第25話 ガラクタの町
高層ビルから見下ろす景色は心地がいい。
暗闇を照らすように光り輝く町の灯りは自惚れ屋の人間共にそっくりだ。
己の欲求を満たすために他者を蹴落とし、自分の弱さを悟られないよう誰もが強く輝こうとする。
ビルに吊り下げられた巨大モニターに視線を落とすとそこには幸せそうに笑う人々が映っていた。
みんなが楽しそうに笑う。
その切り取られたワンシーンはまるで、この世の中に不幸な人間が一人もいないと暗示しているようだ。
全ては嘘だ。
真実はどこにもない。
人は争うために作られている。
戦争という血塗られた歴史がそれを証明している。
人は私利私欲のためなら何でもする。己の欲望を満たすために奪いあい、殺しあう。それは同じ人間同士にとどまらない。
娯楽のために罪のない生き物を殺め、便利な生活を送るためなら環境をも破壊する。
この世界の害悪でしかない人間どもはガラクタ同然だ。
いつか、この見せかけの歓喜に満ちたガラクタの町を滅ぼしてやりたいと思ったことがあった。
思っただけ。
ちっぽけな一人の人間が世界を滅ぼすなんて子供の妄想だ。
だけど、今は違う。
ーーこの力があれば、この間違った世界を丸ごと吹き飛ばせる。
「気分はどうだ?」
肩に乗った一羽のカラスが楽しそうに語りかけてくる。
「最高さ」
「お前を選んだのは正解だった。やはり俺の目に狂いはなかった」
「本当に感謝してる。この力があれば人間共を一掃できる」
「ああ、その通りさ。何ならこの町ごと吹き飛ばすか?」
「まさか、どうせならこの世界を丸ごと吹き飛ばそう」
「はっはっは! おもしれぇこと言うじゃねぇか、それで次はどこを狙う?」
カラスはご機嫌に笑う。
「どこでもいいさ。世界は病んでる。そうだな試しにあのビルでも狙ってみようか」
視線の先には誰もが知る大手の飲食店企業の看板があった。「ハッピー&スマイル」企業には黒い噂があった。安い賃金で従業員を酷使し精神を病んで自殺するものが後をたたないと言われている。しかもその事実はもみ消され公にされていない。
「おもしれぇ」
カラスは薄気味悪い笑い声を上げると青く鮮やかに燃え上がった。
青の炎は手に集まると漆黒の銃へと変化する。
「それじゃあ、行こうか」
銃をこめかみに当て引き金を引く。
ズガンッという衝撃が頭に響く。
全身に馴染む力に思わず笑いがこみ上げる。
「楽しそうだな、相棒」
「ああ、もちろんさ」
目的の場所を見定めた後40階建の構想ビルから飛び降りた。




