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おしゃべりカラスとガラクタの町  作者: しろながすしらす
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第26話 ドッペルゲンガーと疑惑のタネ

「それがよ……」


 蓮たちは黙ってミッキーの言葉の続きを待つ。


「犯人は俺だった」


 ミッキーは平然とその言葉を口にした。


「はぁ!? お前それってどういう意味だよ」


 その場にいた誰もが困惑した表情を浮かべた。


「あ、いや違う違う! もちろん俺が人を化け物に変えたわけじゃないぜ。犯人は俺と同じ姿をしていたんだ。何を言っているかわからないと思うが本当なんだ。姿、形、声まぎれもなく俺と同じ姿だった。まるで鏡に映る自分を見ているかのような気分だったぜ」


「ミッキーと同じ姿をしていた? ちょっとその時の状況を詳しく教えてくれ!」


 全く同じ姿の人間がこの世に二人!?

 そんなのありえない。それじゃあ、まるでドッペルゲンガーだ。


「俺が家にいたらよ病院から電話がかかって来たんだ。あかりの容体が悪くなって一刻も争う状況だからすぐに病院に来てくれと。俺は急いで家を出たよ」


 ミッキーは順を追って語り出す。


「そんでそのまま、ICUに行ってあかりの部屋に入ったらあかりのそばに俺の姿をした人間がいたんだ。そいつは俺と同じ格好をしてて、同じ背丈で、見た目も全く同じだった」


 何が何だかわからない。

 犯人は一体何者なんだ?

 何故ミッキーと同じ姿をしている?


「それで俺の姿をしたそいつは俺を見ると俺の声で言ったんだ」


 蓮たちは一言も喋らずミッキーの話を聞いていた。

 不可解な状況を必死に頭で整理しようとするが答えは見つからない。

 

「ちょうどいい、お前もついでだって。そして手をこっちに向けたんだ。手には何もなかったけど、まるで拳銃でも握るような手つきだったぜ。それで急に頭に衝撃が走ったと思ったら目の前がいきなり真っ暗になって気がつけば夢を見ていた」


 破滅の魔弾……

 それは人をレプシードになるきっかけを与え、心の奥底に眠る魔物を檻から出してしまう。

 間違いない。ミッキーが見たのは蓮たちと同じ神威かむいを使える人間だ。


 しかし、せっかく手かがりを得たのに犯人の正体がわからないんじゃ意味がない。

 くそっ! あともう一歩のところだったのに! 


「でも、いくら犯人が同じ姿をしていたとはいえ、簡単に病院に侵入できるものかしら……」


「ねぇ、犯人がミッキーの姿をしているのは神威の力によるものじゃないかな? 普通に考えて同じ人間が存在するなんてあり得ないし。特別な力で見た目を変えたんじゃないかな?」


「私もそう思ったわ、でも……、仮に神威の力を使って私達の姿を欺くことができたとしても、普通の人にはその姿はどう見えるのかしら?」


「確かに神威の姿は俺らにしか見えないはずだ。でもあの時はまだミッキーも普通の人間だった。てことは一般人にもミッキーの姿に見えたんじゃいか? どうなんだシロ?」


 蓮はずっと隣で黙りこくるシロに問う。


「……出来るかもしれませんが確証はないのです」


 シロと長いこと一緒に生活している蓮はシロがいつもと少し様子が違うことに気づいた。

 シロは何かを隠している。いや隠しているというよりはあえて言わないようにしている気がする。


「ねぇ、犯人はミッキーに変装するぐらい何だからたぶん正面から堂々と病院に入ったんだよね?」


 柊が確認するように言った。


「普通に考えればそうだな」


「てことは一度受付に行ったんだよね? その後に何も知らない本物のミッキーがきたら流石に受付の人も不審に思うんじゃない?」


 最初に来たのは恐らく犯人、ミッキーに成りすましミッキーの妹に近づきレプシードに変えるつもりだったのだろう。


「いや、俺は受付に行ってないぜ。緊急だったからな。呼ばれてから直でICUに行ったぜ」


「そっかあ、何かヒントになるかなと思ったんだけど」


 柊が残念そうな表情をした。 


「いや、ヒントになると思う。少なくとも犯人が病院に来た時間はわかる。一度受付に戻って聞いてみよう。何かわかるかもしれない」


 蓮たちは一度病院に戻ることにした。


「実は私もおかしいなって思ったんです。三木くん14時くらいに6階に行ったはずなのに、その数十分後に三木くん

がすごい勢いで正面玄関から入って来たから。あれっ、いつの間に外に出たの? って思いました」


 受付の人には犯人の姿はミッキーに見えていたらしい。

 てことは犯人の持つ神威の力は現実でも適用されることが証明された。


「すみません、ちょっと名簿見せてもらってもいいですか?」


「名簿? 構いませんけど……」


 蓮が頼むと受付の人は名簿を差し出した。


 三木勝 14:16


 名簿にははっきりとミッキーの名前と病院に入った時間が書かれていた。


「お前これ書いたか?」


「まさか、さっきも言ったが俺は一度も受付に行ってないぜ。急ぎだったからな」


「そうだよな」


 でもそれは紛れもないミッキーの筆跡だった。小さな違和感を除いては。


 時間も遅いため蓮たちは解散することとなった。

 蓮は帰りにバスに揺られながら犯人のことについて頭を整理していた。


 犯人は蓮と同じ神威を使える。

 そして恐らく神威の力で姿を変えミッキーの妹を狙った。

 しかし、そこに本物のミッキーがきて犯行現場を見られてしまう。


 きっとそれは犯人にも誤算だったはずだ。

 本来は妹だけを狙うはずだったのだろう。しかし緊急事態により兄も駆けつけてしまった。

 それで犯人はついでにミッキーも狙った。


 確かなのは犯人は蓮より、早く病院に駆けつけている。そして犯人はミッキーのことをよく知っている。

 筆跡を完璧に真似できるほどに……


 あの時の小さな違和感が頭から離れない。


 その違和感はやがて蓮の心の奥底に小さな疑惑のタネを生み出した。


 まさか、そんなわけない。

 ありえない。


 だってそれじゃあ……







 蓮がバスから降り、家に向かう途中だった。


「偽装の魔弾……、私はそれが原因で破壊神に敗れたのです」


 シロがゆっくりと語り出した。

 蓮は黙って話を聞いた。


「自分の姿を欺く能力、破壊神は私の双子の妹エレナになりすましたのです。そして私に近づいたのです。正体を見破ることが出来なかった私は破壊神に殺されました」


「殺された? でもお前は現にこうして生きているじゃないか?」


「そうなのです……、それが不思議なのです。いくら再生の力を持っているとはいえ破壊神の攻撃を受けて無事なはずがないのです。何で私は生きているのでしょうか?」


 シロにわからないことが蓮にわかるはずもない。


「なあシロ」


 蓮は自分の言葉が震えていることに気づく。


「何ですか蓮?」


「どうして今更それを言うんだ? お前本当はあの時から知ってたんだろ。何でみんなの前で言わなかった?」


 シロの返答によっては少し楽な気持ちになる気がした。

 

「蓮……、あなた……、本当はもう気づいているんじゃないですか?」


 蓮の淡い期待が打ち砕かれる。

 きっとシロは蓮と同じ結論に至っている。

 だけど、それを決して言葉にしようとはしない。

 

「何のことだ? 頭の悪い俺にはさっぱりだ」


 小さな疑惑のタネは気がつけば芽を出していた。しかし蓮はそれから目を背けた。


 ずっと追い求めていたはずの真実から遠ざかるように。 

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