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おしゃべりカラスとガラクタの町  作者: しろながすしらす
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第14話 修学旅行最終日 ー心の鎧ー

 3日目、修学旅行最終日。 

 午前中は予定通り動物園に行くことになった。


「ねぇ、愛梨! パンダ見に行こうよ!」


 柊が昨日のことを全く気にしてないよと言わんばかりに明るい口調で言った。


「私はいいわ、ちょっと一人になっていい?」


 相川は昨日からずっとこの調子だ。

 話しかけても、反応は素っ気ない。


「あっ、待って! 愛梨!」


 相川は柊の問いかけを無視してどこかへ行ってしまう。


「愛梨、大丈夫かな?」


 柊は心配そうに呟いた。


「昨日の今日だ。今は放っておいたあげたほうがあいつのためかもしれない」


「でもっ!」


「うん、僕もそう思う。誰にだって一人になりたい時はあると思うんだ。今無理に話しかけるよりもそっとしてあげたほうが相川さんにとっては気楽かもしれない」


「無理もないぜ、あんなことがあった後だ」


「そうなのかな?」


 柊が考え込むような顔でうつむく。


「私、愛梨の力になってあげたいよ」


「それは俺も同じだ。今は落ち込んでもしょうがない。とりあえず、俺たちも適当に見て回ろう」


 蓮たちは相川を除いて4人で動物園を見て回ることにした。

 みんな昨日のことが引っかかっているのか心ここにあらずという感じだった。

 誰一人、動物園を楽しんでるようには見えなかった。


「蓮、玲奈ちょっと耳を貸すのです」


 シロが突然話しかけてきた。

 蓮と柊は黙ってシロの言葉の続きは待った。


「愛梨のところに急いだほうがいいかもしれないのです。嫌な予感がするのです」


 蓮は零とミッキーに聞こえないよう小さな声で肩に止まっていたシロに話しかけた。


「それってレプシード化するかもしれないって意味か?」


「可能性はゼロじゃないのです」


「まさか、そんな偶然……」


 といいつつ蓮も少し嫌な予感がしていた。


「私やっぱり、愛梨のところ行ってくる」


「あっ、おい!」


 すると、柊はどこかへと走って行った。


 万が一、相川がレプシード化したら柊は一人でレプシードと相対することになる。

 それは幾ら何でも危険すぎる。

 蓮は居ても立っても居られなくなり柊の後を追うことに決めた。


「悪い、零ちょっとここで待っててくれないか? すぐ戻るからさ」


「うん、いいよ」


「助かる。ってミッキーはどこ行った?」


「さっき、トイレ行ってくるって言ってたよ」


「そうか、じゃあ、ミッキーと一緒にそこで待っててくれ!」


「うん、わかった。僕はここで待ってるよ」


 零は短くうなづいた。


 蓮は急いで柊が走っていった方向へと足を向けた。


「なあ、シロ、レプシード化の犯人の目的は一体何なんだろうな? 無闇に人を化け物に変えて一体何を考えているんだろ?」


「今はまだわからないのです。ただ早く犯人を捕まえないと取り返しのつかないことになるのです」


「そうだな、とりあえず考えるのは後か」


 蓮がそう言った瞬間、突然あたりが急に黒く霞がかり景色を侵食した。

 間違いない、閉鎖空間だ。レプシードが誕生するときに繋がってしまう異空間。それは人間の感情が渦巻く精神世界でもある。


 シロの嫌な予感は最悪の形で的中した。


「嘘だろ!? まさか……、近くにレプシード化の犯人が!?」


「蓮! 早く能力を発動するのです! 私の力の柱である蓮が能力を発動しなければ玲奈は生身のままのです。私の力の一部を引き継いでいる玲奈はなら閉鎖空間を自由に動きレプシードを見ることはできますが、生身のままだと非常に危ないのです」


 シロは瞬時に銃へと変化を遂げた。


「ああ、わかった」


 蓮は右手に握りしめた銃をこめかみに当て引き金を引いた。

 ズガンっという衝撃とともに戦闘モードに切り替わる。


「くそっ! 柊はどこだ!? 早くしないと危ない」


「蓮そのまま右に曲がってまっすぐ進むのです」


 銃になったシロが蓮に話しかける。


「居場所がわかるのか!?」


「レプシードの居場所はわからないけど、私の力を引き継いだ玲奈の居場所なら分かるのです。レプシードを倒すことも大切ですが、今はとりあえず、玲奈と合流するのです」


「ああ、わかった」


 蓮はシロに案内された通りに進む。

 シロの力で強化状態にある蓮はとてつもない速さで柊のいる場所へと向かう。

 近づくにつれて何かが衝突するような激しい音が聞こえてくる。

 建物が崩壊しているのが見えた。

 あそこだ。

 

 蓮が到着した頃には柊はすでにレプシードと対峙していた。

 柊は宙に浮きながら正面にいるレプシードに向かって杖を向けている。

 柊は無傷のようだが、息を切らしだいぶ体力を消耗している様子だった。


「大丈夫か! 柊」


「蓮くん!」


 蓮は柊から近い位置に立ちレプシードを見た。

 レプシードは蓮と同じくらいの背丈の人型だっだ。

 全身を赤黒い鎧に身を隠し正体は見えない。鎧の間接部などのわずかな隙間からは黒い煙が溢れ出でいる。

 レプシードは身の丈ほどの大きな剣を握りしめている。


「あれは、もしかして相川か?」


「うん……、私はっきりと見たんだ……」


「見た? 犯人をか?」


「ううん、違う。あっ! 来るよ蓮くん!」


 柊がそう叫んだ時、レプシードの周りの空間に無数の剣が現れた。

 その無数の剣は蓮めがけて飛んで来る。


「剣は私に任せて、だから蓮くんは本体を狙って!」


 そう言うと、柊は能力を使い無数の氷の剣生み出し、レプシードの剣を相殺した。


 蓮は銃を構えレプシード目掛けて連射する。

 しかし、レプシードは白い閃光を鮮やかな剣さばきで撃ち落とした。


「なるほど、剣には剣か」


 蓮は目をつぶり神経を研ぎ澄ませた。

 刀身、鍔、柄、刀を構成するものをしっかりイメージし自分の目の前に存在していて当たり前だと強く思いこむ。

 すると、銃が光り輝いた。

 やがてその光は縦に伸び一本の日本刀へと姿に変えた。

 その研ぎ澄まされた刀身は微かに光を帯びている。


 蓮は一気に踏み込みレプシードに距離を詰めると刀を振り下ろした。

 レプシードは蓮の攻撃を受け止める。


 蓮は接近してある違和感に気づく。

 おかしい、そんなことあるわけがない。


「どうなってるシロ? 何であいつには青の炎がないんだ!?」


 青の炎。

 レプシードの命の灯火とも言えるその炎はレプシードの原動力であると共に弱点でもある。

 青の炎が燃え尽きる前にレプシードを倒さなければ、レプシードになった人間は死んでしまい、閉鎖空間で起きた 被害が現実となる。


 それを防ぐためには、青の炎が燃え尽きる前に浄化する必要がある。

 にも関わらず、蓮の目の前にいるレプシードにはあるはずの青の炎が見当たらなかった。


「ないってことは絶対にありえないのです。きっと……、どこかに隠してあるはずです」


 蓮はレプシードの連撃を受け止める。


「鎧の中か」


「はい。そう考えるのが妥当だと思うのです」


 蓮はレプシードの剣を下から振り払うように弾いた。

 そして逆さずレプシードの胸の中央に刀を振り下ろした。


 ギィンッと激しい音がなったが、鎧に切り傷が入っただけだった。


「何だこいつ。なんて硬さだ!」


「レプシードは本人の精神状態に強く影響するのです。愛梨の人に本当の自分を知られたくないという強い思いが強固な鎧へと姿を変えているのだと思います」


「ルナッ、ミルナァァァァァァ!」


 レプシードは叫ぶと力任せに剣を振り払った。

 蓮は刀で受け止めるが衝撃に耐えきれず、後方に吹き飛ばされた。

 蓮は後方にあった建物に衝突する。衝撃で建物が崩れる。


「蓮くん! 大丈夫!」


 柊が心配そうに叫んだ。

 蓮はあっさりと立ち上がる。

 シロの力で強化されてるためか建物にぶつかった程度では痛くも痒くもなかった。


「ああ、大丈夫だ」


「良かった……」


 柊がほっと安心したように言うと突然宙に浮いていた柊が力を無くしたように浮力を失い落下した。


「柊! どうした大丈夫か!?」


 柊は杖を支えにしてゆっくりと立ち上がった。

 柊も強化状態であるため高い位置から落下した程度ではほとんどダメージはないようだった。


「うん、大丈夫。ただなんかさっきから力がすごく入りにくの……」


 柊は杖を支えにその場で立ち尽くし辛そうにしていた。


「能力の使いすぎが原因なのです! しばらくは能力を使えないので玲奈は安全なところに逃げるのです!」


 しかし、レプシードは弱っている柊を逃しはしなかった。

 レプシードの周囲の空間に出現した無数の剣が柊を襲う。


「させるかよ!」


 蓮は力強く地面を蹴り飛ばし柊の前に移動すると同時に強くイメージした。

 するとさっきまで持っていた一本の刀は2本の脇差へと変化した。

 小回りの効くようになった二刀の刀で蓮は一本一本剣を叩き落とす。

 シロの力で強化状態である圧倒的な反応速度と超スピードがなせる芸当だ。


「蓮くん! 危ない!」


 剣を全て撃ち落とし安心しきた蓮はレプシードの接近するのに気づくのが遅れた。

 レプシードは蓮のすぐ側に接近し大剣を振り下ろしていた。

 脇差じゃ受けきれないと判断した蓮を後方へと飛んだがタイミングが遅かった。

 

 蓮の左腕が宙を舞う。

 激しい痛みが体を支配した時、蓮は初めて自分の左腕が切り落とされたことに気づいた。


「ぐあぁぁっ! うっ、はぁ、くっ……」


「蓮くん!」


 柊は魔法を使えない。

 相手は無数に剣を召喚する上に、硬く刃は届かない。

 ましてや、片腕で振るえる程度の刀で勝てる相手ではない。

 そして、こうしている今にも青の炎は燃え尽きそうになっているかもしれない。

 青の炎が燃え尽きればゲームオーバーだ。

 絶望が蓮の心を支配しかけたその時、


「蓮! 急いでモードを銃に変えるのです」


 シロがそう叫んだ。


「わかった」


 シロには何か策があるのだろう。

 そう思い蓮はシロの言う通りにモードを銃に切り替えた。


「その銃で失った腕を撃つのです」


 言われた通り、自分の失った方の腕を撃つと、驚くことに腕が瞬時に再生した。


「こ、これは?」


「再生の力。蓮が持つ唯一無二の力なのです」


「壊れたものを治す力か」


「厳密にはちょっと違うのですが……、今はそんなことどうでもいいのです」


「ああ、そうだな」


 蓮はレプシードを睨む。


「これで終わりにしてやる」


 蓮はモードを二刀流にしてレプシード目掛けて加速した。

 レプシードは無数の剣を飛ばす。蓮はそれを一つ一つ叩き落としながら、さらに距離を詰める。その距離は1メートルもない。

 レプシードが剣を振り払った。蓮はそれをしゃがんでかわす。


「遅いんだよ!」


 瞬時にモードを銃に変えて、銃口をレプシードの胸に密着させ引き金を引いた。

 ゼロ距離で放たれた強力な一撃はレプシードを大きく吹き飛ばした。

 しかしレプシードは逆さず体制を立て直す。

 蓮の一撃を受けたレプシードの鎧の中心は砕け中にはいまにも消えそうな青の炎があった。


「ヤメロォォォォォォォ、ミルナァァァァァ!!!」


 レプシードが強く叫ぶ。


「そんなに本当の自分が見られるのが怖いか?」


 レプシードは剣を再び飛ばしてくる。

 しかし、弱っているのかさっきと比べると明らかに攻撃数が減っていた。

 蓮はモードを二刀流に変え再度レプシード目掛け突っ走った。


「俺は別に見せてくれたって構わないぜ? 自分の好きなものを恥じらう理由がどこにある?」


 蓮は全ての剣を叩き落とすと、レプシードめがけて跳躍した。

 そして、強くイメージする。


「安心しろ、俺はお前を嫌ったりしない」


 すると、2本の脇差は光り輝き、大太刀へと変化した。

 蓮はレプシード目掛けて大太刀を全力で振り下ろした。

 その強力な一撃は大剣ごとレプシードを両断した。

 青の炎が真っ二つに割れると、ガラスが砕け散るように闇が晴れ元の世界が姿を表した。

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