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14話「国王の依頼①」


 「城の王室まで繋ぐことは出来ますか? 」


 「もちろん、技術的な面では出来ます。……しかし、勝手に実行するとなると…………。」


 「私も不本意ですが……しかしこの件は、国王直々のことなんです。今すぐに実行して下さい。」


 俺の前では、さっきまで泣き崩れていた鎧女が内門の手前に立っている紺色のローブを着た男と何か揉めている。俺は、少し離れた場所の壁に手錠の鎖をくくり付けられているので、身動きが取れない。内容は聞こえるが、理解ができなかった。あと、俺の視界には今までは見えなかった2人の周りを漂っているオーラのようなものが見える。ローブの男の方からは青色の煙のようなものが、鎧女の方はさっきから少しずつ減ってきているが紫色の光のようなものが見えた。


 「おいリヴ、起きてるよな? このオーラみたいなやつって、何なの? リヴと契約してから見えるようになったんだけど」


 俺は、話している2人にゆっくりと背を向けて、リヴに小声で問いかけるが返事がない。何故だろう、檻を壊してからリヴの気配はプッツリと消えているのだ。何度か話しかけているのだが何も返って来ない。何か理由があるのだとは思うが、返事がないだけで少しだけだが不安になる。俺は体の向きを2人の方に戻し、話を聞くことに専念した。2人との距離は結構離れているが、鮮明に聞こえてくる。これもリヴの影響なのだろう。


 「……えっと、申し訳ございません。まだこの部隊に所属してから、そう時間が経ってない素人でして……。えーっと、一応緊急事態の対応の場合は…………」


 男はオボついた口調でそう言うと、ローブの内側から広辞苑よりは少し薄いサイズの本を出してパラパラとめくり出す。乾いて固まっているので、さっきよりは迫力はないが、流石に血だらけの鎧を着た人が話しかけてくるのは、素人じゃなくても誰だって怖い。


 「全ての牢獄における緊急事態の対応:第一章第一項目『権位が国王・騎士団長・研究長の場合は直ちに対応すること。各地区のギルド長の場合は一度情報提供を求める。通常と異なり、国王・騎士団長・研究長から許可書を貰う必要はない』この状況ではこれが適応されると思います。」


 鎧女はそう言うと、後頭部側に手を掛けて兜を取り出す。すると、兜に持ち上げられた透き通る赤色の長髪は、肩甲骨あたりを隠すように揺れる。開かれた翠眼は、少し吊り気味にも関わらず大きく、曇天に閃く光のように真っ直ぐで力強い。横顔しか見えないし、顔に何滴か血がついているが、その血さえも美しく見える顔立ちだ。目の下あたりは、ほんのりと赤みがかっていて少しだけ腫れている。全体的に見ると、年齢は俺よりも1つか2つ年上だろうか。

 俺は、驚きを隠せなかった。と言うよりも、あまりの綺麗さに作品を見るように見入ってしまった。ヒースが鎧を取った時と感覚が同じだ。鎧とのギャップだろうか、それとも俺が会う人がみんな綺麗なだけだろうか。俺は手が不自由な状態なので、できる範囲で頭を抱える。


 「そして私は、ひと月程前から騎士団長を務めている、レン・マリヴァンです。……お願いできますか?」


 俺の口は、顎が外れたかのように大きく開く。彼女の前にいる男も、俺と同じく大きく口を開けていた。確かに、リヴが《今の俺らよりも全然強い。》と言っていたし、防御力SSSなのに骨が折れるほどの力を持っているから、納得できないことはない。しかし、俺が想像していた騎士団長は、3〜40代くらいの筋肉質なおじさんだ。こんな細身の若い女性じゃない。

 俺は我に返り、だらしなく開いた口をすぐさま閉める。そして、再び会話に耳を傾ける。


 「も、申し訳ございませんでした! まだこの職に就いたばかりな者で……。」


 「大丈夫です、私もまだ未熟者ですので。……それでは、準備をお願い出来ますか? 私は、その間に彼を連れてきます。」


 そう言うと、彼女は物凄い角度で頭を下げる男に背を向けてこちらへ向かってくる。さっきまで見えていた紫色の光は消え、目の下の腫れも引いていた。俺は近づいてくる彼女を見て無意識のうちに背筋を伸ばす。彼女は俺の前で止まり、俺の顔を睨みつける。顔が見えるだけで消えると思っていた恐怖心は消えず、額から一滴の汗が滴る。


 「えっと……、もう痛い目にあいたくないので、大人しくついて行きますよ? 」


 ドゴッ!


 俺が、彼女に無理矢理笑顔をつくって争いを避けようとする。しかし彼女は、俺の言葉を聞く耳を持たずに左脇に抱えていた兜を前後逆にして思いっきり俺の頭にはめた。俺の頭は、大きい訳ではないが彼女の頭が小さいので、呼吸はできるものの、つむじ辺りへ負荷がかかる。さらに兜が前後逆なので、少しの光は入るが周りの様子が見えない。


 「貴方は黙ってついて来て下さい。国王が何を考えているのか分かりませんが、今生きていることを幸運に思って下さいよ。」


 そう言うと、彼女は俺の腕の鎖を引っ張る。さっきことをかなり引きずっているのか、明らかに最初の対応とは変わっていた。俺は、彼女の行動に対して抵抗せずについて行く。すると、歩くうちに正面の方から風を感じる。すると、その風が吹く方向からは魔法を唱えるようなローブの男の声が聞こえ、さらには目は見えないが巨大なオーラみたいなものを感じる。それらは次第に大きくなり、俺が足を止めた時には、俺の体が包み込まれるくらいの大きさになった。俺は嫌な想像をしてしまい、ゴクリと唾を飲み込む。


 「準備が完了しました。」


 「ありがとうございます。……では、あなたに先に行ってもらいましょう。」


 2人の会話が終了した時、彼女は鎖から手を離す。


 「えっ? 俺が先ですk」


 俺の彼女に対する質問は、言い切る前に背中を押され俺は一歩前に出る。しかし、俺の足は地面につかなかった。俺は、その急な出来事に対応できず、バランスを崩す。今まで放出されていた風は、俺が足を踏み外すと同時に風向が変わり、下向きに俺の体を引き寄せた。そして、ローブの男と彼女のその直後の会話が、俺の耳に入る。彼女の意味深な声色も。


 「何をやってるんですか! 騎士団長! この魔法は上下です! 上下に繋ぐんですよ! 」


 「大丈夫です。……彼は強いですから。」





 

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