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プロローグ
遥か神代の時代、人は滝壺の泡の声を聞いていたという。
この世界に存在する森羅万象すべてに魂が宿り、人は彼らの声を聞いていた。
音はなくとも良く響き、風はなくとも良く薫る。
遥か神代の時代、人は滝壺の泡の声を聞いていたという。
この世界に存在する森羅万象すべてに魂が宿り、人は彼らの声を聞いていた。
音はなくとも良く響き、風はなくとも良く薫る。
「味がしない……」
満開の桜の下で弁当箱を広げて空をあおぐ。
強い風が吹き抜け、風に乗った遅咲きの山桜の花びらが花吹雪となって降り注ぐ
音も無くはらはらと舞い降りる花吹雪を前に思わず笑みが溢れた。
「みんなあの時のままだ。あの景色は今ここにある。ならきっと……」
『世界』はこんなにも近く、彼らの声に耳を傾ければそれはきっと聴こえる。これはそんな人と人の傍らに在り続ける存在たちの物語。