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おしゃべりカラスとガラクタの町  作者: しろながすしらす
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第3話 心の奥に潜む魔物

 学校が終わると蓮は電車に乗り秋葉原へと向かった。

 駅を降り目的地に向かう途中、蓮は初めて自分からカラスに話しかけた。


「なあ、さっき言ってたレプシードって何だ?」

 

 聞かずにはいられなかった。

 カラスの言うことを全て信じたわけではないが、不吉な何かを感じとり心のどこかで突っかかるような妙な感覚があった。


「レプシードとは簡単に言えば人間の心の奥に潜む魔物なのです」


「心の奥に潜む魔物?」


「そうなのです。レプシードとは心の奥に潜む負の感情が具現化した存在なのです」


「人が突然化け物になって周りの人間を襲うってのか?」


「その通りなのです」


「17年間生きてきたけど、不の感情に支配されて人間が化け物になるなんて見たことも聞いたこともないぞ」


「普通は人間がどんなに精神的に追い込まれても、魔物になるなんてありえないのです。でもきっかけがあれば人は簡単に魔物に変わってしまうのです」


「何だよ。きっかけって?」


「それは、……わからないのです。ただ今この世界にレプシードが出現するようになった何かがあるのです」


「お前、人に世界救えとか言っといて、何でそんな曖昧なんだよ」


「思い出せないのです……、大切なことのはずなのに」


 しょぼんとしたカラスを見た蓮を居た堪れない気持ちになり話をそらした。


「ふーんまぁいいや。その何だ、さっきミッキーが言ってた事件はその魔物が原因で、その魔物を探し出して俺がどうにかしろってことか?」


「うーん、ちょっと違うのです。さっき言ってた事件は間違いなくレプシードの仕業です。でもそのレプシードはもうこの世にいないはずなのです」


「どういうこと? 何でそのレプシードってやつがいないってわかるんだよ」


 話が全然見えてこない。


「それはレプシードになった人間は必ず死ぬからなのです」


「は?」




 

 蓮は目的地にたどり着くと、建物の中に入った。

 エスカレーターに乗り上へと目指す。


「何を探しているのですか?」


 肩に乗ったカラスが話しかけてくる。


「テレビ」


「蓮の家にはテレビがないのですか?」


「いや、あるんだけど調子が悪くてな。万が一壊れたこと時のこと考えて下見でもしておこうかなって思って」


 カラスと話しているうちに蓮は不思議とカラスの存在を受け入れつつあった。


「うーん、やっぱこんくらいするよなー」


 店頭に並んでいるテレビを見る。

 他の店舗に比べると価格は安めだが、高校生の蓮には高価な代物であった。


「バイトでもしようかな? いや待てよ。でもまだテレビが壊れたって決まったわけじゃないし……」


 蓮はふとテレビに映っていた映像を見た。

 コメンテーターがミッキーが言っていた例の事件について語っていた。

 話は二転三転しその内のある人が「私は今回のケースは、この前の星林高校の事件と何か似たようなものを感じるんですよね」と言った。


 星林高校の事件

 世間に疎い、蓮でも流石にこの事件は知っていた。

 確か1〜2ヶ月前の話だっただろうか。

 学校内で火災が発生しクラスが丸ごと一つ焼けてクラス内の生徒が全員が焼死したという事件だ。

 火元は不明で火災の前兆がなく気がつけばクラス一つが火の海。

 こんな一大事にも関わらず、発見が遅れ誰一人生存者がいない。

 まるで一瞬の出来事のように……


 蓮は悩んだ挙句、現役のテレビが長生きすることを祈った。

 お金を貯めてこの際良いテレビを買うのもいいが、正直、バイトするのはめんどくさかった。

 そろそろ帰ろう。


 駅へと向かう途中、蓮は広場にいた一人の少女を見た。

 小柄な金髪の少女

 ゴスロリというのだろうか、黒を基調としたドレスに身を包んでいる。


 何かのコスプレだろうか?

 金髪少女の目の前に立っている3人組の女子高生が何やら話しかけている。

 少なくとも蓮の目にはあまり好意的な関係には見えなかった。

 女子高生達は嘲笑するような表情を浮かべ一方的に何か話しかけている。

 すると、その内の一人が手を叩き大声で笑った。

 金髪少女は身を縮こまめるようにうつむいている。


「……マズイのです」


 カラスがそう言った直後のことだった。

 

 金髪少女が突然両手で頭を抱え身悶えし始めた。

 周囲の人が少女の突然の異変に誰もが視線を向けた。

 この時、蓮の目にはハッキリと少女から湧き出る黒いオーラのようなものが見えた。


「おい、これってもしかして……」


 次の瞬間少女から出ていた黒いオーラがあたりを包むように広がり凄まじい速度で景色を浸食した。

 目の前の景色は黒く霞がかっていく。蓮は現実世界から隔離されているような錯覚を覚えた。

 少女を包んでいた深い暗闇が晴れるとそこにはさっきまでの少女の姿はなかった。

 

 きっと今目の前にいる異質な姿をしている存在はさっきまで少女だったはずの何かだ。


 人間離れした大きな体をした魔女が宙を浮いていた。

 赤い帽子と赤いローブに身を包みちょうど心臓の位置には青く輝く炎が激しく燃えている。

 その魔女の身動きを封じられるかのように身体中の至る所に頑丈そうな鎖が巻きつけられていた。


 魔女は天を仰ぎ不気味な叫び声をあげた。

 魔女は目の前の腰を抜かして怯えている女子高生を視界に入れると


「ク……ナッ! ワタシ二チカヨルナァァッ!」


 と叫んだ。


 すると突然、魔女の周りを囲むように巨大な火の玉が浮かび上がった。

 巨大な火の玉は急に速度を得ると女子高生3人組を飲み込むかのように襲い掛かった。

 その火の玉は離れた距離からでも凄まじい熱気を帯びていることがわかる。

 そして炎が酸素を燃やし尽くした頃には女子高生達は跡形もなく消滅していた。


「嘘だろ……」


 攻撃対象を失った魔女は苦しむように叫び声を上げた。

 すると、空から巨大な氷塊が降り注ぎ、辺りの建物と周囲の人間達を次々と襲った。

 蓮は目の前に降ってきた氷塊を間一髪のところで回避した。 


「蓮! レプシードを倒すのです」


「無茶言うな! あんな化け物どうやって倒せって言うんだよ」


 危機を感じた蓮の体は無意識に走り出す。未知の恐怖から距離を置くように。


 なんなんだ、あの化け物は!?

 人が本当に化け物になるなんて……


「蓮、逃げてる場合じゃないのです! このままだとここにいる人間はみんな死んでしまうのです!」


「そんなことくらいわかってるよ! 俺にどうしろって言うんだよ! それにさっきの変な魔法みたいな攻撃でほどんどの人が……」


「大丈夫なのです。今ならまだ間に合うのです。今ここでレプシードを倒せば全てが元どおりになるのです」


「どういう意味だよ? 死んだ人間が生き返るって言うのか?」


「今はまだ死んでないのです。ただ、このままだと閉鎖空間での死が現実になってしまうのです」


「閉鎖空間?」


「とにかく、今は説明している暇はないのです」


「わかった。とりあえず俺はーー」


 言いかけた直後、蓮に自然現象とは思えないほどの突風が襲い掛かった。

 轟音とともに吹き飛ばされた蓮は建物に叩きつけられた。

 強烈な衝撃が蓮の体の自由を奪う。

 生暖かい液体が頰をつたる。

 蓮はそっと指でそれに触れた。

 べっとりと付着した赤黒い血液を見て蓮は死を覚悟した。


 蓮の目の前に魔女が迫る。

 両手で苦しそうに首を絞めながら、うめき声を上げている。


「大丈夫ですか!? 蓮」


「大丈夫なわけないだろ……、身体中が痛いよ」


「蓮、時間がないのです。今から私の言うことを信じてください」


「……ああ、わかった」


 未だにカラスの存在はよくわからないままだが、少なくとも今目の前で起こっている理不尽な状況よりは信じることができる。


 するとカラスは突然まばゆい光を放った。

 光は蓮の右手に集まると、さっきまでカラスだった存在は白い銃へと変化をとげた。

 

「なるほど、これであいつを撃てと」


 蓮が呟くと、銃から声が聞こえた。


「違うのです。撃つのは自分自身なのです。その銃で自分の頭を撃ち抜いてください」


「は?」


「私を信じるのです」


「ははっ、もうどうにでもなれだ」


 理解不能な状況に思わず乾いた笑みがこぼれる。

 蓮は白い銃を右手でしっかり握り自分のこめかみに当てた。

 そして目をつぶり震える人差し指で引き金を引いた。

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