第15話 動物とおっぱいどっちが好き?
レプシードを倒し元の世界に戻った後、蓮は最初に閉鎖空間が出現した場所に戻されていた。
「なあ、前から思ってたんだけど何で閉鎖空間が閉じた後って、その場に止まらないでわざわざ戻されるんだ? 柊の時と駅のレプシード事件の時も確かそうだったよな」
「当たり前なのです。元の世界の蓮は一歩も動いてないのですから、動いてるのは閉鎖空間の蓮なのです」
「ああ、なるほどそういうわけか」
蓮は歩きながら先ほどレプシードと戦った場所に移動する。
きっと柊と相川はもう会っているはずだ。
「蓮、今回は本当に良くやったのです。まさかあれほど力を使いこなせるようになってるとは思わなかったのです」
「まあ、実物をあんだけジックリ見てたからな」
「それでも、あんな瞬時にイメージして武器を切り替えるのは簡単にできることじゃないのです。やっぱり蓮を選んで間違いじゃなかったのです」
「何だよ。今日はえらく褒めるじゃないか。俺のことを見直したか?」
「私は蓮なら必ず世界を救えるって信じてるのです」
いつもなら、何かしらケチをつけてくるシロにべた褒めされ蓮は少し恥ずかしくなった。恥ずかしさを誤魔化すように蓮は話題を逸らした。
「そういや、さっきの再生の力だったか? あれ凄かったな。腕とかすぐに治ったし」
「再生の力……、選ばれたものだけが使える唯一無二の力なのです」
「でも、ぶっちゃけ俺は柊みたいな派手な能力の方が良かったな。治すって凄いっちゃすごいけど、ちょっと地味だし」
「私には色々な力があって、それを契約した者か、適性のある者に分け与えることができます。玲奈の力も私の数ある力の内の一つなのです」
「他にも能力が?」
「はい、ある一つの力を除けば私の能力は適性のある者なら誰にでも使うことができるのです。つまり玲奈の五大元素を操る力は適性があれば玲奈じゃなくても使えるのです。今は玲奈に力を受け渡しているから玲奈しか使えませんが」
「ふーん、そのある力が再生の力ってわけか。でも何で俺にしか使えないんだ」
「それは、選ばれたからとしか言えないのです。この世の人間でこの力を扱えるのは蓮だけなのです」
「壊れたものを治す力か? 使いようによっては便利かもな」
「さっきも言ったけど、壊れた物を治すとはちょっと違うのです」
「何が違うんだよ?」
「壊れたものを修復するのではなく。壊れたものを壊れる前の状態にまで戻す力なのです」
「いや、一緒じゃないかそれ?」
「そんなことないのです。過程が変われば結果は大きく変わるのです」
「なるほど、よくわからん」
「蓮はちょっと頭がアレなので仕方がないのです」
「おい、選ばれし者の脳をアレとか言うんじゃない」
シロとそんなやりとりをしながら歩いていると、柊と相川の姿が見えてきた。
「あっ! 蓮くんこっちこっち」
柊は蓮を見ると手招きをした。
蓮は二人の元に近づき、この目で相川の無事を確認した。相川はさっきとは打って変わって晴れ晴れとした表情をしていた。
まるで、レプシードの浄化とともに負の感情が消え去ったようだった。
「暁くん……、いくら動物園とはいえ鳥をこんなところまで連れてくるのは良くないと思うわ」
相川が蓮の左肩のシロを見て言った。
「嘘!? それってもしかして……」
柊が驚いたように手で口を覆った。
「ああ、みたいだな」
相川が不思議そうな顔をした。
「愛梨も同じ素質の持ち主なのです」
「えっ! 鳥が喋った。ていうか何で私の名前を?」
蓮は相川にレプシードの存在、閉鎖世界、レプシードを浄化する力のこと、そしてレプシード化を起こしている犯人の存在について話した。
「嘘……、あれやっぱ夢じゃなかったんだ」
相川は驚いたような表情を見せた。
あまり動揺することないレアな表情だと蓮は思った。
「それじゃあ、あの時のダサ……、個性的な格好をした暁くんは本物なの!?」
「もういいわ! そのリアクション聞き飽きたわ! いっそのことダサいって言えよ!」
「あのダッサイ格好した暁くんが私を助けてくれたの?」
マジで言いやがったよこの女。
「ああ、あのダッサイ格好をした俺が相川を助けたんだよ」
「そう、ありがとう」
相川がそっぽを向いて短くお礼を言った。
おい、せめて目合わせろよ。これでも命の恩人なんだぞ。
「そういえば、愛梨はあの時のこと覚えてるの?」
「うーん、ぼんやりとしか覚えてないわ。暁くんのインパクトが強すぎて全部忘れた感じね」
「おい、俺のせいにするんじゃねぇよ」
「まあ、何がともあれ、みんな無事で本当に良かったよ」
柊が嬉しそうに笑った。
「そういえば、柊お前あの時、見たって言ってたけど何を見たんだ?」
柊はレプシードと対峙しているときに何かを見たって言っていた。
あれは一体何のことだろう?
「私ね、見たんだ。愛梨がレプシードになる前に、どこからか飛んできたすごい速さの黒い球が愛梨の頭に当たるのを……、そしたら愛梨が突然頭を抱えだしたと思ったらレプシードに……」
黒い球、間違いない。
これがレプシードになるきっかけだ。
「そういえば、あの時急に頭が痛くなって、そしたら目の前が真っ暗になった気がするわ」
相川がその時の出来事を思い出したかのように言った。
「間違いない。その黒い球が人をレプシードに変えたんだ。その球がどこからか飛んできたかわかるか? 後近くに怪しい奴はいなかったか?」
「うーんよくわかんない。周りには大勢の人がいたし、それに私もあの時は余裕がなくてそれどころじゃなかったから」
「黒い球……」
シロが呟く。
「何か心当たりがあるのか?」
「いえ、ただ……、もう少しで何か思い出せそうな気がするのです」
話しながら進んでいると、零との待ち合わせ場所が見えてきた。
蓮とミッキーがこっちを見た。
二人は元気を取り戻した相川を見て安心したような表情を見せた。
「相川わかってると思うが、このことはみんなには秘密だからな」
余計なことを話して二人を事件に巻き込みたくない。
あの二人なら、蓮の話を信じて協力しようとするかもしれない。
レプシードに対抗する力がない者が関わるのは非常に危険だ。
「わかってるわ。乳が如くー失われた桃源郷ーのことはみんなに黙っておくわ」
「いやそっちじゃねぇよ! いやそっちもだけど……」
「冗談よ。わかってるわ」
「ならいい」
「おーい! お前ら急げ! 今から動物ショーやるらしいぞ。なんとペンギンと触れ合えるらしい。時間もないし急ぐぞ!」
ミッキーは叫ぶと走りだした。
完全に可愛いものスイッチが入っていた。
零はややあきれた様子で微笑むとミッキーの後を追う。
「えっ! 本当に」
柊もつられて走り出す。
出遅れた蓮と相川はゆっくりと歩きみんなの後を追うことにした。
「あいつら本当動物好きだな」
「暁くんは動物嫌いなの?」
「いや、普通に好きだよ」
「おっぱいとどっちが好き」
「おっぱい」
「正直でよろしい、そんな暁くんにはご褒美を差し上げましょう」
そう言って相川は俺の右手を掴むと自分の胸に押し当てた。
制服の上からでもわかるほどの大きな膨らみを持つ胸に右手が触れる。蓮は例えようのない柔らかい感触に支配され思考が乱れた。
「ちょっ、おま、な、何を!?」
蓮は相川の突然の行動に露骨に動揺した。
「ありがとう、あの時は助けてくれて本当に嬉しかったわ。私も決してあなたのことを嫌ったりしないわ」
相川が笑った。
蓮は相川が初めて見せた満面の笑みに思わず心を奪われた。
「二人とも遅いよ! 何やってーー」
先に走っていた柊が振り返り蓮を見た。
柊は一瞬フリーズする。
蓮は断じて自分から触りにいったわけではない。
しかし、途中の過程を見ていなかった柊の目にはいまの光景がどう見えたのだろうか?
「あーーーー!!!」
柊が大きな声で叫ぶ。
「どうした!? 柊さん」
柊の突然の大声にミッキーが反応した。
「蓮くんがおっぱいと触れ合ってる!」
おっぱいと触れ合ってるように見えるらしい。
まあ、そうだよね。




