第23話 鬼と死の象徴
平日はあっという間に過ぎ去り、今日は土曜日。
蓮たちはあれからもちょくちょくミッキーの妹の面会に行っていた。
今日もミッキーの妹の面会に行くためにみんなと連絡をとろうとした時だった。
窓に映る景色が急に黒く霞ががる。
「嘘だろ……」
閉鎖空間、どこかでレプシードが発生している。
蓮は嫌な予感がしていた。
「シロ!」
「はいなのです!」
シロは意図を理解すると銃へと姿を変えた。
蓮はこめかみに銃口を向けると、引き金を引いた。
「蓮……、きっと」
シロが何かを察したように言い淀む。
「ああ、わかってる! 当たって欲しくないが行ってみる価値はある」
蓮は窓ガラスを突き破ると、神威の力で得た圧倒的な力で跳躍しながら建物に飛び移り、目的地を目指した。
蓮の嫌な予感は的中していた。
たどり着くと、大学病院は建物ごと崩れ去っていた。
「くそっ! やっぱりかよ!」
ミッキーの妹は負の感情を抱えていた。
レプシード化する可能性は十分考えられた。
しかし、病院には面会時間は限られているし、ずっとそばにいるわけにもいかない。
蓮は最悪の状態を想定してこのことは柊と相川にも伝えてあった。
何故、レプシードはこうも蓮たちと関わりのある人物が多いのか疑問に思ったが、今はそんなことより目の前の脅威を解決する事を優先した。
崩壊した建物から二体の影が見えた。
馬鹿な、レプシードが二体!?
蓮は崩壊した建物に近づく。
崩壊したのは建物だけでなく、下の地面もまるで隕石が落ちたようなボコっと大きく凹んだような跡ができていた。
「連くん!」
声のした方向を見ると、柊と相川がいた。
どうやらすでに駆けつけていたようだ。
「暁くん! ここは分かれて戦いましょう。そっちの化け物は近接戦が得意みたいだしあなたに任せていいかしら?
こっちの死神は私と柊さんで何とかするわ!」
相川は口元をマスクのようなもので覆い、首にマフラーを巻いている。所々露出した動きやすような装束を着ている。右手に大きな手裏剣を持っているその姿はまるでくノ一だ。
「任せろ!」
蓮は片方のレプシードを見た。
そのレプシードは3メートルくらいの人型の形をしていた。血で赤く染まったような邪悪な眼光をしており、剥き出しの牙は鬼を思わせた。
全身真っ黒な皮膚をしていて、体中の血管が沿うように深紅の網目が全身を走っている。片腕は1.5メートル近い巨大な槍のように鋭く尖っている。あんなもので突き刺されたら一溜まりもない。
蓮はレプシードの青の炎に銃口を向けると連続で引き金を引いた。
しかし、銃口から放たれた白い閃光はレプシードに届くことはなかった。
レプシード目掛けて放たれた白い閃光は不自然な奇跡を描き下に落ちていった。
「何だ、あいつの能力は!?」
蓮はモードを大太刀に変えるとレプシードに向かって走り出す。
蓮はレプシードに近づくにつれて自分の体が異常にに重たくなっていることに気付いた。
蓮がレプシードに近づき大太刀を振り落とすと、レプシードは異常に発達した槍のような腕で大太刀を受け止めた。
すると、次の瞬間蓮の持っていた大太刀は急激に重くなり地面に沈んだ。
何倍にも重くなった刀を支えれなくなった蓮の両腕が剣を握ったままダレる。
「連! 急いでモードを銃に変えるのです」
シロが叫ぶ。
「言われなくてもわかってる!」
蓮がモードを銃に変えると、重さが戻ったかのように軽くなった。
しかし、レプシードの周りの空間は重く相変わらず動きづらい。
蓮は後方へ飛び、レプシードから距離を置いた。
「あいつの能力は重力を操ることか?」
「間違いないのです。グラビティ、周囲の重力を何倍にも重くしたり、無重力にする力です」
「やっぱりな。通りで銃が当たらないと思った」
蓮はモードを二刀流に変えた。
「蓮何か策があるのですか?」
蓮の余裕の態度を見てシロが尋ねる。
「どんだけ、レプシードと戦ったと思ってるんだ。こんな相手わけない!」
蓮は走り出し素早くレプシードに接近すると回転するように刀を振るいレプシードの両足を切り落とした。
そしてバランスが崩れたレプシードを踏み台にするよう跳躍する。
両足を失い勢いよく踏みつけられたレプシードは背中をつくように倒れる。
「悪いな、こっちには時間がないんだ」
蓮は素早く、モードを銃に変えるとレプシードの青の炎目掛けて引き金を引いた。
重力の影響を受けようがない白い閃光はそのまま落ちるとレプシードの青の炎を貫いた。
レプシードが激しい光を放ち消失する。
しかし、閉鎖空間は閉じない。
まだ、もう一体残ってる。
蓮は柊と相川の元に向かった。
駆けつけると柊と相川は膝をつき、あちこち血を流していた。
「大丈夫か! 二人とも!」
「ええ、何とかね……、それにしても手強いわね」
蓮は目の前にいるレプシードを見る。
黒いローブを身に包む骸骨は大きな鎌を持っていた。
その姿はまさに生命の死を司る死神だった。
「蓮くん! 気をつけてあいつ攻撃が通じないの」
「攻撃が通じない? どういう意味だ?」
「わかんない。あいつに攻撃当たったと思ったら、何故か自分がダメージを受けちゃうの」
馬鹿なそんなの無敵じゃないか。
死神のレプシードは蓮の方向に接近すると大きな鎌を振り払う。
蓮は間一髪のところで跳躍しかわすと同時に、レプシードの青の炎目掛けて引き金を引いた。
白い閃光が青の炎に直撃したと思った瞬間、蓮の腹部に凄まじい閃光と衝撃が走った。
「ってぇ!」
「蓮!」
シロが叫ぶ。
「どうなってんだ!? あいつ攻撃を跳ね返しやがったのか!?」
しかし、攻撃が跳ね返る軌跡は見えなかった。
まるでレプシードが受けたダメージを蓮が直接受けたみたいな奇妙な感覚があった。
「蓮くん! 大丈夫!?」
「ああ、今のところな」
柊がレプシードに杖を向けると、レプシードの青の炎目掛けて氷の槍が飛んだ。
しかし、氷の矢は青の炎に当たったと思った瞬間、隣にいた柊がゆっくりと倒れた。
蓮は柊に視線を向ける。
するとさっきまで飛んでいた氷の槍が柊の腹部を貫いていた。
「柊!!!」
「蓮くん……」
柊の口から鮮血がこぼれ落ちる。
「蓮! 落ち着くのです! 冷静さを失ったら終わりなのです。それに蓮の力を使えば大丈夫なのです」
「あっ、そうか!」
蓮は柊の腹部目掛けて銃口を向けると引き金を引いた。
白い閃光は柊に当たると激しい光を放ち槍が腹部を貫く前の状態に戻る。
「えっ? あれ!?」
柊は元気を取り戻し、不思議そうにさっきまで穴の空いていた腹部を触った。
「柊あいつの相手は俺に任せろ! 奴の能力がわからないうちに無闇に手を出すのは危険だ」
「う、うん」
柊がうなずく。
蓮は再びレプシードと対峙する。
「これならどうかしら?」
蓮と少し離れた位置にいる相川そう言った。
すると相川の周囲の空間に膨大な量のクナイが出現した。
クナイの雨がレプシード目掛けて降り注ぐ。
レプシードは相川の攻撃をかわすと同時にすごい勢いで相川に接近し大きな鎌を振り払う。
「あぶねぇ!」
蓮は相川とレプシードの間合いに入り、大きな鎌を大太刀で受け止めた。
「ありがとう、助かったわ暁くん!」
「気にするな! それより、あいつどうやって倒せばいいんだ!?」
「まずいわ、青の炎が燃え尽きそうよ!」
相川が叫ぶ。
「くそっ! どうすればいいんだ」
このままレプシードの青の炎が燃え尽きたら最悪だ。
崩壊した病院も巻き込まれた人間も死ぬことになる。
一体何百人の人間が死ぬのだろう?
「蓮……、奴の能力がわかったのです」
「本当かシロ!?」
「はい、あいつの能力はおそらくダブルドア、異空間につながる入り口と出口を出現させる能力なのです。あいつは攻撃が当たる直前に自分の目の前に入口を出現させ、出口をこっちに出現させたのです。だから攻撃がそのままこっちに跳ね返ったきたように見えたのです」
「なるほど、そういうカラクリだったのか! お前よく気付いたな」
「奴が愛梨の攻撃をかわした時にピンっときたのです。何で愛梨の攻撃だけはかわしたのか? それはきっと入口には入りきらないほどの広範囲な攻撃だったから、かわしざるを得なかったのです」
「仮にあいつの能力がダブルドアだったとしたら、どうすればいいんだ? あんな小さなマト狙ってもすぐ読まれるに……、いや待てよ……」
蓮の頭に一つの策が浮かぶ。
しかしこの作戦は相川の協力が必要不可欠だ。
「相川ちょっといいか?」
「何?」
「お前の能力ってイメージしたものを具現化する力だよな?」
「ええ、そうよ。それがどうかしたの?」
「それってお前の知ってるものなら何でも可能か?」
「ええ」
「数はどのくらい出せる?」
「簡単なものならいくらでも出せるわよ」
「よし、上出来だ! これならいける」
蓮は作戦内容を相川に伝えた。
「なるほど、それならいけるかもしれないわね」
「配置はお前に任せた、出来るだけ複雑に頼む。頭の良いお前のことだ信用してるぜ!」
「ええ、任せて」
蓮は死神と対峙すると叫んだ。
「今だ!」
蓮がそう叫ぶと、レプシードの周りを囲むように無数の鏡が出現した。
蓮は手前の三つの鏡目掛けて銃を連射する。
銃から放たれた閃光は鏡に反射しレプシードの周りを目まぐるしく駆け回る。
攻撃の軌跡が読めないレプシードは混乱しキョロキョロと辺りを見た。
鏡に反射された無数の白い閃光は反射を繰り返しレプシードの体のあちこちに風穴を開ける。
そして、無数の閃光のうちの一つが青の炎を貫くと、世界を覆っていた闇が砕け散るように晴れた。




