第2夜 夜の街
目覚めると、私は椅子に座っていた。
窓を除くと夜の街が眼下に広がっていた。
どうやらここは飛行機の中らしい。なぜこんなことになっているのかは理解できないが、おそらく私はまた繰り返したのだろう。
とにかく今は現状を確かめることが重要だ。
飛行機はそろそろ着陸するようだ。
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人気を感じない空港を抜け、夜の街に出る。
ここが何処かは知らないが、立ち並ぶビルや街を歩く人の多さから察するにそれなりの都市であることは伺えた。
左右に並ぶ建物といいすれ違う通行人の顔といい、夢の中にしては随分はっきりと見ることができる。
すると、ふと、ある疑問が浮かんだ。そういえばこれは誰の夢なのだろうか?私の知らない景色である以上、私の夢でないことは確かだ。とすると私は誰かの夢に入り込んでいることになるのだろうか…。
分からないことを無駄に考えるのはやめよう。と、疑問を無かったことにして、これからどうするかを考える。
「街の人と喋れたり…するのかな。」
考えながら歩いている内に街の中心らしきところに辿り着いた。夜の街にしては少し人が多すぎないかと困惑していると、その人混みの中に、異端を見つけた。
吸い込まれるような真っ黒な長髪に、消えてしまわないかと言わんばかりの白い肌に黒い服を纏ったその女性はまるで不幸を呼ばない黒猫のようだった。
その女性は過ぎゆく通行人に何か質問をしては残念そうな表情を浮かべていた。当然私もその例外では無かった。いや、その女性にとっては私こそ、唯一の例外であったのかもしれないが。
「あの……。」
「どうかなさいましたか?」
さっきから見ていたことは言えず、初対面のように振る舞う。
「実は、どうしても見つけたい人がいて、探しているんですけど…。」
「お困りなら、私も一緒に探しましょうか?どんな方なんです?」
「いえ、そんなことは…ただ、一つだけ質問に答えていただきたいんです…。」
「私に答えられることなら。」
「もしこの街が誰かの夢で出来ていたとしたら、どう思います?」
なぜ、今の今まで気づけなかったのだろうか。
彼女の優しい顔の裏に潜む殺気に。
「誰かの…夢…?なんの…話…」
動揺が隠しきれない。彼女が一体何者なのかを必死に考える。
だが、もう、遅い。
「やっぱり、貴女が正解り。少し…お話しましょうか…。」
逃げられない。彼女の目は既に近くの路地裏に向いているが、少しでも逃走の素振りを見せようものなら、何が起きるか分かったものではない。
言われるがままに路地裏に向かう。
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「いくつか、質問いいかしら。」
「貴女、名前は…?」
「江島 麻衣…です…。」
偽名を名乗るメリットは無い。無駄な嘘はすぐに見抜かれる。
「マイ…ね…。」
「あの…!」
こちらも聞いておくべきことがある。
「何かしら。」
「あなたは…一体、何者なんですか?」
「そういえば、まだ名乗っていなかったわね。私は八上 千鶴。」
「八上…千鶴…。」
この状況で彼女の名前など何の意味も持たないが、もしこの状況から逃げ切れたとしたら、この情報は重要だ。
「それじゃあ、質問を続けるわね。」
「貴女、どこまで知っているの?」
何も知らない。だがー
「何も知らない、そうでしょう?」
「!」
「そうね、ごめんなさい。今はまだ戻ったばかり。」
八上もこの世界が繰り返していることを知っている。私以上に。
「けど…残念。あの人には悪いけど、今回はここでBADENDよ。」
気がつけば、八上の手には2メートルはありそうな巨大な赤い三叉槍が握られていた。
この狭い路地裏で逃げ切ることなんて出来ない。分かってはいたが、いざそれが目の前で起こると、足がすくんで動けなくなる。
赤槍の三つに分かれた先端が月の光に反射してギラリと光る。
(もう少し頑張れると思ったんだけどな…。)
「ようやく見つけたぜ、八上!」
そして、夜の街に光が差す。