第34話 一度負けた相手
二度目の文化祭当日。
蓮たちは予定通り朝早く集まりあの日の出来事と真実を全て話した。
「嘘だろ……、零くんがレプシード化の犯人?」
「にわかに信じがたい話だけど……、暁くんが知るはずのないことまで知ってるってことは本当に未来を見て来たのね」
「蓮くんの体験した未来では私たちが……」
「俺は零を止める。そのためにはお前たちの協力が必要だ。頼む力をかしてくれ! 危険かもしれないが何が何でもお前たちを死なせやしない」
蓮はみんなに頭を下げた。
本当はみんなを危険な目に遭わせたくない。
でも、自分一人の力だけじゃどうにもならない。
それに、みんなとならどんな困難も立ち向かえそうな気がする。
今までだってそうだった。
「よく言った蓮。俺を頼ってくれて嬉しいぜ! もしお前が一人でどうにかしようとするつもりだったら殴ってたところだぜ」
「最後まで付き合うわよ。あの時の仮もまだ返せてないし」
「うん。零くんの目を覚ましてあげなきゃ。ちょっときついお仕置きが必要だね!」
「お前ら……、ありがとう」
次は負けやしないさ。
真実を知った蓮たちに迷いはないのだから。
蓮たちは広いグランドにいた。
別に閉鎖空間で暴れても解ければ元に戻るから場所はどこでも良かったがどうせなら、思う存分動けるところがいい。
「どうしたのみんな? そんな真剣な顔して?」
何も知らない零は不思議そうに蓮たちを見た。
蓮は銃をコメカミに当て引き金を引いた。
全員が神威の姿になる。
零の顔つきが変わった。
穏やかな表情をしているが瞳の奥には隠しきれない闘志の様なものが宿っていた。
「早くお前も神威になれよ」
全て分かっている。
余計な言葉は不要だ。
「神威なんのこと?」
「まだしらばっくれるきか?」
蓮は天に向けて銃口を向けた後、引き金を引いた。
打ち上げられた白い閃光が天に亀裂を作る。
亀裂は雲の巣のように広がり砕け散ると閉鎖空間が現れる。
互角の力を持つもの同士、零にできて蓮にできないはずがない。
「ばかな……、閉鎖空間」
零が驚いた様子で蓮を見た。
「ドラゴノートお前の思い通りにはさせない」
蓮は零の肩に止まっている一羽のカラスを睨んだ。
「……何故、ドラゴノートを知っている」
「それは俺が未来を見て来たからだ!」
走り出す蓮を見た零は慌ててコメカミに銃を当て引き金を引いた。
姿は変わらず制服のままだが邪悪な力に満ち溢れている。
「バカな! 何故グラヴィティが発動しない!?」
零は取り乱す。
「発動ならしてるさ。ただミッキーが同じ力で相殺してくれただけの話だ」
「くそっ!」
動きを先読みされた慌てたようにもう一度引き金を引く。
すると空から灼熱の炎を纏う隕石の嵐が降り注ぐ。
「私に任せて!」
柊がそう言うと、複数の隕石は凍りつき粉々に割れあられとなった。
「くっ、ちょこざいな!」
零はもう一度引き金を引くと剣の雨が降り注ぐ。
「私の番ね」
すると、剣が落ちるポイントに複数の傘が出現する。
特別な力で作られた傘は剣にぶつかると相打ちになるよう砕け散った。
蓮はモードを日本刀に切り替え零の懐に踏み込む。
すると、零も同じようにモードを剣に変え蓮の攻撃を受け止めた。
「さすがに4対1はこたえるなあ」
零はニヤリと笑い蓮の刀を振り払うと後方にとび距離を置いた。
そして、モードを銃に戻す。
零が銃口を天に向けて引き金を引くと禍々しい黒い弾丸が宙で3つに分かれた。
その3つの黒い球はやがて地上に降りると異質な姿になった。
その姿はどれも見覚えがあった。
身体中鎖で縛り付けられた魔女、赤黒い鎧の騎士、巨大な槍のような腕を持った鬼のような化け物。
「今まで倒したはずのレプシードだと……」
「何を驚いている? 僕は君の言う通りレプシード化の犯人なんだからレプシードを操ってもおかしくないだろ?」
まさか、こんな力まで隠し持っていたとは……
蓮が想定外の事態に驚いているとみんなの声が聞こえた。
「蓮、こいつらは俺たちがなんとかする! だからお前は零くんを頼んだぜ!」
「ええ、過去の自分に私が負けるはずないわ」
「うん! 私はもう自分の弱さから逃げないって決めたんだ!」
「悪い! 任せた。零は俺が絶対目を覚まさせてやる!」
蓮は正面にいる零を見据えた。
「……くだらない、友情ごっこだ。反吐が出る」
零は冷めた様子で蓮を見る。
「くだらなくなんかないさ。お前も信じてみればいい俺たちのことを」
「黙れ! 知った風な口を聞くな!」
零はモードを剣に変え飛び込んだ。
蓮はそれを日本刀で受け止める。
力強く荒々しい太刀筋からは零の内側に眠る怒りが伝わってくるようだった。
「人間はガラクタじゃない。昔のお前に何があったのかは知らんが何か困ってることがあるなら話してみろよ」
「お前、何故……」
「言ったろ? 俺は未来を見て来たって。理由はよくわからないがお前が人間を憎んでいることは何となくわかった」
二人はさらに剣をぶつけ合う。
「未来を見てきただと?」
「ああ、その通りさ。あの時お前は何も信用してないとは言ってたが、やっぱり俺にはそうとは思えない」
零は無言で蓮を睨みつける。
零の冷たい視線の奥には感情という名の炎が静かに燃えている様に見えた。
穏やかな青い炎。
それは何よりも静かで何よりも熱い。
触れるもの全てを灰に変えてしまいそうな危うさだった。
零は剣を激しく打ち合う中、一瞬だけモードを銃に変え引き金を引く。
二度も同じ手を喰らうか!
蓮はあっさりとそれを交した。
零が一瞬驚いた顔をした後、瞬時にモードを剣に戻した。
「俺たちが今まで過ごした時間、あの笑顔が全て作り物だと思ってない。零、お前は何に怯えてるんだ?」
「黙れよ……」
零の剣の力にさらに重みが加わる。
蓮はそれを全て受け止める。
「少なくとも、あの祭りの時のお前の言葉は本心だったはずだ。それくらいのことバカな俺にでもわかる」
「黙れ! 黙れっ!! 本当にカンに触るやつだ。忌々しい姿をしやがって!」
「でも、お前はこの姿に、ジャスティスカイトに憧れたんだろ?」
「……うるさい」
「同じ者を憧れたもの同士仲良くやろうぜ」
零の武器が青く鮮やかに燃え上がると、身の丈をゆうに超える大剣と姿を変えた。
蓮は瞬時にモードを大太刀へと変化させそれをしっかりと受け止める。
「お前ら一人残らず、僕の視界から消してやる!」
零が今まで見たこともないような憎しみに満ち溢れた目で蓮を見た。
「そうか。でもあいつらは無事に片付けたみたいだぜ」
「何だと? バカな……」
怒りですっかり周りが見えなくなった零は今更になってレプシードが全員仕留められていたことに気づいた。
零が召喚したレプシードは全部倒すことが出来たがみんなは力を使い尽くしボロボロだった。
「みんな、後は俺に任せてくれ! 零は俺が絶対連れて帰る」
蓮がそう言うとみんなは軽く微笑みうなづいた。
「ああ、任せたぜ! 必ず蓮くんを連れて帰ってこいよ。俺は言いたいことがたくさんあるんだ」
「うん、私もちょっと零くんに怒りたいことがあるの」
「あら、偶然ね私もよ」
柊、相川、ミッキーの体が光り輝く。
その光は蓮の刀に集まるとより強い輝きを増していった。
そして、神威を解いた柊、相川、ミッキーは光とともに閉鎖空間から姿を消した。
蓮はモードを銃に変え銃口をコメカミに当てた。
「ここからは一騎打ちといこうぜ」
零も蓮と同じようにモードを銃へと変える。
そして、左手で握りしめた漆黒の銃をコメカミへと当てる。
「いいだろう。過去の憧れと共にお前を完全に消し去ってやる」
零はニヤリと笑う。
乾いた銃声が重なり閉鎖空間の空気ををわずかに揺らした。




