第35話 友達
蓮は能力を具現化に切り替えると零の周囲に無数の鏡を出現させた。
そして鏡に向けて銃を連射する。
乱反射した白い閃光は零を囲むように襲うはずだった。
しかしその白い閃光は何故か全て蓮のところに戻ってきた。
「おいおい、マジかよ!」
蓮は慌てて能力をグラヴィティに切り替え攻撃の軌道を逸らした。
「少しは頭を使えよ。闇雲に撃って当たるわけないだろ」
何てやつだ。具現化能力で同じ形の鏡を混ぜ込みこっちに戻って来るよう誘導しやがった。
「くそっ! やっぱ頭いいやつにこの作戦は通用しないか」
次の一手を考えていると、空から複数の大きな氷塊が降ってくるのが見えた。
「こんなんで俺がやられるとでも思ってんのか!」
蓮はすぐさま自分の頭に銃口を当て引き金を引く。
そして能力を切り替え同じ五大元素を操る力で対抗する。
地面のあちこちから噴火するように灼熱の炎柱が次々と出現する。
その火柱は蓮に襲いかかる氷塊を水蒸気へと変えた。
蓮が安心しきったその時だった。
空にキラキラ光る何かが見えた。
それは剣の雨だった。
「やべっ!」
剣の雨はもう目前まで迫っている。
とっさの状況で具体的な強いイメージが必要な具現化能力、五大元素を操る力では発動が難しい。
そう判断した蓮は慌ててモードを二刀流に変え自分に降りかかる剣を弾いた。
「こんなので倒せるとは思ってないさ。ただ単純な君なら僕の作り出した氷塊を溶かすだろうと思ったよ。中に剣が混じってることを知らずにね」
気がつけば散弾銃を構えていた零がすぐそばに接近していた。
迫り来る剣を撃ち落とすことに集中し無防備になっている今の蓮には避ける余裕などなかった。
凄まじい衝撃が襲いかかり吹き飛ばされる。
「くはっ! うっ、痛ッ」
全身に鈍い痛みが走る。
ぼやけた視界で自分の姿を見る。
神威で作られた防御力の高い服は所々破け血が滲んでいる。
くそっ! 手強い。
今まで戦ってきた相手は攻撃が直線的で読み易かったし、能力も一つだけだった。
しかし、零は全ての能力を使える上に攻撃パターンが読めない。
「蓮!」
シロが心配そうに叫ぶ。
「まだ、大丈夫だ!」
蓮はモードを銃に変え自分の体を撃ち抜く。
再生の力で傷そのものは完治しいくらか楽になったが疲労は消えない。
それに能力を連続で使用し続けたせいか体がだるい。
しかし、それは零も同じ様だった。
銃をもつ腕をだらんと垂れ息切れしている。
レプシードを召喚したうえに、あれだけ連続で大技を発動したんだ。無事なわけない。
「はあっ、はあっ、能力は一つずつしか使えないんだ。少しは頭を使ったらどうだ?」
「うるせぇ、大きなお世話だ」
「僕の勝ちだね」
零が勝ち誇った笑みを浮かべる。
「そういえばお前以外と負けず嫌いな性格だったな」
蓮は大太刀を作り出すと零の懐に飛び込んだ。
零がモードを大剣に変え蓮の攻撃を受け止める。
「一緒にパフェ食いに行った時もそうだった。諦めて残せば良いのに全部食いやがった」
互いに激しく剣を交える。
「……」
零は一言も発さない。
「闇鍋の時だってそうだった。諦めれば良いのに気を失うまで食いやがって」
「僕は食べ物を粗末にしないだけだ……」
「ジェットコースターの時だってそうだ。余裕持ってた俺をおちょくりやがって! おかげで死ぬかと思ったぜ」
「……さっきから何のつもりだ。くだらない話をベラベラと」
「楽しかった」
「……いきなり何を言い出すかと思えば。くだらない」
蓮の言葉に呆気にとられたのか零の剣撃が弱まった。
「あの時お前と過ごした日々は本当に楽しかったよ。だからまた遊ぼうぜ」
「何を……、言っている? それが殺し合いをしているときに吐くセリフか?」
零の攻撃に迷いが生じているのを蓮は見逃さなかった。
「殺し合い? それは違う。これは喧嘩だ。よく言うだろ喧嘩するほど仲がいいって」
「馬鹿言うな! 僕はお前と仲良くなるつもりなんてない!」
「そうか。それなら無理やり仲良くなるまでだな。なあ零?」
零は無言で蓮を見た。
瞳に映る迷いが強くなるとともにぶつけ合う剣が弱くなっているのが手に取るようにわかる。
「俺はお前を裏切ったりしない。だからそんなビビんなって」
「黙れ、黙れ、黙れ!!! お前に僕の何がわかるってんだ!」
「お前のことならよく知ってるさ。友達なんだから。だからお前の弱点を一つ教えてやるぜ」
「僕の弱点だと?」
「ああ、お前は何もかも見た目で判断しすぎる」
蓮は五大元素の能力を使い零の足元を凍らした。
突然足元の自由を奪われバランスを崩した零が取り乱す。
「馬鹿な、剣の状態で他の能力を使えるわけがない」
蓮はモードを銃に変え銃口を零の腹部に向けた。
「ああ、だってこの剣は具現化で作り出した刀だからな。別にモードを剣に切り替えたわけじゃない。お前が剣を見て勝手に切り替えたと思っただけだ」
蓮が引き金を引くと白い閃光が炸裂し零を吹き飛ばした。
吹き飛ばされた零は体力を消耗しきっているためか地面に膝をついたまま立ち上がれない。
蓮は歩き零に近づくと手を差し伸べた。
「帰ろうぜ。みんなが待ってる」
零はまるで恐怖を振り払うかのように蓮の手を弾いた。
「ふざけるな。誰がお前なんかと……、言葉なら何とも言えるんだ。どうせお前らもいつか僕を……」
零は混乱した様子で蓮を睨んだ。
強気の瞳の奥には怯えのようなものが見えた気がした。
「俺も流石に疲れた。もう帰ろうぜ。お前だってもうほとんど力が残ってないはずだ」
「そんな手に乗るか! お前だってあいつらのように僕を裏切るに決まってる!」
「あいつら?」
「お前に負けるくらいならこの世界もろとも道ずれにしてやる。僕の命に代えても」
すると、零は銃を自分の左胸に当て引き金を引いた。
「おい、零お前何を……」
零の空いた左胸から青い炎が溢れ出す。
その炎は零を包み込むと、爆風と共に大きく燃え上がった。
蓮はその凄まじい衝撃に吹き飛ばされる。
「くそっ! 一体何が起こってんだ」
蓮は体を起こし巨大に燃え上がった青の炎を見上げた。
その炎が燃え尽きるように消えた後、そいつは姿を現した。
「嘘だろ? 何て大きさだよ……、あんな化け物どうやって」
「あれがタイラー・ドラゴノートの真の姿なのです……、きっと零の体を媒介にこの世を消し去るつもりなのです」
「あれが破壊神の真の姿……」
まるで見たものを呪い殺す様な邪悪な眼光をしている。
黒龍は雄叫びをあげると大きな翼を広げた。
「待て、零はどうなるんだよ?」
「おそらく、このままじゃ、ドラゴノートに取り込まれて死ぬのです」
「嘘だろ……、そんなのダメだ! 俺はあいつを助けに来たんだ! このままあいつを放っておくわけにはいかない」
「……蓮はどうしても零を助けるのですか?」
シロが確認するように聞いてくる。
「当たり前だ!」
「零は私たちを殺そうとした相手なのですよ?」
「関係ない。あいつの目を覚ましてやればいいだけのことだ」
「蓮はまだ零を信じるのですか?」
「当たり前だ。あいつは本当はいいやつだからな」
「……そうですか、やっぱりあなたを選んで本当に良かった」
シロは安心したように声を漏らした。その声音はとても優しかった。
「そんなことより、どうすれば零を助けることができる?」
「私に考えがあるのです。しかし、もし失敗したら……」
「わかった。それで行こう。失敗した後のことなんてどうでもいい」
「ふふっ、蓮はいつも人の話を聞かないのです。全く本当にバカのです」
シロが笑う。
「馬鹿で結構」
蓮も笑って応じた。
物語もやっと終わりが近づいてきました。
あと4〜5話くらいで完結する予定です。
最後まで付き合って頂ければ幸いです。




