表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おしゃべりカラスとガラクタの町  作者: しろながすしらす
4/39

第4話 青の炎

 ズガンッという衝撃が頭を走った。

 まだ意識は続いている。体の感覚も残っている。

 蓮は自分がまだ生きていること確認するとゆっくりと瞼を開けた。


 そして、まず最初に自分の姿が変わっていることに気づいた。

 さっきまで学生服を着ていたはずだった。

 だけど、蓮はいつの間にか白い軍服のような格好に白いマントを羽織っていた。


「何これ!? だっさ!」


 蓮は一瞬危機的状況であることを忘れ嘆いた。 


「そんなことは今どうでもいいのです! 前! 前を見るのです!」

 

 銃になったカラスがそう言った時にはもう遅かった。

 気づけば蓮のすぐ目の前に巨大な火の玉が迫っていた。


「うわっ! やばい、死ぬっ!」


 回避が間に合わず蓮に火の玉が直撃する。


「うわあ、あっつ! え? 熱い?」


 蓮は自分で言っていておかしいと思った。

 人を跡形もなく焼き尽くすほどの業火に包まれて熱いですむわけがない。にも関わらず蓮は原型を留めている。


「何これ。どうなってんだ?」


「蓮! レプシードの胸の青い炎を撃つのです!」


「待ってくれ! でもあいつを倒したら、金髪の女の子は……」


「心配いらないのです! 蓮の力なら救うことが出来るのです」


「わ、わかった」


 蓮は魔女の心臓部に銃口を向けた。

 蓮は胸に燃え盛る青の炎がさっきより弱くなっていることに気づいた。

 その炎はまるで今にも燃え尽きそうな命の灯火に見えた。


 魔女は苦しそうに両手で首を絞めながら


「スケテ……、タスケ……テ」


 と叫んだ。


「ああ、今お前を救ってやる」


 蓮が引き金を引くと、銃口から放たれた白い閃光が魔女の心臓部を貫いた。

 左胸に空いた風穴から光が漏れ出し周囲の空間を激しく照らす。

 すると、周囲の空間を覆っていた闇にヒビが入りまるでガラスが割れるように空間が壊れた。


 そして、蓮の目の前には金髪の少女が魔女になる前の光景があった。

 あれ、何でこの場所に戻っているんだ?

 損壊したはずの町は元どおりになり、魔女の攻撃を受けて死んだはずの人間も全員無事だった。


 金髪の少女は意識を失って倒れていて、先ほどの3人組の女子高生が心配し体を支えていた。「ちょっとやばいって!」「早く救急車呼んで!」「私らのせいなのかな……」「今そんなこと言ってる場合じゃないっしょ」女子高生達が慌てた様子で揉めていると、金髪の少女がゆっくりと目を開けた。


「あれ? 私……」


 蓮は周囲を見渡している金髪少女と目が合った。

 金髪の少女は不思議そうに3秒ほど蓮の顔をじっと見つめた後、目をそらした。


「……これで良かったのか?」


 何が何だかよくわからないまま、蓮はぽつりと呟いた。


「よくやったのです蓮! やっぱり私の目に狂いはなかったのです」


 カラスは満足げに明るい声で言った。

 右手に持っていた銃はいつの間にかなくなり、代わりにカラスがいつものように蓮の肩に止まっていた。


 蓮は思い出したようにはっとして自分の体を見た。

 学生服を着ていたことに安心する。


「どうかしたのですか?」


「いや、あの格好のままだったらどうしようと思ってさ」


「とても似合っててカッコ良かったのです」


「馬鹿言え、職質もんだろ」


 緊張が解けて安心したためか、思わず笑みがこぼれた。

 蓮は少しだけカラスと心の距離が近くなった気がした。




「私も入れるのですー!」


「悪いな、うちの寮はペット禁止なんだ」


 家にたどり着いた蓮とカラスは揉めていた。


「ペットじゃないのです! 私はとっても偉いのですよ」


「そうか、それじゃあ」


 蓮は肩に止まっていたカラスをどかそうとするも、カラスも激しく抵抗する。

 カラスの爪が蓮の肩に食い込む。


「痛い、痛い、ちょっお前離せって!」


「放さないのです! 私も入れるのです。野宿は嫌なのですー!」


「うるせぇ、カラスが贅沢言うな!」


「ああ、ひどい! 私は蓮の命を救ってあげたのにこんな仕打ちあんまりなのです」


「それとこれは別の話だ。てか頼む今日は色々ありすぎて疲れてんだ」


「ひどいのです。飼育放棄で動物愛護団体に訴えてやるのです!」


「お前今自分がカラスだって認めたな! ていうかお前を飼った覚えはない!」


「入れるのですー!」


 數十分の格闘の末、蓮は諦めてカラスを部屋に入れることにした。

 蓮以外の人にはカラスが見えないのでルール違反で追い出されることはないだろう。

 自分にそう言い聞かすことにした。


「今日だけだからな」


「お腹空いたのです。食べ物はどこなのですか?」


「聞けよ。人の話」


 疲れ果てすっかり気力を失った蓮はカップ麺にお湯を入れテーブルに置くと近くのソファーに腰掛けた。

 カラスは皿の上に置いてあるドーナッツをクチバシで突っついたり、足を使い器用に食べていた。


「まさか、人があんな化け物になるなんて思わなかったよ」


「大きな負の感情を抱えているものはレプシードになりやすいのです」


「なるほどね。てことは、あの子も色々複雑な事情があったのか。そう言えばさっきのよく分からないあの黒いモヤモヤした空間は何だったんだ? 死んだはずの人も普通に生き返ってたし……」


「あれは閉鎖空間なのです」


「さっきもそんなこと言ってたな。何だよ閉鎖空間って?」


「うーん。ちょっと説明しにくいのです。閉鎖空間とは人の感情が渦巻く精神世界のようなものなのです。普通は現世と関わることはありませんが、レプシードが生まれると一時的に閉鎖空間へと繋がってしまうのです。もちろん普通の人には決して見ることが出来ませんし、関わることもできないのです。入れるのは私か、私と契約した特殊な素質を持つ人間だけなのです」


「ちょっと待って! 俺契約した覚えないんだけど!?」


「何を言っているのですか? あの時、銃で頭を撃ち抜いたじゃないですか?」


「あれってそういう意味なの!?」


「そうなのです。私の力を分け与えるのと、蓮の中に眠っている力を引き出すため契約なのです」


「マジか……」


「マジなのです」


「いや待てよ。でもそれっておかしくないか? だって俺お前と契約する前にその閉鎖空間ってやつ入ってたじゃないか」


「蓮はちょっと特殊なのです」


「そうなの? まあいいや。てかあれか、さっき死んだ人間たちは閉鎖空間の人間で、現実世界の人間には影響がないってことか?」


 カラスは勢いよく突っついたドーナツを落とした。

 おい、カーペット汚すなよ。

 

「レプシードを浄化できたから結果的に人は死ななかっただけです」


「どういう意味だ?」


 カラスは続けて説明をした。

 カラスが言うにはレプシードは生まれて時間が経つと自然消失しまうらしい。

 ちょうど心臓の位置にあった青い炎が命の時間を表していて炎が燃え尽きると死んでしまう。

 さらに、レプシードが死んでしまうと閉鎖空間で起きた被害が現実になる。

 それを、防ぐためにはカラスが蓮に与えた浄化の力を持って倒す必要がある。

 浄化の力を持って倒せば、レプシードになった人間を元に戻し閉鎖空間を閉じることができるらしい。


「青い炎が燃え尽きる前に奴を倒さなかったら、あれが現実になってたてことかよ」


「その通りなのです」


 危なかった。

 確かに魔女の心臓部にあった青く輝く炎は時間が経つにつれ弱まり消えかけそうになっていた。

 もし、その前に倒していなければ……

 蓮はあの時の光景を思い出しゾッとした。


「何となくわかったような気はするけど、なんか途方も無い話だな」


「普通レプシードが生まれ現世に影響を及ぼすことはまずあり得ないのです。おそらく、この世界にレプシードを生み出している犯人がいるはずなのです。蓮にはその犯人を探して欲しいのです」


 無理な話だ。

 何故、人がレプシードになるのかも分からない。それに、犯人の手かがりすらない。

 たかが普通の高校生である蓮には荷が重すぎる。


「約束はできない」


「そんな……」


「ただ……、レプシードになった人間を放っておくことはできない。まあ何だ、その困ってるやつ助けるついでに犯人探すくらいならいいけどな」


「蓮!」


 カラスが期待の眼差しで蓮を見た。

 蓮はカーペットに散らばるドーナッツの残骸を見て少し憂鬱な気分になった。


 翌日。

 昨日の出来事で疲れが溜まっていたせいか、蓮をいつもより遅い時間に起床してしまった。今ならまだ間に合う。蓮は朝食を要求するカラスを無視して急いで支度すると家を出た。


 何とか間に合い教室に入った時、蓮は思わず自分の目を疑った。教室内に見覚えのある人物がいるからだ。


 ウチの学校の制服を着こなすその人物は昨日出会った金髪の少女だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ