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おしゃべりカラスとガラクタの町  作者: しろながすしらす
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第9話 ミレニアムジャンボパフェ

 テーブルに置かれたボタンを押すとフリフリのついた民族衣装みたいな格好をした店員が来た。


「ミレニアムジャンボパフェを一つ」


 ミッキーが男らしい声で注文する。


「ほ、本当によろしいのですか?」


 店員が確認するように蓮たちを見た。

 蓮と零はミッキーを見て無言でコクリっとうなづいた。


「構わない」


「かしこまりました。準備するのに30分ほどお時間をいただきますがよろしいでしょうか?」


 ミッキーは目をつぶり無言でうなづく。その寡黙で堂々とした振る舞いはまるで戦前の武将のようだ。

 作るのに30分もかかるのか、これは想像していたより手ごわい相手なのかも知れない。

 だが、戦いの火蓋は切られた。

 蓮は覚悟を決めた。


 ミレニアムジャンボパフェが来るまでまだ時間があるので蓮は例の星林高校事件について零に聞くことにした。


「零くんは何で転校して来たんだ?」


 零がミッキーの質問に答える前に蓮は確認するように口を開いた。


「例の星林高校の事件が原因か?」


「うん、まあそんな感じかな。学校に残る人も多くいたけど、僕みたいに別の高校に通う人も何人かいたよ」


「星林高校?」


 ミッキーが不思議そうに顎を触りながら、「あっ」と思い出したように手をポンっと叩く。


「星林高校ってあれか、ニュースでやってた謎の火災事件のことか! なんか聞いたことあると思ってたんだよ」


「火災事件の日はどんな感じだった? 何か変わったことはなかったか?」


 蓮が問う。


「うーん、あの日は何かおかしかったよ。クラス一つが燃えるほどの火災なのに誰一人異常に気づかなかったんだ」


 零はコップの水を一口つけると話を続けた。


「それに、普通火災が発生したら大声を出したり、助けを呼ぶなりするでしょ? だけどそういうのは一切なかった。それにもっと不思議なことがあるんだ。その火災があったクラスは僕のクラスから少し離れた同じ階にあるんだけど火災の前兆が全くなかったんだ」


 ミッキは神妙な面持ちで零の話を聞いていた。


「こう言ったら変かも知れないけど、まるで時間が消し飛んだみたいな感じがしたんだ。火が燃え移る過程がなかったから誰一人気がつくことが出来なかった。そう考えると少し納得できたよ。火元は不明だし、そもそも人間が放火したというより自然現象って感じがしたよ」


「閉鎖空間のことは現実ではほんの一瞬の出来事なのでそう思っても仕方がないのです」


 さっきまで蓮の肩に乗りウトウトして頭を何度もコクコクっと動かしていたシロはいつの間にか目をさましていた。

 蓮が閉鎖空間で感じたあの時の長い時間は現実世界では一瞬にしか満たない。

 そのことには薄々気が付いていた。蓮が知りたいのはそこではなかった。


「学校内に不審な人物はいなかったのか?」


「学校の生徒や教師以外ってこと?」


 蓮は無言でうなづく。


「いないと思う。不審な人を見かけたって情報はないし、よっぽどのことがない限り関係者以外は入らないと思うよ」


 関係者以外立ち寄れないとなると、犯人は星林高校の関係者か? それとも目には見えない何かか……


「その火災があったクラスに大きな悩みというか、問題を抱えた生徒は?」


「うーんどうだろ? 恥ずかしい話僕はあまり友達がいないし、そのクラスとはほとんど交流がなかったからよくわからないや。どうしてそんなこと気にするの?」


「あっいや、もしかしたら虐めが原因でクラスを巻き込むほどの復習でもしようとした奴がいたのかなと思って」


 レプシードのことについて話しても信じてもらえると思えないし、混乱を招くだけかも知れない。それに下手に話してこの二人を事件に巻き込みたくない。


 蓮はこの事は事情を知っている柊としか話さないことに決めていた。


「うーん、でもやっぱり人間がやったとは思えなかったなぁ」


「そっか、変な事聞いて悪かったな」


「零くんも友達が少なかったのか。意外だな。こんなにいい子なのに」


 ミッキーがしみじみとした様子で腕を組んでいる。

 蓮は零が友達が少ない理由がわかる気がした。穏やかで優しそうな雰囲気をしていて一見話しやすそうに見える。しかし、零は人見知りの気があるのか人と話す時は本音ではなくどこか距離を置いて話しているような気がした。


「うん、話す人は普通にいるけど、こうやってみんなで出かけたりする事はなかったかな」


「そうか。なら俺たちは今日から親友だ。仲良くやろうぜ!」


「うん。今日は誘ってくれて本当にありがとう」


 零は嬉しそうに笑った。

 蓮はその微笑ましいやりとりを見て少し心が温かくなった。

 しかし、その温かい空気をぶち壊すように奴は姿を現した。


「お待たせしました。こちらがミレニアムジャンボパフェになります」


 店員が二人がかりで腕をぷるぷるさせながらそれをテーブルに置いた。


「おいおいまじかよ」


「あれ? おかしいな想像したよりだいぶ大きいぞ」


「すごいね……」


 想定外の大きさに零が乾いた笑みを浮かべた。

 たぶん、1メートル近くはあろう大きなアイスのタワーには黒、赤、茶色3色のソースがかけられていて、果物やクッキーがこれでもかというくらい盛り付けられている。

 想像していたより1.5倍は大きい。


「準備はいいですか?」


 店員がストップウォッチを手に取り蓮たちに確認する。

 蓮たちは互いに目を合わせると無言でうなづいた。

 きっと以心伝心とはこの事だろう。


「それではスタート!」


 蓮逹はそれぞれ小さな器にパフェを移し食べ始めた。





 15分後。


「もう無理だ。俺の分まで頼んだぜ」


 弱音を吐いたミッキーがテーブルに突っ伏す。


「ふざけんな、てめぇあれだけ大口叩いといて早々グロッキーになってんじゃねぇ!」


「儚く散りゆく、それもまた男か……」


 グロッキーが意味不明なことを呟く。


「お前ほんとぶっ飛ばすぞ! てか全然食ってないじゃねぇかお前多めに見積もっても3人前くらいしか食ってないからな!?」


 一丁前にでかい図体しているくせにこの体たらく、喉元を通過するアイスを含めて二重の意味で頭痛が蓮を襲った。

 マジ使えねぇこいつ。


「蓮、俺はどうやら少食だったようだ。これ以上食べたら、胃の中にあるスイーツ逹が滝登りをしそうだ」


「絶対吐くなよ!? いろんな意味で俺たち目立ってんだからな」


 グロッキーは使い物にならない。

 ここは零と一緒に頑張るしかない。

 蓮はふと零を見た。

 顔色は青く、アイスを乗っけたスプーンは小刻みに震えている。


「大丈夫か零?」


「大丈夫、まだ何とかいけるよ」


 零が虚ろな目で答える。


「本当に大丈夫か? 無理するなよ」


「うん、男には引けない時がある。だよね?」


「そうだな、頼りにしてるぜ」


 蓮は同意すると、アイスに食らいついた。

 最初は美味しく感じたパフェもここまでくると苦行でしかない。

 味はただひたすらに甘く、その冷たさは蓮の体温を奪い、早く食べれば食べるほどにその冷たさは頭痛となって蓮に牙を剥く。

 絶対早食いしていはいけない類のものであることだけは確かだった。


「すまない、俺も微力ながら援護するぜ」


 そう言うとグロッキーは白い魔物にまとわり付くさくらんぼを食べ始めた。

 本当に微力だな、おい!


「何ですかこの食べ物は! とても甘くて美味しいのです」


 シロは美味しそうにパフェ本体を突っついている。

 こいつが普通にパフェ食ってるけど周りの人間にはどう見えるのだろうか?

 勝手に消えていくように見えるのだろうか?

 それはそれでまずいような気がしたが今はそんなことどうでもいい。

 猫の、いやカラスの手を借りたいくらいの緊急事態なのだ。

 少なくとも、今のグロッキーよりは遥かに戦力になる。




 20分後。

 空間を支配していたのは無だった。

 そこには嬉しさもなければ、悲しさもない。

 蓮と零は無言で目の前の敵と戦う。

 蓮はふと思った。

 自分たちは何しにきたのだろう?

 

 


 28分後。

 巨大な器に盛られたスイーツ逹は消失し、残るは蓮と零の器に残る一人前ほどの量だけだった。

 蓮と零は無言で目の前の物を口に運ぶ。

 一言も発さず、機械のように無機質な動きでそれを口にと運び続ける。

 グロッキーはさっきからテーブルに突っ伏したまま動かない。

 せめてもの情けだ。ことが終わったら救急車を呼んであげよう。




 30分後。

 終わりの時が来た。


「終わった……」


「僕しばらく甘いものは見たくないかも……」


「お前ら良くやった! 俺は信じてたぞ! お前逹は男の中の男だ!」


 蓮と零はどうにか時間内にミレニアムジャンボパフェを完食した。


「おめでとうございます! 30分以内に完食したので無料とさせていただきます。凄いですよお客さん! ミレニアムジャンボパフェ完食したのはお客さんが初ですよ!」


 店員が興奮したように話すと同時に、店内に拍手喝采が起こった。

 何だか少し恥ずかしい。


「記念に写真を撮りましょうか?」


「はい、お願いします!」


 ミッキーが即答した。

 蓮たちは3人で写真を撮った。どうやら写真は店に飾られるらしい。

 蓮は写真の出来を確認する。そこには満面の笑みを浮かべ蓮と零と肩を組むミッキーが写っている。

 戦いですっかり体力を消耗しきった蓮と零は口角こそ上がっていたが目は笑っていなかった。

 こんな写真本当に店に飾っていいのだろうか?


「すみません、動いたらリバースしそうなのでもう少しここにいてもいいですか?」


 店員は蓮のお願いに軽く応じてくれた。


「それにしても零お前以外に食えるんだな、正直零がいなかったら無理だったよ」


 零は華奢な体からは想像もつかない量のパフェを胃に流し込んでいた。きっと半分近くは食べていたはずだ。


「必死だったからね。それに、食べ始めた時に気づいたんだ。財布を家に忘れたことに……」


「何だそんなこと心配しなく良かったのに、万が一失敗したらミッキーに全部支払ってもらうつもりだったし」


「いや、全部俺が払うのかよ!?」


「当たり前だろ! お前全然食ってなかったじゃねぇか!」


「あはは、何がともあれ達成できて良かったよ」


「いやー、今日は本当に楽しかったぜ、また3人で集まろうな。あっそうだ!」


 ミッキーが何かを思い出したように蓮と零を見た。


「そういや、もうすぐ修学旅行じゃねえか! なぁ班決めは自由だし、俺ら一緒になろうぜ」


「うん、僕も蓮くんとミッキー以外に話せる友達いないし、喜んで!」


「ああ、そうだな」


 蓮逹は少し休んだ後、解散することにした。

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