第20話 ミッキーの隠し事
あっという間に夏休みは終わり、気がつけばもう登校日。
長期休みの後は朝起きるだけでも憂鬱で億劫だ。
怠けて錆びついた体に鞭を打つと蓮は家を出た。
「よお、ミッキー元気か」
蓮は教室に入ると、正面を向いているミッキーの肩を叩き席に着いた。
ミッキーがゆっくりと振り返る。
「何だかんだ夏休み一度も会ってないからすげー久しぶな感じだな」
蓮がそう言うとミッキーは、
「ああ、そうだな」
と短く返答した。
表情は沈んでおり、いつもと比べてどこか元気がない。
「お前大丈夫か? 顔色悪いぞ。体調でも悪いのか?」
「いや、そんなことない」
「何だ悩み事か? 相談に乗るぞ」
「いや、いいんだ」
「何だよ、水臭いな。どうしたんだよ? 何かあったんなら話せよ」
すると、ミッキーは苛だたしげに、
「何かあったら話せ? それはこっちのセリフだろ? 長い付き合いだからな。お前が俺に話してないことあるぐらいわかってんだよ!」
声を荒げた。
教室が静まり返る。
ただでさえ威圧感のある寡黙な男が突然教室で声を荒げれば誰もが驚く。
教室内にいた柊、零、相川も驚いた様子でミッキーを見ていた。
「……ミッキー」
「わ、悪い。言いすぎた。今のことは気にしないでくれ。ごめんな……、ちょっと疲れてたんだ」
「こっちこそ悪かった。ちょっとしつこかったよな……」
「いや、そんなことない。気にかけてくれてありがとうな。ただ今は放っておいてくれ……」
これ以上ミッキーに話しかけること出来なかった。
蓮はこんな不安定なミッキーを一度み見たことがなかった。
一体何があったんだミッキー?
授業中、蓮のスマホが振動した。
柊からのメッセージだった。
「ミッキー大丈夫かな? ねぇ、ミッキーが言ってた隠し事ってたぶんレプシードのことだよね?」
「ああ、詳しい内容まではバレていないみたいだけど、何か隠してるってことは感づいてるらしい」
「ミッキー、もしかして私たちが隠し事してるのに疎外感感じてあんな風になっちゃったんじゃないかな? どうする? ミッキーなら信用できるしレプシードのことについても話していいんじゃないかな?」
「いやダメだ。レプシードのことは神威が使える俺たちだけの秘密だ。レプシードに対抗する手段を持たないミッキーを巻き込むわけにはいかない。それに隠し事のことは絶対関係ないと思う」
「どうして言いきれるの?」
「ミッキーはそんな器の小さな男じゃないし、何より長い付き合いだからわかるんだ。あいつお人好しのくせに自分が困ると人に頼らず自分一人でどうにかしようする悪い癖があるんだ」
「何だろう、ミッキーが困ってることって?」
「俺が放課後探ってみる」
「わかった! 何かあったら言って!」
「おう、頼りにしてる」
蓮はポケットにスマホをしまうと机に突っ伏した。
放課後、蓮は教室から出たミッキーの後を追った。
ミッキーのことだ。きっと直接聞いても教えてくれないだろう。
夏休み中、一度もミッキーと会うことがなかった。
きっとミッキーは毎日のようにどこかへと行っていたんだろう。
そして今日もどこかへと行くかもしれない。
ついていけば何かわかるかもしれない。
蓮はバレないようにミッキーの後を追う。
ミッキーはいつもと違う帰り道を歩くとバス停に止まった。
あいつ電車通学だろ? どこに行くつもりだ?
すると、バスが来てミッキーが乗り込む。
このまま一緒に乗り込めばさすがにバレる。
「くそっ、まいったな」
蓮が悩んでいるうちにバスは動き出す。
「ああ、どうしよう! まさかバスに乗るとは」
走って行くか?
いや、無理無理!
神威の力を使えばバスを簡単に追いかけることが出来るが論外だ。
超スピードで動く高校生がいたら怪しまれる。
蓮が頭を悩ませていると、
「蓮くん、こっちこっち!」
柊の声が聞こえた。
声のした方向を見ると、タクシーの窓から顔を出す柊がいた。
奥には零と相川もいる。
「お前ら」
蓮はひとまずタクシーに乗り込みバスを追ってもらうことにした。
「ごめん、やっぱ心配でついて来ちゃった」
柊が手を合わせて片目を閉じた。
「いや別にいいけど、てかお前準備いいな」
「ううん、念のためってことで愛梨がタクシーを手配したんだ」
「さすが、相川! よくミッキーがバス乗るってわかったな」
「さすがに交通手段まではわからなかったけど、いつもの駅とは違う方向だったかなもしかしてと思ってね」
「なるほど」
バスを追っかけてしばらくするとミッキーが停留所で降りた。
蓮たちも一緒に降りる。
「おい、あれって」
蓮達は大きくそびえ立つ建物を見上げた。
それはこの地域で一番でかい大学病院だった。




