最終話 ただいま
蓮のよく知る少女は一通りパフォーマンスをすると壇上から降り蓮の方に近寄って来た。
「ただいまなのです」
シロは蓮に近づくと少し恥ずかしそうに笑った。
「お前、どうしてここに……、あの時」
「えへへ、やっぱり生きていたのです」
蓮は恥ずかしそうに笑う少女に近寄ると無意識のうちにその体を抱きしめた。
「本当に無事で良かった」
シロの手が優しく蓮を包んだ。
それは暖かくてとても心地が良かった。
「心配かけてごめんなさいなのです」
「ああ、全くだ。本当によく戻って来た。おかえり」
蓮がシロの無事を全身で確かめていると、
「ちょっと、蓮くん誰その人!? もしかして蓮くんの……」
「暁くん、公共の場で幼気な少女を抱きしめるなんて犯罪よ」
「何だ、その天使は!? お前の知り合いか!?」
みんなが驚いた様子で蓮とシロを見た。
「はあ? 何言ってんだお前ら。誰ってシロに決まってんだろ」
「えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!! この子がシロ!?」
3人が驚いた表情でシロを見た。
「あ、そっか。お前らシロの本当の姿みたことないんだっけ?」
事情を知っている零はみんなのリアクションを見て静かに笑っていた。
「確かに、言われてみればシロと同じ声だ」
「まさかシロの正体がこんな美少女だとは思わなかったわ」
「そういや口癖も一緒だな」
3人は納得した様にウンウンとうなづいた。
「みんな、ただいまなのです。これからもよろしくなのです!」
シロは笑顔でみんなを見ると頭をペコリと下げた。
「おう、当たり前だ」
「どうしたの? シロそんな改って」
柊は不思議そうにシロを見た。
「あなた迷子になったんだって? 泣きそうな顔の暁くんから聞いたわよ」
「は? 別に泣きそうな顔なんかしてねぇよ」
「蓮はそんなにも私のことを心配してくれたのですか?」
シロがからかう様に、にやけながら顔を寄せてくる。
「うるせぇ、ちょっとだけだよ」
「さっき、あんなに抱きついてたくせに……」
柊が吐き捨てるように言った。
「あれは……、そのなんて言うか……」
蓮が対応に困っていると零が助け舟を出してくれた。
「みんな、そろそろ結果発表みたいだよ」
零がそう言うと、みんなが期待する眼差しでステージに目を向けた。
ミッキーなんでお前は祈る様に手を握ってるんだ……
勝算があるのか?
残念ながらお前は圏外だ。
見事優勝に輝いたのはシロがだった。二位が零、三位が相川だった。
「私の勝ちなのです! まあ私は神様だから勝って当然なのです!」
シロがドヤ顔で腕を組む。
「やっぱり、シロには勝てなかったか」
「私はともかく、まさか月影くんにまで勝つなんて見事だわ」
「二位か……」
零は少し悔しそうな表情をしていた。こいつ本当に負けず嫌いだな。
「それで優勝商品って何なんだ?」
ミッキーが一枚の封筒を持ったシロを見て言った。
「これは、今私が一番欲しかったものなのです」
シロは封筒の中身を見ずに答える。
「いや、まだ見てないだろ。あっ、そっか蓮とシロは中身知ってんだっけ?」
ミッキーが思い出した様に言った。
「みんな、明日は暇ですか?」
シロが期待に満ち溢れた表情でみんなを見る。
「俺は暇だぜ」
「私も特に予定ないかな」
「僕も明日は暇だよ」
「明日は休みだしどこか行くなら付き合うわよ」
「それじゃあ、決まりなのです! 明日みんなで出かけるのです!」
「どこに行くの?」
柊が首を傾げシロを見る。
「この前の修学旅行で行った遊園地なのです! 私はずっとこの日を楽しみにしていたのです! 明日はみんなと一緒にバスに乗って王様ゲームをしてそのあと、遊園地に行っていろんな乗り物に乗って、それでみんなで美味しいもの食べて、そしてみんなで旅館に泊まって楽しい思い出をいっぱい作るのです!!!」
興奮した様子のシロが早口で喋る。
こんなに楽しそうなシロを見たのは久しぶりだ。
子供の様にはしゃぐシロの姿を見てみんなが微笑んだ。
「乗ったぜ! それは最高に面白そうだ。なあ、あかりも一緒に連れってていいか?」
「もちろんなのです!」
「いいね! 私もいつかまたみんなで行きたいと思ってたんだ! それに人間に戻ったら遊ぶ約束したもんね」
「楽しそうね。あの時は月影くん王様ゲーム参加してなかったし、地獄を見せてあげるわ」
「その勝負受けて立つよ。僕は負けないけどね」
「いや、王様ゲームに勝ち負けとかあんの? ほぼほぼ運だろ?」
蓮がそう言うと、
「それはどうかな?」
零は不敵に笑う。
「言っとくけどイカサマはナシだからな?」
「ふふっ」
零はニコリと笑った。
おい、この顔は不正する気満々の顔じゃねぇか。
「それじゃあ、明日とても楽しみにしているのです!」
蓮たちは明日の準備に備えて今日は解散することにした。
家に帰る途中、蓮はあの時の出来事をシロに聞いた。
「お前どうしてこっちに戻ってくることができたんだ? それにドラゴノートはどうなったんだ?」
「ドラゴノートは間違いなく封印したのです」
「でも現にお前がはここにいるじゃないか。俺はてっきりお前と共にドラゴノートを封印するもんだとばかりだと思ってたぞ」
「はい、蓮の言う通りです。本来は私の魂と共にドラゴノートを封印するつもりでした」
「つもりだった?」
「あの時声が聞こえたんです……」
「誰の?」
「シリウス・エレス……、私のお姉ちゃんなのです。お姉ちゃんの声が聞こえた後、私の中からお姉ちゃんの力と私の力が抜け出たような感覚がしたのです。そうしたら目の前が真っ白になって気がついたらこっちの世界に戻ってました」
「そうか……、お姉ちゃんは何て?」
「辛い思いをさせちゃってごめんね。あとは私に任せて。……それがお姉ちゃんの最後の言葉でした」
シロが暗い顔でうつむく。
「そうか……、お姉ちゃんに心配されないよう楽しんでいる姿を見せてあげなきゃな」
「……蓮。そうですね」
シロは蓮を見て優しく微笑んだ。
その表情は少し悲しげだった。
「よし! 早く帰って明日の準備しなきゃな!」
「はい! 私はずっとこの時を待ち望んでいたのです! 私はこれから人間として人生を謳歌するのです!」
「てか、お前これからどうすんだ? こっちの世界でずっと生きていくんだろ?」
「大丈夫なのです! 蓮がいればなんとかなるのです」
「いや、人任せかよ! 言っとくけど俺はお前を養うつもりはないからな」
「それは困るのです。私は働くつもりは毛頭ないのです」
「おい、お前神様だろ。自分のことくらい自分でなんとかしろや! ていうか寮の規則厳しいからいつもでもお前と一緒にいるわけにはいかないから。宿くらいは自分で探せよ」
「心配無用なのです」
シロがそう言うと体が光り輝いた。
その光は蓮の右肩に集まるといつもの見慣れた姿に戻った。
「この姿なら、人に見られることはないのです」
「いや、そういう問題じゃないんだよなあ、ていうかお前その姿に戻れたのか?」
このままじゃ確実に面倒みることになっちゃうし……
ていうかこいつ何で居候する気満々なの?
神様図々し過ぎなない?
「はい、あの時に力の大半は失ってしまったのですが何故かこの姿には戻れるのです」
「やっぱり、その姿の方がしっくりくるな。本当に、にくいカラスだ」
「私はにくいカラスじゃないのです」
「じゃあ何だってんだよ」
「私はおしゃべりなカラスなのです」




