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おしゃべりカラスとガラクタの町  作者: しろながすしらす
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第8話 転校生

「なあ、今日転校生が来るらしいぜ。知ってたか?」


 ミッキーが蓮の方を向いて言った。相変わらず人相が悪い。


「いや、知らん。初耳だな」


「俺も今さっき知ったんだけどよ。何かやけに周りがそわそわしてるから、聞き耳立ててたら転校生が来るんだとよ」


「へー、そうか」


「どんな奴が来るんだろうな?」


 ミッキーが期待に満ちた眼差しをしている。でもきっと転校生もミッキーには近づかないんだろうなと蓮は思ったが口に出さないことにした。


 教室の入り口の扉が開き、担任の教師が教室に入ってくる。

 教師は教壇に着くと「えーっと、このクラスに転校生が来ることになった。そういうことだからみんな仲良くやれよ」と適当に話すと「それじゃこっち来ていいよ」と扉の向こう側にいるであろう転校生を手招く動作をした。


 転校生が教室に入ると一瞬静寂が訪れた後、急にざわつき出した。

 正直、蓮は転校生にあまり興味がなかったが、転校生を見た蓮は一瞬自分の目を疑った。

 蓮と同じ制服を着ている。

 しかし、男子生徒の制服を着ている少年は蓮の目にはどう見ても女にしか見えなかった。

 少年は蓮よりわずかに身長が低く華奢な体つきをしている。肩まで伸びたサラサラの黒髪、大きな瞳にまだ幼さが残る可愛らしい顔立ちをしている。

 誰が見ても女にしか見えなかった。というか女子より女子らしい気さえする。


 少年は教壇の前に立ち小さくこほんっと咳をすると、


「星林高校から来た月影零つきかげ れいと言います。よろしくお願いします」


 柔和な笑みを浮かべ短く自己紹介をした。

 転校生が自己紹介を終えると、教師は空いている席を指差し座るよう促した。転校生は「はい」と短く答え席に着く。


 蓮のポケットが振動した。蓮はポケットからスマホを取り出した。

 相手は柊だ。


「ねえ、星林高校ってレプシードが関与してるかもしれない例の事件があったとこで間違いないよね?」


「ああ、聞いてみれば何かわかるかもしれない」


「任せた!」


「いや、人任せかよ!」


「私には大事な用事があるのです」


「シロ、口調で誤魔化すな」


 蓮は柊が重度の人見知りであることに薄々気づいていた。

 ある程度、心を開いた人間には普通に話せるのだが、それ以外の人間と関わると途端に無口になる。

 昔いじめられたトラウマ原因だと考えると少し切ない。

 蓮は自分以外にも柊に話せる友達ができることを密かに祈っていた。


「なあ、蓮あれって本当に男か!? いくら何でも可愛すぎない? 家に持って帰りたいんだけど」


 蓮はいつもの場所でミッキーと昼食を摂っていた。

 柊も誘ったのだが「お腹の調子が……」とだけ返信があった。絶対嘘だ。


「確かに女にしか見えないけどな。でも俺らと同じ制服着てるし男だろ。たぶん」


「ああ、女子より可愛い男って何だよ反則だろ! ああ、たまらん是非お近づきになりてぇぜ」


 完全にミッキーの可愛いもの好きスイッチが入っていた。


「そうだな、学校の帰りに誘ってみるか?」


 一番最初にレプシード事件が起きたと思われるところ、これは事件を解決する上で重要な手かがりになるかもしれない。


「グッドだぜ蓮!」


 ミッキーは親指を立てニカッと笑った。


「いやでも、俺あんな可愛い子に嫌われたら立ち直れない。やっぱやめようかな……」


 ミッキーは外見が原因で普通の友達がいなかった。

 勇気を持ってミッキーから話しかけようとするも、ミッキーの緊張を殺気と受け取られ逃げてしまう人がほとんどだった。 

 ガラの悪そうな連中がミッキーに近づいてくることはあるが、ミッキーは根が真面目で曲がったことが嫌いなため関わろうとはしなかった。


 そして、いつしかミッキーは友達を作るのに消極的になっていった。

 どうして世の中の人間は個人を知りもしないくせに、外見と周りが勝手に貼り付けたレッテルで人を判断しようとするのだろうか?


「まだわからないだろ、もし万が一嫌われたとしてもお前は何も悪いことしてないんだし気にすることない」


「そ、そうだよな蓮。それにあの子すごく優しそうだし。何とかなるよな?」


 ミッキーが不安を拭うように蓮に確認する。


「ああ、何とかなるって、ほらお前がこの前言ってたチョコレートパフェがうまい店行こうぜ」


「おお! 俺なんだか希望が湧いてきたよ」


 放課後。

 蓮は帰りの準備をしている転校生の方へと足を向けた。

 ミッキーは隠れるように蓮の後に続いた。


「なあ、ちょっといいか?」


「えっ?」 


 蓮の問いかけに転校生が振り返る。


「ちょっと話したいことがあるんだ。この後暇か?」


「えーっと」


 転校生は突然の出来事に少し困惑したような表情を浮かべた。


「いきなり悪いな。別に忙しかったらいいんだ」


「あ、ううん。いきなり話しかけられてちょっとびっくりしただけ。この後は特に用事ないし大丈夫だよ」


「そっか、良かった。こんなとこで話すのも何だし場所変えよう」


「うん」


 ミッキーおすすめの店に向かうため最寄駅から電車に乗り揺られること30分。

 駅を降り目的地まで徒歩で歩く。


「まさか、こんなにも早く友達ができるとは思わなかったよ。よろしくね蓮くん、後……」


 零は緊張してガチガチになったミッキーを見た。

 視線に気づいたミッキーは零を見ると、咳払いをし覚悟を決めたように喋り出す。


「俺は三木勝、蓮の友達だ。気安くミッキーって呼んでくれて構わないぜ。そ、そのよろしくな」


 緊張しているためかミッキーは故障したロボットのようにぎこちない。


「うん、よろしくね! ミッキーって可愛いあだ名だね」


 零が微笑むと、ミッキーは「ああっ」と声を漏らし膝から崩れ落ちた。


「えっ! ちょっと大丈夫!? どこか具合が悪いの?」


 零が心配そうにミッキーの顔を覗き込む。


「ああ、心配するな。ただ嬉しがってるだけだ」


 ミッキーは基本的に怖がって避けられることが多いため、好意的な対応に慣れていない。

 きっと、仲良くなりたいと思っていた相手に予想外の反応にノックアウトされただけだろう。

 その証拠に頰が緩んでいる。付き合いの長い蓮の目にははっきりとミッキーの嬉しさが伝わっていた。

 他の人にはどう見えるかは知らないが……


「そうは見えないけど!? 本当に大丈夫?」


「おお、悪い心配かけたな零くん。俺はこの通り正常だ」


 ミッキーはゆっくりと立ち上がると膝をガクガク痙攣させ、親指をグッと立てた。


「本当に? ならいいけど」


 雑談をしながら歩いていると、ミッキーイチオシの店に辿り着いた。


「何かおしゃれつうか、敷居の高そうな店だな」


 蓮が率直な感想を漏らす。

 レンガ造りのレトロな雰囲気の店は男同士で行くのは少し場違いな気がした。

 外からチラリと見える店内もいかにも女子ウケが良さそなふんわりとした雰囲気をしている。

 それに客層の大半は女子高女子や若い大学生だった。


「男だけだと少し入りづらいね」


 零が少し不安げな顔をしたが、こいつに限ってはそんな心配はまったくいらないだろう。


「いや、零は別に入ってもそんな違和感ないと思うぞ……」


「そうかな?」


「心配することはない。確かにメインの客層は女性だが男が入店しても法律上何の問題はない。それに俺は一人で何度か店に入ったことがあるがそんな怪しい目で見られなかったしな」


 それは、ただ目を合わせることができなかっただけじゃ……


「まあ、とりあえず中に入るとするか」


 蓮たちが店に入ると、若い女性が「いつも来店ありがとうございます」と笑顔を向けてくる。

 ミッキーお前常連だったのか。


 店員に席を案内され移動する。

 移動する途中ヒソヒソと小さな声で「ねぇ、見てあの子可愛くない? 本当に男の子?」「嘘、女の子にしか見えないんだけど、ていうか何でチョコレートヤクザと一緒にいるの!?」「訳ありじゃない? 弱み握られているとか」「可愛そう……」と噂している。


 蓮はありもしない話をしている女子逹を軽く睨むと女子逹は慌てて視線を逸らした。


 席に着くと、ミッキーはこの時を待っていたと言わんばかりに、メニューを開き、


「実はな3人でここに来たのはちょっと訳がある。なあこれに挑戦して見ないか?」


 ミッキーが一つのページを開いた。

 そこには巨大なパフェが写っていた。「ミレニアムジャンボパフェ」と書かれている。

 ぱっと見ただけでも10人前以上はありそうなアイスクリームの量に加えて、メロン、イチゴ、バナナ、サクランボなどの果実、色とりどりのクッキーがこれでもかとあちこちに散りばめられている。


 でかでかと映るパフェの下には30分以内に食べれば無料! 参加者は3人まで! ※時間内に完食できなかった場合は5000円支払っていただきます。と書かれていた。


「いや、待てさすがにこれは無理だろ。何人前あると思ってんだよ」


「僕もそう思う。それに冷たいものだとあまり早いペースで食べられないと思うし」


 零も蓮の意見に同意する。


「いや心配ない。さっきも言ったがこの店のメインの客層は女性だ。つまり写真ではすごい量に見えるが実際はそんなに大したことないのかも知れない。それにこっちは男が二人もいる。楽勝だろ?」


「あの僕は……」


 日本男児としてカウントされていない零が抗議するも、ミッキーは続けて熱弁する。


「いいか蓮、零くん、この勝負は勝ったも当然だ! 約束された勝利を目の前にして背を向けるわけにいかない。それに男には引けない時がある。それがまさに今だと思わないか?」


 違うと思う。

 少なくとも絶対に今ではない。

 しかし、新しい友達が出来てよっぽど嬉しかったのかこんなに元気のいいミッキーを久々に見た気がする。

 蓮はミッキーの友達祝いを込めて挑戦してもいいと思った。

 仮に完食できなかったとしても、割り勘で一人1600くらいで済む。

 そこまで痛い出費ではない。


「わかった。そこまで言うなら挑戦してもいい。零は大丈夫か?」


 蓮は零のお腹と財布の事情を確かめる。

 零は諦めたように、微笑むと、


「わかった。やってみよう! ミッキーの言う通りみんなでならきっと食べれるよ」


 こうして蓮逹は「ミレニアムジャンボパフェ」に挑戦することになった。

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