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おしゃべりカラスとガラクタの町  作者: しろながすしらす
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第19話 打ち上げ花火


「ねぇねぇ、あれやってみたい!」


 柊が蓮の袖を引っ張り無邪気にはしゃぐ。

 まるで久しぶりの散歩にハイテンションになった犬みたいだ。


「おい、走ったら危ないぞ」


「ねぇ、蓮くんもこれ一緒にやろうよ」


 柊の視線の先を見ると型抜きの屋台だった。

 店の前には長い簡素なベニヤ板のテーブルがいくつも並んでいる。

 テーブルの近くでは子供達が集中しながら型抜きをやっていた。


 型抜きとは電車の切符くらいのサイズのうすい板状の砂糖菓子みたいなもので、そこには動物や傘、花などの様々な絵柄が描かれている。


 その溝を爪楊枝や針などで地道に削り絵柄を割らずにくり抜くことが出来たら賞金がもらえるというものだ。絵柄によって難易度が違い、難易度が高いものだと賞金高額だったりする。


「ああ、これかやめといた方がいいぞ。難しいし成功した試しがない」


「おじさん型抜き二つください」


「聞けよ、人の話」


「はい、蓮くんの分!」


 柊が一枚の型抜きを蓮に手渡した。


「おう、ちょっと待ってくれ」


 蓮がポケットから財布から出そうとすると、柊は手を振って断る動作をした。


「いいの、いいの! 私のおごりだからそれに型抜き成功させればチャラになるし」


「あのなー、そんな簡単に成功しないって」


 蓮と柊はテーブルにしゃがみ込み、テーブルに刺さっていたピンを手に取り型抜きを始めた。


「あっ! 割れた」


 蓮は割れた型抜きを食べつつ柊の様子を見た。


「できたー!」


 柊が綺麗にくり抜かれたチューリップを掲げた。


「マジか! お前すげーな。しかもそれ中々高難易度のやつじゃん」


「ふふん、どうだ!」


 柊が誇らしげな顔で腕を組んだ。


「それじゃあ、次行こうよ!」


 柊は忙しなく動き回る。


「あれ、そう言えば相川と零は?」


 気がつけば二人の姿は見当たらなくなっていた。

 どうやら、柊と遊んでいるうちにはぐれてしまったらしい。

 周囲は人だらけで探すのは難しそうだ。


「んー、わかんない。でもそのうちまた合流できるでしょ!」


「まあ、それもそうだな」


 遊びまわってたらそのうち見つかるだろう。

 動き回っているうちに小腹の空いた蓮と柊は屋台でお腹を満たすことにした。

 焼きそば、イカ焼き、たこ焼き、フランクフルト、かき氷、りんご飴次々と回っていく。


「うぷ、俺さすがにもう腹一杯だわ、お前わりと食うのな」


 柊は次々と小さな口に食べ物を運んでいく。

 小柄な体からは想像もつかない食欲だ。


「あっ、あれ食べたい」


 柊がチョコバナナの屋台を指差す。


「俺はもういいや……」


 屋台の列に並んだ柊がしばらくすると、チョコバナナを二つ持って戻ってくる。


「じゃんけんで勝ったらもう一個もらえた」


 そういえばあったなー、そんなんの。

 店によってはじゃんけんで勝てばもう一本サービスって、子供の頃は遠くから屋台のおじさんの癖を見抜いてから並んでたっけな。

 柊は無邪気な笑顔で笑いチョコバナナを差し出す。

 正直お腹いっぱいだったが、蓮は柊の笑顔に負けてそれを受け取る。


「おう、サンキュー!」


「並んでる時ずっと見てたんだけど、屋台のおじさん3回に1回はパー出してたから、簡単に勝てたよ」


「お前、本当に祭り初めてか? 何気に攻略法わかってるじゃないか」


「えへへ」


 チョコバナナを食べながら二人で歩いていると、まるで心臓と同調するようなドーンッという音が鳴り響いた。

 ドーンッという音の後に何かが散るようにパラパラと音がする。

 音の発信源を辿ると、空を色鮮やかな光が照らしていた。


「わーっ! 打ち上げ花火だ」


 柊が歓喜の声を上げ空を見上げる。

 花火の光で強調されたピンクを基調とした花柄の浴衣はとても似合っていて可愛らしい。


「もうちょっと、近くで見て見るか?」


「うん!」


 提灯がずらりと並ぶ道を通り過ぎると、花火がよく見える位置まで辿りついた。


「すごい綺麗だね」


「そうだな」


 蓮と柊は無言で花火を見つめた。

 花火が終わると周りにいた人間が少しずつ去っていく。親子連れもいたが、ほとんどはカップルだった。


「何かカップルばっかだね」


「そうだな」


「……私と蓮くんも周りから見たらカップルに見えるのかな?」


 柊が上目遣いで蓮を見上げる。


「二人で歩いてたら、そう見えるかもな」


「そっか……、あのさ蓮くんはその……」


 柊が落ち着きなく視線をキョロキョロと動かし言い淀む。


「何だ?」


「……彼氏とかいるのかな?」


「んなわけあるか! 俺はホモじゃない!」


「ああ、ごめん、ごめん! 間違えた。彼女! 蓮くんは彼女いるの?」


 柊が顔を真っ赤にし慌てたように手をバタバタと動かす。


「いないよ」


 柊はほっと短く息を漏らすと、


「彼女作らないの?」


 と聞いてくる。


「いや、そりゃ、メチャメチャ欲しいよ。彼女。ただ相手がいないからなあ」


「蓮くんはどんな子が好み?」


「うーん、あんま深く考えたことないけどやっぱ趣味とかはあう方がいいな。それと家庭的な子がいいなあ。後何より一緒にいて楽しいってのが一番かな」


「……なるほど、家庭的か。うーん」


 柊はうつむき小さな声でボソボソと喋った。


「そういえば蓮くん!」


 すると柊は突然大きな声を出した。


「な、何だ?」


 こいついきなりテンションおかしくなったな。

 大丈夫か?


「この前私がオススメしたラノベどうだった?」


「メチャメチャ面白かったよ! 正直見くびってたわ。あれは間違いなく名作だよ。なあ他にも面白い作品あったら教えてくれよ」


「うん、蓮くんもラノベ好きなんだね」


「ま、まあな。ぶっちゃけすげー面白かったよ」


「私と蓮くんって意外と趣味合うね」


「そうだな」


「趣味合うね」


「おう」


 すると突然柊は小さく舌打ちした。

 え? 何!? 怖い怖い。

 蓮は今の流れに不適切な発言があったか思い返すが特に不審な点は見当たらない。

 きっとさっきの舌打ちは蓮の聞き違えだろう。そう思うことにした。


「てか柊はどうなんだ? 恋人とか気になってる人いないのか?」


「えっ! 私! 私はえと、その、あの」


 柊は露骨に動揺する。


「おう、とりあえず落ち着け……」


「私は……、気になってる人はいるかな」


「マジか、どんな奴?」


 柊に好意を寄せられるとかどんな奴なのだろうか?

 正直殴りたい。


「えーっと、困っている人を放っておけないお人好しさんで、以外と行動力あって、鈍い人」


「なるほど」


 蓮は柊が気になっている人物を思い浮かべる。

 柊と関わりある人といえば蓮、零、ミッキーの3人くらいだ。

 ミッキーと零はどっちもお人好しそうだしなあ。

 そういえばミッキーは可愛いもののためなら以外と行動力あるし、何となく鈍そうでもある。

 ミッキーか!?

 よし夏休み明けにまずあいつを殴ってやろう。


「蓮くーん! 助けて!」


 後ろから零の大きな声が聞こえた。

 慌てて振り向くと、グデングデンになった相川を零が抱えていた。


「どうしたお前ら!?」


「それが、色々あって相川さんがお酒飲んじゃって、暴れまわって大変だったよ」


 零のサラサラした髪は乱れ、額には汗が滲んでいる。

 その姿を見るだけど、随分苦労したことが伝わってくる。


「何をどう間違えたらお酒飲むんだよ!?」


「色々あったんだ……」


 零は力なくうなだれた。説明する気力もないらしい。

 すると、ぐったりと下を向いていた相川が顔を上げ目を見開くと、


「あなた達、今から射的行くわよ! 負けた人は全裸になって踊ってもらうわ!」


「落ち着け相川、何を言ってるか全くわからん。てか射的に勝敗とかあんの?」


「うるさい! 行くわよ!」


 相川がジタバタと激しく動く。

 零は暴走する相川を手で制しながら「ちょっと、相川さん、そんな動いたら危ないって……、ああもう馬鹿」と思わず本音を漏らした。

 零の口から暴言を引き出すなんて大したやつだ。


「わかった! とりあえず射的行くか。お前ら負けたら全裸になれよ!」


 このまま、暴走されても困る。むしろここは乗っかりエネルギーを発散させて鎮静しよう。

 祭りはまだ始まったばかりだ。


 これだけ、賑やかな夜を過ごしたのはいつぶりだろうか?

 今日はきっと最高の思い出になる。


 でも楽しいことにもいつかは終わりが来る。同じ夏はもう二度と来ないし、時間の経過と共にそれは風化してしまうだろう。


 きっと今日の楽しかった出来事も打ち上げ花火のようにあっという間に過ぎ去ってしまうと思うと蓮は少し切ない気持ちになった。 

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