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おしゃべりカラスとガラクタの町  作者: しろながすしらす
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第21話 三木あかり

 勝はバスを降り病院の正面玄関を通ると受付へ向かった。


「三木勝です。三木あかりの面会に来ました」


 いつも通り短く要件を伝えると、受付の人が「ご家族の方ですね。こちらに名前の記入をお願いします」と言った。

 勝は差し出された名簿に自分の名前と時間を記載した。記入が終わると面会者と書かれたヒモのついた札を渡された。

 勝はそれを首からぶら下げると、あかりが入院している6階の循環器病棟へと向かった。


 6階に上がり三木あかりと書かれた表札を確認しノックして三木は部屋に入った。

 部屋は個室でベッド、小灯台、小さなテレビがある。


 勝はベッドに寝込むあかりを見ると精一杯の笑顔を作り上げた。

 自分が病人より暗い顔をするわけにはいかない。


 あかりは勝の顔を見ると顔がぱぁっと明るくなった。


「お兄ちゃん! 学校は終わったの?」


「ああ、今日は夏休み明けたばっかだからわりと早く帰れたんだ」


「そうなんだ! 良かった。夏休み終わったらお兄ちゃん来なくなるのかなと思って」


「馬鹿言え、お前が嫌って言っても毎日来るぜ! 知ってんだろ俺友達少ないの」


 勝は笑顔を作り上げ親指をぐっと立てた。


「あはは、そういえばそうだね」


 あかりが笑う。


「こいつう、そんな正直なリアクションされたらお兄ちゃん泣いちゃうぞ」


 限りなく本物に近い笑顔を浮かべあかりを突っつく。

 あかりはまた笑う。


 あかりが余命宣告されたのはちょうど夏休みに入る前のことだった。

 元々心臓が悪かった。

 それが今年に入って急激に悪化し1ヶ月ほど前に担当医に事実を伝えられたのだ。

 知っているのは勝とその両親だけであかりにはまだその事実を知らされてはいない。


「ねぇ、お兄ちゃん。また友達の話してよ」


「ん、いいぜ! お前も本当に好きだなその話」


「だってお兄ちゃんの友達面白そうな人ばっかなんだもん」


 勝はいつしかあかりに蓮たちのことを話したことがあった。高校生になってから友達が3人も増えてあまりにも楽しい毎日だったのであかりに自慢した。

 あかりは最初は興味なさそうに聞いていたが、ちょうど夏休みに入る前から何故か蓮たちの話を聞くようになった。


「蓮って人は馬鹿なんだね」


「そうだ、あかりはあんな風になっちゃダメだぞ!」


 勝は密かに思っていた。

 あかりは自分の命があと僅かだということに気づいているんじゃないかと。

 あかりは賢い子供だ。

 10歳とは思えないくらいしっかりしてるし、妙に大人びているところがある。


「そんなに可愛いんだ? 見てみたいなあー、写真とか持ってないの?」


「ああ、本当に男とは思えない。悪い、写真は持ってない。今度写真撮ってくるよ。ぶったまげるぞ!」


 世の中はなんて残酷なんだろう?

 こんな小さな子供に過酷な試練を与えるなんて。


「へー、ハーフの子がいるの? お父さんとお母さんはどこの国の人なのかな?」


「確か親父が日本人で母親がイギリス人って言ってたな。見た目も可愛いけど、意外と天然でおっちょこちょいなところが可愛いんだよな」


 勝はずっと思っていた。

 何で自分が病気じゃなかったんだろう?

 あかりが抱える苦痛、恐怖を代わり抱えることができればどれだけ心が楽になっただろうか。


「ふーん、何か気難しそうな人だね」


「そんなことない。真面目そうに見えて意外とぶっ飛んでてな、この前の王様ゲームやったときなんかーー」


 あかりは優しい子だ。

 あいつは自分が一番つらいはずなのに、周りを心配させないよういつも笑う。

 自分の弱さを隠して誰にも見せないようにする。


 違う、違うんだ。

 本当はお前の笑顔なんて見たくないんだ。

 

 ただ、一度でもいいから泣いて欲しかった。

 抱えてるものを全部さらけ出して怖いと叫んで欲しかった。


 笑顔の仮面を剥いで内側に眠るドス黒い感情を全部ぶちまけて欲しかった。 


「あー、面白かった。お兄ちゃんの話聞いてるだけであかりは幸せだよ」


「そうか、それは良かった」


「良かった。お兄ちゃんが楽しそうで、これだったらもし私が死んでも安心だね」


「馬鹿やろう、縁起悪いこと言うな。今月中にでも退院して動物園にでも行こうぜ!」


「そうだね、楽しみにしてる」


 あかりはまた笑う。


「おう、もうこんな時間かすまんあかり今日は帰るぜ! また明日来るからよ!」


「うん、バイバイお兄ちゃん。あっ、ちょっと待って!」


「何だ、あかり?」


「私もお兄ちゃんの友達に会ってみたいな」


「おう、任せろ! 今度連れってくっからよ!」


 勝は慌てて部屋を出た。

 でなければ、あの場で堪えていたものが全て決壊しそうだからだ。


 良かった、あかりにこんな見っともない姿を見られないで。

 一番泣きたいのはあかりなのに、あそこで涙を流してしまうと勝は一生自分のことを恨むことになるだろう。

 予想通り堪えていたものは嗚咽とともに内側からこぼれ落ち雨となり床を濡らした。

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