆっくりと歩み寄り、岩に手を触れて懐かしそうに呟いた。

「人がこの地に住み始めるよりも遥か昔、かつてここには一人の守護が座っておった。その頃は世界に守護はわしと其奴しかおらなんだ。あれから幾星霜もの年月を経て、今はわしと息吹だけになってしもうたがな。ふふっ、不思議なものじゃな」

 八百里がどこか遠くを見つめながら呟くと、後ろから息吹が勢い良く八百里に抱きついた。

「やおりさまにはいぶきとほだかがいるのです。寂しくなんてないのです」

 八百里は一瞬驚いた表情を見せ、ゆっくりと瞳を細める。穂高も八百里を見つめながら無言で八百里の頭に手を置き、小さくうなずいた。

「ふふっ……わしは果報者じゃな」

「はい! やおりさまは果報者なのです!」

 屈託のない笑顔で語る息吹の言葉に八百里は嬉しそうに瞳を閉じた。

「こうして穂高がいて息吹もいる。そうじゃな……本当に、わしは……」

「八百里?」

 突如吹いた風が木々を揺らし、八百里の顔を陽光が照らす。その瞬間、八百里の髪が小さく輝いた。

「うん? なんだ……これ? 八百里いつの間にそんな櫛使ってたっけ?」

 穂高が驚いた様子で八百里の頭を見つめ、その言葉に八百里が慌てた様子で髪を触る。

「櫛じゃと!? そんな筈は……」

 明らかにうろたえた様子の八百里を前に、息吹が不思議そうに首をかしげる。

「あー、ほんとなのです。やおりさまの綺麗な御髪に櫛がささっているのです。でもやおりさま、こんな櫛持ってましたっけ?」

 息吹の言葉に八百里は一瞬小さく体を震わせる。八百里の髪にはいつの間にか小さな灰色の櫛がささっており、息吹と穂高は物珍しそうに櫛を見つめていた。

「まさか……」

 八百里は震える手で髪をすいていく。八百里の指が櫛に触れた瞬間、八百里は驚いた様子で大きく目を見開いた。

「馬鹿な……何故これがここに……。これは……」

「八百里? どうした? その櫛が何かあるのか?」

 穂高が心配そうに声をかけるが、その声は八百里には届いていない様子で、八百里は櫛を手に茫然と立ち尽くしていた。

「八百里!」

 八百里の異変を感じた穂高が慌てて八百里の腕をつかむ。そのはずみで穂高の指が八百里の持つ櫛に触れた。

「えっ? なんだ……これ?」

 何かを感じたのか穂高が呟いた瞬間、周囲の景色が歪み始める。天が地に、地が天に反転する。景色が目まぐるしく移り変わり、周囲に眩いばかりの光の雨が降り注ぐ。大地は白く染まり、世界から音が消え、色が消える。その様子に思わず息吹が声をあげる。

「これはほだかの力? 櫛の記憶? まさか私達守護も引きこむほどの強い想いが?」

「分からねえ! 八百里の櫛を触った瞬間こうなったんだ!」

 穂高が叫んだ瞬間、目まぐるしく切り替わっていた景色が突然止まった。

「っ! 終わったか……何だったんだ、今のは……?」

 穂高が恐る恐る周囲を見渡すと、そこには先程と変わらない石切り場が広がっていた。しかしその光景に何か違和感を覚えたのか、息吹が瞳を細めて周囲を見つめている。目の前に広がる石切り場には石を切り出した跡こそあるものの、先刻見た時に比べて明らかに斜面の石が切り出されずに残っていた。

「ここは石切り場……? 何か違う……。石が……切られていない?」

「確かにちょっと雰囲気が違うのです。……あそこに人がいるのです!」

 息吹の言葉に八百里と穂高が振り返る。そこにはいつの間にか一人の青年と美しい女性の姿があった。二人は何やら話し込んでいる様子で、女性はほがらかに笑っていたが、一方の青年の顔は靄がかかったようにぼやけており、その表情は分からない。

「いつの間に人が?」

「すげえ美人……誰だ? あれ? というか、ここは昔の石切り場ってことでいいのか?」

 息吹は目の前の光景に首をかしげ、穂高は思わず小さく声を漏らす。一方の八百里は大きく瞳を見開いてたたずんでおり、その体は小さく震えていた。

「ばかな……」

 八百里が絞り出すように呟き、そんな八百里の様子に気がついたのか息吹が問いかける。

「やおりさま? どうなさったのですか?」

 息吹の言葉に我に返ったのか、八百里は突然大きく笑い出す。

「くっ……はははっ! 穂高が櫛の記憶に引きずられたか……。よもやわしまで引きずられるとは、なかなかどうして」

 八百里が笑い終えると、おもむろに片手を天に向かって掲げた。その瞬間、周囲の景色が大きく揺れ、再び世界にゆっくりと色が戻る。

 息吹と穂高は何が起きたのか理解できない様子でお互い顔を見合わせるばかりであった。


「なぁ、八百里。結局さっきのは一体何だったんだ?」

「そうですよー、やおりさま。やおりさまの櫛に穂高が触れた瞬間、櫛の記憶に呑まれたというのは分かったのですが、あの人たちは一体誰だったのですか?」

 無邪気に問いかける息吹を前に、八百里は苦笑しながら小さく首を横に振る。

「……あれはこの櫛の記憶じゃな。昔の知己が映っておったわ。穂高が触れたことでわしらも引っ張られたのじゃろう」

「えっ? 俺のせいか?」

 名前を呼ばれて驚いた様子の穂高を一瞥すると、八百里は小さくほほえんだ。

「穂高の門としての力は日増しに強くなっておる。よもやわしをも引きこむとは思わなんだ」

「へぇー、すごいのです、ほだか!」

 無邪気に笑う息吹をよそに、穂高が首をかしげながら呟いた。

「ところで八百里ってそんな櫛持ってたか? ……って、それ石でできてんのか。すげえな」

 穂高が興味深そうに八百里の持つ櫛を眺め、息吹もそれに続く。一方の八百里は好奇の視線を向ける二人を一瞥すると、小さく苦笑する。

「この櫛は……遥か昔、我らと人とがまだ繋がっていた頃、一人の人間がわしに贈ってくれたものじゃ。地中深く沈めていたはずなのじゃがな、何故それが今になってここに現れたかはわしにも分からん……」

「ふーん……そいつはすごいな。男の方は顔は分からなかったけど、女の人はものすごい美人だったなぁ。あっ、いや……その、八百里も美人だけど、あっちは大人の美人というか……。二人共八百里の知り合いなのか?」

「まぁ、そんなところじゃ。遠い昔の話じゃ」

 八百里は小さくうなずき、そんな八百里を見つめながら息吹がゆっくりと瞳を細めた。



 桜も終わり季節は初夏となり、いつもの様に穂高と八百里は部屋で緑茶を飲んでいた。

「そういえば今日の予定はまだ決めていなかったな、八百里。どこか行きたい所あるか? 前に息吹と約束したくずきりでも食いに行くか?」

「ふむ……くずきり、か。ならば『みのわ』じゃな」

「ああ、どうだ?」

 穂高の言葉に八百里が一瞬考える素振りを見せ、残念そうに首を横に振る。

「すまんが、ちと野暮用があってな、先に息吹と行っていてくれんかの? 間に合うようであればわしも混ざるとしよう」

「珍しいな、八百里が食事よりも他の事を優先するなんて」

「せっかくの穂高の誘いを断るのは忍びない。じゃが些事とて捨て置けぬ事があってな」

 八百里のいつになく真剣な様子に穂高はゆっくりと首を縦に振り、おもむろに八百里を後ろから抱きしめる。

「……なんか大変な事があったら俺を頼れよ? 昔はお前は一人だったかもしれないけど、今は俺がいる。いいな?」

「……ふふっ、そうじゃな。その言葉だけでわしは天にも昇る心持ちじゃ。穂高のこの温もり、魂の暖かさはわしを捉えて離さぬ。全く難儀なものよ」

 穂高の言葉に八百里が嬉しそうに瞳を閉じると、そのまま穂高の腕の中で消えていった。部屋に一人残された穂高は、何もない腕の中を眺めて小さく呟いた。

「まったく……嬉しいことを言ってくれるじゃねえか。……俺も頑張らないとな!」

 穂高は両手で頬を叩いて気合を入れると立ち上がり、部屋の窓を開く。初夏の清々しい風が室内を駆け抜け、穂高は大きく深呼吸をする。

「んー、今日もいい天気だ。さてと、飯でも食って息吹と街をぶらぶらするかな」

 穂高が体を伸ばしながらそう呟いた瞬間、窓の外より青い物体が部屋に飛び込み、そのまま穂高の腹に深々と突き刺さった。

「ぐふぅぇ……」

 穂高は声にならないうめき声をあげながら体をくの字に曲げて吹き飛び、壁にしたたかに打ち付けられた。穂高は衝撃に思わず顔をしかめるが、何とか呼吸を整えて顔をあげる。そこには穂高を押し倒す形で息吹が覆いかぶさっていた。

「おっ……大型犬の突進かよ……。八百里は毎日これを受けてんのか……」

「ほだか、ほだか! 大変なのです! すぐに来て欲しいのです!」

 かすれた声で呟く穂高をよそに、息吹が焦った表情で矢継ぎ早に語りだす。その様子にただならぬものを感じた穂高は真剣な表情で立ち上がる。

「どうした、息吹!? 何があった!」

「ツツジが……ツツジが大変なのです……。紫陽花も……」

 動揺した様子の息吹を前に、穂高は息吹の両肩に手を置いて落ち着かせるように語る。

「焦るな、大丈夫だ。まず何があったか教えてくれ。それは八百里と関係有ることか?」

「えっ、やおりさまが? ほだかは一体なんのことを言っているのですか?」

「違うのか?」

 穂高の言葉に息吹が不思議そうに首をかしげ、一方の穂高も息吹の様子から八百里は関わっていないことを理解する。

「これはほだかにしかお願いできないことなのです。お願いなのです、みんなを助けてあげて欲しいのです!」

 必死に穂高の服をつかんで懇願する息吹を前に、ただごとではないと判断した穂高は即座に上着を片手に家を飛び出した。

「それで! まずどこに行けばいい? 話は向かいながら聞くぜ!」

「まずは段葛だんかずらに行ってあげて欲しいのです」

「段葛か……分かった!」

 穂高は自転車に飛び乗るとそのまま勢い良く家の前の坂を駆け下りる。初夏の風が穂高の頬を撫で、空には雲ひとつ無い蒼穹が広がっていた。

 どこかで何かが割れる音がした。


 鎌倉の中心部には鶴岡八幡宮という大きな神社があり、段葛と呼ばれる参道がある。段葛にはツツジと桜が植わっており、それぞれの花の季節には参拝客を楽しませていた。

「やっほー、穂高くん。こんな所で合うなんて奇遇ね。まさか穂高くんもお花見……っていう柄でもないかな?」

「……棗か。お前こそこんな所でどうしたんだよ?」

 段葛に辿り着いた穂高が息吹に引っ張られながら先を急いでいると、前方から棗が手を振りながら近づいて来る。

「私はお父さんのお使い。もう終わって帰るところだけど。穂高くんは?」

 棗はそう言いながら、中身の入っていない布袋をひらひらとふって見せる。

「……野暮用だ。すまんがちょっと急いでる」

 穂高はそう言うと棗の横を通り過ぎる。その瞬間、穂高は服を引っ張られる感覚を覚えて足を止める。何事かと振り向けば、棗が穂高の服の裾を掴んでほほえんでいた。

「邪魔じゃなければ私も一緒していい? ちょうど暇だったの」

「暇ってお前……」

 穂高は困った表情で息吹に視線を送ると、息吹は無言で小さくうなずいた。

「分かった……ただ、ちょっといろいろ動くからな、覚悟しとけよ」

「本当にいいの? 冗談で言ったのに……ありがとう!」

 断られると思っていたのか棗は一瞬驚いた表情を見せ、穂高が小さくため息をつく。

「冗談で人の用事に混ざるなよ……ったく。まぁいい。行こうか」

「はぁい。でも行くって、どこに?」

「段葛だ」

「段葛ってここだよ? どこに行くの?」

 棗の言葉に返す答えを持たない穂高は無言で息吹を追いかけ、棗が慌ててそれに続く。

「これを見て欲しいのです、ほだか」

 息吹が突然立ち止まると、ツツジの植え込みを指差して悲しそうな表情を浮かべる。穂高も息吹の指差す方向に視線を送り、その光景に眉をひそめる。

「あら? ここのツツジだけお花が咲いてないのね……どうしてかしら?」

 追いついた棗がツツジの前にしゃがみこむと、不思議そうに首をかしげる。

「違う……咲いてないんじゃない。茎を見てみろ」

「茎って……これ! 全部切られてるじゃない!」

 棗が思わず立ち上がり穂高に向かって振り返るが、穂高は小さく首を横に振る。

「ああ……、どうやら被害はこの木だけじゃ無いみたいだな。周りのツツジも若い蕾が軒並み切られてやがる」

 穂高が切られた花茎を撫でながら、隣のツツジに視線を送る。この時期はツツジが満開になり、その花に惹かれた人々がこうして花を摘んでいくことは珍しくない。しかし目の前の光景はそれを遥かに逸脱していた。

 切られたツツジの茎を見つめながら、棗が小さく首をかしげる。

「つまり誰かがツツジを切ってるってこと? そんなにこの花が気に入ったのかしら?」

 棗の言葉に穂高が無言で首を縦に振る。その横で息吹が切られたツツジを撫でながら悲しそうに呟いた。

「たまにいるのです……。綺麗な花だから摘んで家に飾ろうって人が。でもそれくらいならツツジたちも喜んで人に花を捧げるのです。問題なのはそれが何回も続いてるということなのです。こんなに切られて……かわいそうなのです……」

「なるほど……よほど花にご執心なんだな、そいつは」

 穂高は落ち込む息吹を優しく撫でると、ツツジを見ながらゆっくりと瞳を閉じる。

「穂高くん? いきなりぶつぶつ言ってどうしたの?」

 棗が不思議そうに穂高を見つめるが穂高は答えない。穂高はツツジの前にしゃがみこむと、瞳を閉じ、ゆっくりとうなずいた。

「なるほど……犯人は子供、か。さて、どうしたもんかな。……ということは紫陽花の方も同じってことか、息吹?」

 穂高の言葉に息吹が無言でうなずき、穂高はゆっくりと立ち上がり来た道を引き返す。

「えっ? 穂高くん? どうしたの? どこに行くの?」

「話は後だ。とりあえず成就院に行くぞ」

「成就院? 極楽寺にあるあじさい寺のこと? 待って、私も行くわ」

 慌てて棗が穂高の後を追い、三人は成就院を目指す。棗が穂高の背中を見つめながら小さく呟いた。

「また、『いぶき』……ねぇ」


「こっちなのです、ほだか!」

 息吹が穂高の手を引き、足早に成就院の階段を上がっていく。一方の穂高は息吹と歩幅が合わないのか、時折足をもつれさせながら何とか着いて行く。

「ちょっと! 穂高くん、そんな歩き方じゃ危ないわよ!」

 見かねた棗が穂高の横に並び穂高の腕をつかむ。

「おっ……おう。すまねえ……っ!」

 棗に向かって礼を言った瞬間、穂高が頭に手を当てて小さく顔をしかめた。

「穂高くん?」

「最近……ってか、今月に入ってからか。たまにあるんだよ、いきなり頭が痛くなるのって」

「まぁ季節の変わり目だし、仕方ないわね……」

「おい待て、さりげなく俺を老人扱いするなよ」

「ふふっ……」

 抗議の声を上げる穂高を前に、棗が嬉しそうに笑い出す。

「ほだか、何をしているのですか。こっちです」

「おっ、おう……」

 息吹が動かない穂高を急かすように腕を引っ張り、穂高が慌ててそれに続く。息吹は階段を上がりきったところにある紫陽花の前で立ち止まった。

「ここか……なるほどな。ここも同じって訳か……」

「ちょ……と、穂高くん、いきなり行かないでよ。……って、なにこれ、ひどい……」

 穂高たちの目の前には段葛のツツジと同様、花茎を切り取られた紫陽花の姿があった。息吹が無言で紫陽花に触れると、悲しそうに呟いた。

「これでは紫陽花たちがあまりにも可哀想なのです……。私では……人を止めることはできません。だから穂高……」

「ああ……分かってる。ここからは俺が引き受けた。俺がなんとかしてやる!」

「……お願いなのです。ほだかだけが頼りなのです……」

 穂高は紫陽花を前に悲しそうにうつむく息吹の両肩に手を置くと、真っ直ぐにその瞳を見つめてうなずいた。

「穂高くん? さっきから思っていたのだけど、穂高くんって花が好きなの? 切られた花を前に、お前は俺が守る! みたいなことばっかり言ってるよね?」

「えっ? あっ?」

「穂高くんって昔からそういうところがあったけど、今になってもその植物に話しかける癖って変わってないんだなぁって思ってさ。別にそれが悪いとかじゃなくて」

 棗の言葉に我に返った穂高が慌てて周囲を見渡すと、そこには観光客と思しき老人たちが穂高を眺めて嬉しそうにほほえんでいた。

「花に向かって語りかけるとは、最近の若者にしては珍しいわね。優しい子なのね」

「何を言うか。男子たるもの、花を愛でるなど女々しいことこの上なく……」

「ママー、あのお兄ちゃん、紫陽花に向かってなんか喋ってるよー?」

「またあの子……これはもうストーカーに違いないわね。見つかる前に早く行きましょう!」

「ちくしょう……」

 穂高は棗の手を取るや逃げるようにその場を後にした。


「変な人だと思われたでしょうね。ひょっとしたらあの中に穂高くんのおじい様の知り合いもいたりして」

「やめてくれぇー!!」

 とある茶屋の座敷で棗がくず餅を頬張りながら呟き、一方の穂高は頭を抱えて机に突っ伏していた。その横では息吹が申し訳なさそうな表情で穂高の肩をさすっている。

「……ところでさっきから気になっていたんだけどさ、穂高くんって甘党だっけ?」

「ん? 何をいきなり。別に、言われる程甘党じゃねえよ」

「ふーん……?」

 穂高の言葉に、棗は穂高の目の前に置かれた二つの皿を見つめて小さく瞳を細める。

 棗には見えないが、穂高の横では息吹が目を輝かせながら目の前のくず餅を頬張っており、穂高はそんな息吹を眺めながら小さく口元をほころばせた。

「それでどうするの? まさか花を切った犯人を見つけるなんて言う気じゃないわよね?」

 棗が真剣な表情で穂高を見つめ、穂高はくず餅を頬張りながら首を縦に振る。

「もちろん犯人を見つけてやめさせるつもりだ。それがどうかしたか?」

「正気なの? 切ったのは観光客かもしれないし、仮にこの街に住んでいる人が犯人だとしても、またいつ来るかも分からない。そんな人をどうやって見つけるのよ?」

 棗は穂高の呑気な答えに驚いた様子で語気を強め、一方の穂高は首を横に振る。

「いや、犯人はこの街にいる。そしてまた来る」

「どうしてそんな事が分かるの? ……まさかそれって例の『いぶきさん』が言ってるの?」

 棗の言葉に思わず穂高の手が止まる。隣でくず餅を必死に食べていた息吹も驚いた様子で棗に向かって振り向いた。

「棗……お前?」

「穂高くんって子供の頃から突然木とかに話しかける癖があったでしょ? その頃から決まって同じ人の名前ばかり呟いてたのよ。やおりさんだっけ? あといぶきさん」

 穂高は棗を黙って見つめ、一方の息吹は嬉しそうな表情で穂高に抱きついた。

「そういえば子供の頃のほだかも気持ちよかったけど、大人になったほだかの抱き心地もなかなかなのです!」

「こっ、こら。ばか、棗が見てるだろ! それに空気を読め!」

 慌てて息吹を引き剥がす穂高を前に、棗が瞳を細めながら穂高を見つめて口を開く。

「ほら、今だって何も無いのにまるで誰かとじゃれあっているように見えるわよ、穂高くん。それとも本当にそこに誰かいるのかしらね? 神社の跡取りが悪霊に魅入られてるとかだったらさすがに笑えないわね……」

「ちっ、違うって。俺は別に霊にとり憑かれたりなんてしてねえって! それに、もしそうなら爺ちゃんが黙ってないだろ? ほら、俺の爺ちゃん、あれだから……」

「……確かに、それならお祖父様がとっくに祓ってるはずよね。まあいいわ。穂高くんが何を見ているのか分からないけど、悪いものじゃないならそれでいいの。ごめんね、気を悪くしちゃったかな? ……と、一口もーらい!」

 そう言うと棗は穂高の目の前に置かれたくず餅に手を伸ばす。

「……いや、大丈夫だ。それに俺が周りから変な目で見られるのにはもう慣れた」

 代わりに穂高が棗の皿に手を伸ばし、棗は小さくうなずくと穂高を見つめながら続ける。

「ふーん。息吹さんがいるというところは否定しないんだ? ……穂高くんってさ、実は何か隠してたりするのかな?」

 棗が穂高の皿を戻しながら口元を釣り上げる。

「棗……お前……」

 穂高が真剣な表情で真っ直ぐに棗を見つめ、一方の棗も穂高を見つめて視線を離さない。二人は無言で見つめ合い、徐々に二人の間に言いようのない緊張感が高まり始める。

「二人共見つめ合ってるからもうこれは食べないのですね。では息吹がいただくのです!」

 穂高が静止する間もなく、息吹が棗の目の前に置かれた食べかけのくず餅を食べ始める。

「あっ、こら! お前!」

「えっ……わ、私? いきなりどうしたの?」

 いきなり大声を出されて驚いたのか、棗が一瞬肩を震わせる。そんな棗の様子を露知らず、穂高は真剣な表情で棗に向かって真っ直ぐに向き直る。

「どっ、どうしたの? なんか穂高くん、ちょっと怖いよ」

「棗……」

 無言で棗に顔を近づける穂高に、棗は慌てた様子で思わず後ずさる。

「悪いのは俺じゃない。息吹だ! 以上。ではさらば!」

 穂高はそう言うや、ポケットから二人分にはあり余る額の硬貨を取り出すと無造作に机の上に置き、そのまま息吹の手を取ると店から逃げるように駆け出した。その場に一人残された棗は茫然とその光景を眺めていたが、我に返って慌てて状況を整理し始める。

「えっ、えっ? どういうこと? 穂高くん一体何を言ってるの? えっ?」

 棗が目の前に置かれたくず餅が全く味のしない無味乾燥な物体に成り下がっていることに気がつくのは、それからしばらく経ってからのことである。

「なにこれ……全く味がしない……くすん……」


**


「ふぅ……息吹のせいで変な汗をかいたぜ……。しかし参ったなぁ……俺が迂闊だったってのもあるけど、棗の奴、変な所で勘が鋭いんだよなぁ……」

「いぶきはおいしいくず餅がたくさん食べられて満足なのです!」

「お願いだから息吹は少し自重してくれ……頼む……」

 店を飛び出した穂高と息吹は近くの神社の境内に座っていた。目の前で行き交う参拝客を眺めながら、息吹が不思議そうに問いかける。

「どうしてほだかはあの人間から逃げるのですか?」

「お前らのことを説明するのが面倒なんだよ……。それに言った所であいつは信じないだろうしな。そうなったらあいつが納得するまで俺が説明しなきゃいけなくなる」

「さっきの人間はいぶきが見えない。人間は見えないものは信じられないのですか?」

「ほとんどの人はそうだろうなぁ……見えないものを信じるって意外に難しいんだよ」

「でも見えないものを信じられないなら、人は何故神社など作るのですか? 人が私たちを見えないならば、神など見えるはずもないでしょうに」

 息吹の問いに穂高が苦笑しながら空を見上げて呟いた。

「……見えないけど、それでもいるって信じてるんだ。いや、信じたいんだ」

「見えないのにですか?」

「そっ、見えないのに。信じることに意味がある。神様がいようがいまいが、ね」

「相変わらず人のことは良くわからないのです……」

 息吹は不思議そうに首をかしげ、穂高は苦笑しながら立ち上がる。

「俺だって分からねえよ。でも……俺はこうして息吹と、八百里と触れ合うことができる。俺の世界にはお前たちがいる。少なくとも俺はそれで十分さ」

 息吹は清々しい表情でたたずむ穂高の横顔を眺めると、嬉しそうに瞳を細める。

「ふふっ……それでこそほだかなのです。ではあの子たちのこと、お願いなのです。これ以上あの子たちをひどい目に遭わせないで欲しいのです」

「ああっ! 任せとけって。犯人を必ず見つけてやめさせるぞ」

「うん、頼りにしてるのです! ほだか」

 息吹はそう言や穂高に勢い良く抱きつき、穂高も優しく息吹の頭を撫でる。

 その瞬間、どこかで聞いた声が周囲に響き渡った。

「あー!! こんな所にいた!!」

「げっ……棗……。やばい、逃げるぞ、息吹」

「えっ? ちょっと、いきなりどうしたのですか、ほだか?」

 穂高が恐る恐る振り向くと、そこには息を切らせた様子で神社の入り口に立ち尽くす棗の姿があった。棗を見るや、穂高はその場から脱兎のごとく逃げ出した。

「こらー、なんで逃げるのよー! 待ちなさーい! 穂高くん!」


「はぁはぁ……何とか撒いたか……。あいつも結構しつこいからなぁ……」

 穂高は肩で大きく息をしながらふらふらと住宅地を歩いていた。穂高が大きくため息をつき、息吹はそんな穂高を見つめて苦笑する。

「さて、と。花を切った犯人の聞きこみでも開始しますかね」

「はいなのです!」

 二人はそのまま商店街を突っ切り、再び極楽寺の成就院へと足を運ぶ。

「おう! 穂高じゃねえか。今日はどうしたんだ?」

 商店街を歩いていると、どこからか威勢のよい声が響く。穂高はその声に心当たりがあるのか、嬉しそうに笑みを浮かべながら振り向いた。

宗源そうげんさん! 今日は店に出てるんですか?」

 穂高が振り向いた先には小さな店があり、その目の前に壮年の男性が立っていた。

「頼まれたものが打ち終わったしな。それよりもどうだ? 砂鉄は集まったのか?」

「はい! 塩抜きも終わって、今は干してある状態です」

「そうか……。まぁ、砂浜から採った砂鉄だからな、あまり出来は良くならねえと思うが、頑張ってみな。伸ばす時はうちを使わせてやるからよ」

「ありがとうございます! その時は工房をお借りしますね」

 穂高は深く頭を下げ、宗源も満足そうに穂高を眺めている。

「おお、そういえば、お前にやるものがあった。ちょっと来い」

「えっ、俺にですか?」

 宗源はそう言うや店の中に入り、穂高もそれに続く。店内にはところ狭しと刀が並び、その横にはのみかんなが置かれている。その光景に穂高が瞳を輝かせて食い入るように見入っており、息吹も物珍しそうに周囲を見つめていた。

「ほえー、相変わらずここは刃物ばかりなのです。しかも一部の物からは強い『想い』を感じます。あの親父、中々大した人間なのです」

「ああ……俺も宗源さんの打った刃物はすげえと思う。包丁とか他の物を使う気にならねえ」

 穂高が興奮した様子で店内を眺めていると、奥から宗源が脇に何かを抱えながら現れた。宗源は布で撒かれた包みを開いていき、中から古い木箱が現れる。

「納屋を掃除してたらこれを見つけてよ。お前が持っていた方が良いだろうと思ってな」

「これは……って、重い!」

 宗源が無造作に木箱を穂高に手渡し、それを受け取った穂高は思わずその重さによろめいた。穂高はおそるおそる木箱を開き、次の瞬間、驚きの声をあげる。

「これって……内曇うちぐもり? じゃあこの黒いのは……まさか黒名倉くろなぐら? それにこの大きさ……すげえ……」

「へぇー、砥石じゃないですか。良かったですね、ほだか」

 穂高が感動した様子で手にした砥石を撫で、その横で息吹が穂高にほほえみかける。穂高は感動のためか、その体は小刻みに震えており、そんな穂高の様子に宗源が大きく笑う。

「はははっ、驚いたか。俺も驚いたぜ、まさかうちにこんな上物があるとは思わなかったからな。せいぜい励めよ、穂高」

「本当にいいんですか? これ……特にこんなに大きい黒名倉なんて今じゃほとんど手に入らないんじゃ……」

 不安そうに宗源を見上げる穂高をよそに、宗源は笑いながら首を横に振る。

「気にすんな。俺が刃物を打ち、お前が研ぐ。問題ねえだろ。代わりと言っちゃなんだが、たまに研ぎを頼まれてくんねえか?」

「喜んで!」

 感動のあまり、穂高が深く礼をする。そんな穂高を見て宗源が小さく呟いた。

「なぁ穂高、お前……棗とどうなんだ? 俺は俺の跡を継げるのはお前だけだと思ってる。お前んとこの常環ときわじいさんには悪いけどな」

「はははっ、それは魅力的なお誘いですが、さすがに俺なんかじゃ棗に悪いですよ。じいちゃんの跡も継がなきゃいけないし……」

「なら神職をやりながらうちも継げばいいじゃねえか。俺の全てをお前に伝えてやる。だからうちに婿に来い!」

「えっ、えーと……」

「ただいまー……って! 穂高くん発見!!」

 有無を言わさぬ宗源の言葉に気圧されたのか思わず穂高が後ずさる。その瞬間、店の扉が勢い良く開き、棗が驚いた様子で穂高を見つめていた。


「ごめんね、うちのお父さん、また変なこと言って困らせちゃったでしょ?」

「ははっ……。まっ、まあ、宗源さんにはいつもお世話になってるから別に……」

 棗は苦笑する穂高を眺めると小さくため息をつく。

「気にしないでね。いくら幼なじみでも、結婚とか、そういうの私は別に考えてないから」

「ああ……」

 店の軒下で穂高と棗はお互い気まずいのか、黙って行き交う人の往来を眺めていた。穂高は小さくため息をつくと、棗に向かってゆっくりと口を開く。

「あの、さ。昼のことなんだけど……」

「いいの」

「えっ?」

 穂高の言葉を遮るように棗が首を横に振る。穂高が驚いた様子で振り返ると、棗はほほえみながら穂高の手を握る。

「きっと穂高くんは私の知らない世界が視えている。でもね、こうして私は穂高くんの手を握れる。穂高くんはここにいるの。そして私もここにいる。それだけは忘れないでね」

「……棗?」

「……それじゃあ、また来週学校でね」

 棗は首を小さく横に振るとそのまま店の中に消えていった。その背中を見つめながら穂高が小さく呟いた。

「すまん……棗」


***


「ふむ……いろいろ大変だったようじゃな」

「はい! とても大変な一日だったのです!」

 その日の夕方、穂高の部屋で穂高と息吹が大まかに事情を説明すると、八百里は窓の外を眺めながら小さく呟いた。

「しかしツツジと紫陽花がのう……」

「ああ……だけど不思議なのは、紫陽花たちが言うにはそれをやったのは小さな男の子だって言うんだ。それも何度も。ツツジも同じような事を言ってた。花が欲しかったにしちゃ、ちょっとしつこすぎるなぁと思ってさ。八百里はどう思う?」

「さて……。だが年端の行かぬ子供が花を何度も摘むというのは少し気になるのう。じゃが、わしの思っている通りであればそう悪いようにはなるまいよ」

 穂高と息吹は八百里の言葉に一瞬顔を見合わせ、一方の八百里は穂高の膝の上で幸せそうに茶をすすっている。

「ところで穂高よ、面白いものを持っているな。それはどうしたのじゃ?」

 八百里が机の上に無造作に置かれた布包を眺めながら問いかける。

「おっ? それを聞くか? 聞いちゃうか? これはな……」

 どうやら砥石をもらって嬉しくて仕方なかったのか、穂高が八百里を膝から下ろすと、にやけながら机の上の布包を抱きかかえる。その様子に嫌な予感を覚えた八百里は咄嗟に息吹に向かって視線を送る。

「……息吹」

「はいなのです! ほだかはいつもの親父の所に行って、砥石をもらってきたのです。 それでほだかはにやにやしているのです。ちょっと気持ち悪いのです!」

「ちょっ、息吹……お前、これから俺が熱く語るシーンを持っていくな!」

「だってほだかが砥石とか刀剣とかを語るとものすごーく長くなるから嫌なのです」

 息吹の言葉に八百里がゆっくりと瞳を閉じ、僅かに口元をほころばせる。

「なるほどのう……。どうやらかなり古い物の様じゃな。ふふっ……それでついでに婿に来いと誘われたか。なかなかどうして、あの親父も見どころがある」

「ちょっと待て! 何故お前がそれを知って……って、まさか砥石の記憶か」

「くくく……そんなに慌ててどうしたのじゃ? それともわしに知られては都合の悪い事でもあるのかの?」

 八百里はいたずらっぽくほほえみ、それを見た穂高は慌てた様子で首を横に振る。

「ちっ、違うぞ。俺はやましい事なんてなにもしていないぞ!」

「ふふっ……分かっておるよ。からかっただけじゃ」

「というか、どうせ八百里のことだ。全部『視て』るんだろ? 花を切った犯人もさ」

 穂高の言葉に八百里がわずかに口元をつり上げて、楽しそうに笑う。

「さて……どうかのう……。それよりもわしはくず餅を食いたいぞ」

「へいへい……」

 八百里はそう言いながら穂高の背中をよじのぼり、一方の穂高は小さくため息をつきながら二番茶を淹れた。

「そういえば八百里は今日絶対来ると思っていたけど、案外時間がかかったな。大丈夫か?」

「野暮用と申したのに敢えてそれを聞くか、穂高よ? 野暮な男は嫌われるぞ?」

「そっ、そうだな。でもちょっと気になってさ」

「ふふっ……このわしを心配してくれたのか? 大地の意志の化身たるこのわしを」

 八百里は穂高に後ろから抱きつきながら、その耳元で怪しく囁いた。その瞬間、穂高が一瞬肩を震わせる。八百里はそんな穂高の様子に小さく笑みを浮かべると、ゆっくりと穂高から離れその前に立つ。八百里は優しく穂高の頬を撫でながら瞳を細めて呟いた。

「まさかわしが人に心配される日が来るとはのう……。死も、生も、時も、その全てを超えたこのわしを、脆弱な人が……」

「やっ、八百里?」

 八百里の瞳は幼い外見と不釣り合いな程に妖艶な輝きを宿し、その光景に穂高は小さく息を呑む。八百里の指が穂高の頬から首に向かって怪しく滑り、穂高の体が一瞬小さく震える。

「他でもない穂高がわしを想ってくれておる。再びこのような日が訪れようとは夢にも思わなんだ。……これもまた因果か」

「えっ? はっ、はい。光栄です!」

「ほだか……何を言っているのかよく分からないのです……」

 緊張のためか、耳まで赤く染まった穂高が畏まって意味不明なことを呟き、その様子に息吹がため息をつく。

「やおりさまもあまりほだかをからかっては駄目なのです。こう見えてもほだかはまだまだ青い小僧なのです」

「ふむ、それもそうじゃな。ちと穂高には刺激が強かったかのう?」

 その瞬間、八百里の纏う気配が変わり、穂高は自分がからかわれていたことを理解した。

「おっ、お前ら……純情な高校生を弄びやがって! ゆっ、許せねえ!」

「くくくっ……照れた穂高もなかなかに可愛らしいのう」

「うぷぷぷっ、ほだかちゃんはおむつが取れただけで、まだまだほだかちゃんなのです」

 いきり立つ穂高をよそに、二人は腹を抱えて笑っている。その光景を前に勝ち目が無いと判断したのか、穂高は力なくそのまま座布団に向かって倒れこむ。それを見るや八百里が穂高の上に覆いかぶさり、耳元で小さくささやいた。

「じゃが……わしはそんな穂高の気遣いを嬉しく思うぞ」

「ふっ、ふん。今更優しく言ったって俺の傷ついた心は治らねえぜ!」

 穂高は座布団に顔を埋めたまま呟き、そんな穂高を前に八百里は小さくほほえんだ。

 その後、穂高は布団に飛び込むとふて寝をし、程なくして小さな寝息を立てる。そんな穂高を横目に息吹が八百里に向かって問いかける。

「ところでやおりさま。本当のところ……今日はどうなされたのですか?」

「どう……とは、どういう意味じゃ?」

「やおりさまはほだかの話をごまかしました。いぶきには分かります。それに最近やおりさまは笑っていないのです……」

「ふふっ……息吹には隠せんか……」

 八百里は息吹の視線を真っ直ぐに受け止めると、静かに呟いた。

「街に瘴気がにじみ出ておる」

 再びどこかで何かが割れる音がした。


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