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おしゃべりカラスとガラクタの町  作者: しろながすしらす
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第16話 カラスの水浴び

 

 人生とは何か?


 それは誰も一度は考える人類の永遠の謎ではないだろうか?

 人生という限られた時間を使い、悪魔に取り憑かれたように身を粉にして働く者も入れば、社会からドロップアウトし怠惰で自堕落な生活を送る者もいる。

 時間の使い方はその人次第だが、向上心を持って日々精進し己を磨くことが人生に潤いを与えてくれる。

 とテレビの偉そうなおっさんが言ってた。

 本当かどうかは不明確だが、確かに向上心を持って小さな努力を積み重ねている方が見栄えはいいような気がする。


 修学旅行が終わり今日は振り替え休日だった。

 貴重な休日。


 潤いのある豊かな人生を送るためにも、今日一日、能動的に活動し有意義のある一日を過ごそう!

 ……とは思わなかった。


 理由は単純とにかく疲れが溜まっていた。

 単純に修学旅行の疲れもあるけど、最近、色々と現実離れした日常に巻き込まれることが多かったためか、疲労はピークに達していた。


 今日はもうとにかく寝よう。

 そして12時くらいに起きてダラダラ過ごそう。

 午前9時を指す時計の針を見て蓮は二度寝しようと目を閉じた。


「大変なのですー!」


 シロがバサバサと羽を忙しく動かす音が聞こえる。


「蓮! 大変なのです。起きるのです!」


「……」


「起きるのですー!!!」


「痛っぁぁぁ!!!」


 突然蓮の首筋に激痛が走った。


「何すんだお前! 首狙う奴があるか!? もうすぐで永遠の眠りのつくとこだったぞ」


「そんなことどうでもいいのです。思い出したのです!」


「何を?」


「私の名前です」


「そうか」


 蓮は再び眠りにつく。


「アッーーー!!!」


 シロが今まで聞いたことなのないような発声をすると同時に再び激痛が走る。


「いってぇぇぇぇぇ! だぁぁっ! 首はやめろつってんだろ!!」


「人の話を聞かない蓮がいけないのです」


「ちょっと待って。それ今聞かないといけないやつ? 俺今すごく眠いんだけど」


「次寝たら目玉を狙うのです」


「二度寝しただけで視力を奪う気か!?」


「大丈夫のです。再生の力で何とかなるのです」


「そういう問題じゃない!」


 シロのしつこさに負け蓮は話を聞くことにした。

 ベッドから体を起こし、顔を洗うと蓮はリビングのソファーにドサっと腰掛けた。


「私が誰なのが思い出したのです」


「ほう」


 蓮はテレビのリモコンを手に取った。


「私の名前はシリウス・エレス、この世界を見守る再生の神なのです」


 蓮はテレビにリモコンを向けて電源ボタンを押した。


「なるほど」


 テレビには砂嵐が映っていた。

 マジかよ。とうとう寿命がきてしまったのか……


「そして逆にこの世界を滅ぼそうとする破壊の神に騙された私は戦いに敗れ死んだはずなのです」


「マジか……」


 蓮は微かな希望を込めてチャンネルを変える。

 しかし、画面は砂嵐のままだった。


「何ですかそのしけたリアクションは? 想像していた反応と全然違うのです」


「いやだって、いきなりそんなこと言われても話が異次元すぎてついていけないって。そんなことよりシロこのテレビ再生の力でどうにかならない?」


「アッーーー!!!」


 シロは飛びかかり、再び蓮の首筋めがけてクチバシを突っ込んだ。


「アッーーー!!!」


 クリティカルヒットした蓮はシロと同じように声を上げ、その場でジタバタともがき苦しんだ。


「な、何しやがる……、ありとあらゆる生物の急所を狙うなんてタチが悪いぞ」


「神秘の力をこんなことに使うとは何事なのです! ていうかそれが人の話を聞く態度ですか!?」


「いやだって、俺今日家から出たくないし、テレビがないと暇すぎて死んじゃうよ。なぁ頼む一生のお願いだ。テレビ直してくれよ」


神威(かむい)をそんなことに使うなんてダメなのです」


「えっ、神威(かむい)?」


 蓮は聞き慣れない言葉に思わず聞き返した。


「神の力を一時的に人間にトレースする高等技術なのです」


「ああ、閉鎖空間のあれか。ん? てか今思ったけどあれって現実世界でも使えるのか?」


 今思えば蓮が神威(かむい)を発動したのは全て閉鎖空間だ。


「現実世界でも使えないことはないのです。ただ強力な力なので現実世界ではあまり使いたくないのです」


「頼む! テレビを治すだけだから、何でもいうこと聞くからさ」


「何でも?」


 蓮はシロの揺らぎかけた心を見逃さなかった。


「ああ、何でもだ。そうだ! そういえば今、冷蔵庫にはめちゃくちゃ美味しいプリンがあるんだった」


「めちゃくちゃ美味しいプリン……」


 シロが餌に食いつく。

 後は引き上げるだけだ。


「ああ、天使の谷間と呼ばれるそれはプリンを作ることだけに人生を捧げた職人が生み出した幻のスイーツだ。何年先も予約が埋まっているそれはかなり入手困難でな。この機会を逃したらもう一生食べることはできないだろうな。まあ、お前がいらないというなら俺がありがたく堪能させてもらうが」


「わかったのです。蓮のお願いを引き受けるのです。再生の神様は助け合いの精神を重んじるのです!」


 蓮はあっさりとシロを説得することに成功した。

 再生の神様チョロいっすわ。


「ただし、もう一つお願いがあるのです」


「何だ?」


「水浴びをしたいのです。今思えば私はこの世界に来て一度も体を洗っていないのです。不潔な再生の神様なんて嫌なのです」


「まあ、そんくらいならいいよ」


 蓮は風呂場に行くとオケにお湯を張った。

 そして蛇口をひねりシャワーの温度を人肌に調整する。


「ほらこっち来い。洗ってやるよ」


 シロは少し離れた位置で警戒するように蓮を見つめている。


「蓮は乙女の体を蹂躙する気なのですか?」


「ん、お前メスだったの? 別にカラスの姿だしいいじゃん」


「ダメなのです。私は一人で体くらい洗えるのです。蓮はあっちに行くのです」


「わかったよ。思ったら呼んでくれ」


 蓮はその場から離れた。

 昼までに軽く小腹を満たそうとトーストをかじっていると、


「うわぁぁぁぁ、蓮助けてなのです! このままでは死んでしまうのですー!」


 と風呂場からシロの悲鳴が聞こえた。

 蓮は風呂場に駆けつけ扉を開けると、シャワーヘッドは天を向き噴水のようになっていた。その横には一羽のカラスがひっくり返りぐったりしていた。

 シロはプルプルと小刻みに揺れ絞り出すような声で喋った。


「……蓮、私一人でお風呂はまだ早かったのです……」


「……だから言ったろ」


 結局蓮はシロの体を洗ってあげることにした。

 やべ! ボディソープ切らしてる。まあ、シャンプーでいいか。

 蓮はシャンプーを手に取り両手で泡立てるとシロの体をゴシゴシと洗う。


「お前、武器とかに姿変えれるんだから人型にとかなれないの?」


「私は確かに破壊の神に敗れる前は人の姿をしていたのです。だけどその姿が思い出せないのです」


「そうか……、それにしてもお前なんか唐突に色々思い出したな。なんかあったのか?」


「いえ、特別何かあったわけではないのですが、最近、徐々に忘れていたことを思い出しつつあるのです」


「お前さっき破壊の神がどうとか言ってたけど、レプシード化の犯人はおそらく、その破壊の神ってことだよな」


 頭をゴシゴシするとシロを気持ちよさそうに目をつぶった。


「間違いないのです。ただ破壊の神も私と同じで直接世界に干渉することはできないので、蓮と私と同じようにパートナーとなる人間が存在するはずなのです」


「そのパートナーが神威(かむい)を使って人間をレプシードに変えてるってことか?」


「破滅の魔弾……、それは人の負の感情を増幅させると同時に理性で押さえつけられた魔物を檻から出してしまうのです」


「あの時、柊が見た黒い玉ってのはそれか?」


「間違いないのです」


 水浴びをすました後蓮は約束通り、神威(かむい)を使いテレビを直してもらうことにした。

 シロが銃へと変化する。

 蓮は右手に持った銃をコメカミに当てると引き金を引いた。

 そしていつもの姿になる。


「こっちでもこの姿になるのかよ」


「強く憧れた姿は現実世界でも影響を及ぼすのです。蓮はよっぽどその姿が好きなのですね」


「んなわけあるか! こんな格好で外で歩いたら笑い者もいいこところだ」


「安心するのです。その姿を見えるのは同じく神威を使えるものだけなのです。玲奈と愛理以外には普通の姿に見えるのです」


「そんなこと言われてもこの格好で外出する勇気はないな」


 蓮はテレビに銃を向けて引き金を引いた。

 白い閃光はテレビに当たると、テレビは光り輝き新品の状態に戻った。


「うおお、すげー! さすが再生の力」


 目的を果たした蓮は神威(かむい)を解除する。

 やはり、休日はゴロゴロしてテレビを見るに限る。

 ソファーに腰掛けリモコンを押すがテレビはつかなかった。

 あれっ? と思いテレビの主電源を押すとテレビは問題なく映った。

 どうやら、リモコンの電池が切れていたらしい。替えの電池を探したが見つからなかった。


「なあ、シロ」


 蓮は取り憑かれたように天使の谷間を無言で食べているシロに声をかけた。


「電池くらい自分で買いに行くのです」


「お前よく俺の言いたいことがわかったな」


「蓮は単細胞だから考えはお見通しなのです」


 結局蓮は外出することにした。

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