第10話 修学旅行
あっと言う間に日がすぎ修学旅行まで後数日となった。
午後の授業を一コマ使い当日の日程や準備するものを説明された後、グループ分けをすることになった。
それぞれ仲の良いグループ同士で固まり、自由時間にどこに回るか話し合っていた。
蓮たちは机をくっつけ3人で向き合うように座り今後のことについて話し合っていた。
「5人か、後二人どうする?」
「僕は他に仲の良い人いないし、蓮くんは?」
「うーん、心当たりがないこともない」
「えっ? お前俺たち以外に友達いるってのか?」
ミッキーが驚いた顔で蓮を見た。
何て失礼なリアクションだ。まあ交流関係が少ないのは事実だけど。
蓮は、小動物のようにぷるぷると震え虚空を見つめている柊に近づくと首根っこを捕まえた。「ひっ」と柊は小さな悲鳴を漏らしたが、無視してそのまま連れて帰る。
「柊が一緒に行きたいってさ」
そして、零とミッキーの前に差し出した。
柊は顔を真っ赤にしてジタバタしている。蓮は手を離し柊を解放した。
すると柊は素早い動作で身を隠すように蓮の後ろに隠れた。
「お前柊さんと仲が良かったのか!?」
「まあな、ほら自己紹介しろって」
蓮のポケットが振動した。
スマホを取り出す。柊からだった。
「何するんだこのやろーヾ(*`Д´*)ノ"彡☆」
「言いたいことがあるなら普通に話せ。お前昨日一緒に行きたいって言ってただろ」
蓮は後ろにいる柊に直接話しかけた。
蓮のスマホが再び振動する。
「そんなこと言われてもどうすれば良いのさ(´・ω・`) 」
「とりあえず、言葉を話せ」
蓮は後ろに隠れていた柊を前に立たせると逃げれないよう両肩をがっちりホールドした。
柊は諦めたのか零とミッキーをちらっと見た後、うつむいて小さな声で、
「柊玲奈です、よ、よろしくお願いします」
と自己紹介した。
「うん、よろしくね!」
「よ、よろしくな。柊さん。お、俺のことは気軽にミッキーと呼んでくれてかまわないから」
ミッキーがぎこちなく笑う。お前まで緊張してどうする!
柊は目線を合わせず、小さくコクンっとうなづいた。
柊は別に零とミッキーを嫌っている訳ではない。柊は心を開いている人物に対しては割と饒舌で話せるのだが、初対面の人となると借りてきた猫のようにおとなしくなってしまう。
蓮は前から柊にもっと話せる友達が増えてほしいと思っていた。しかし、重度の人見知りの柊は決して自分から話そうとしないため荒療治にでることにした。
修学旅行なら必然的に話す機会も多いし、仲の良くなるチャンスも多いはずだ。
それに、ミッキーと零はいいやつなので仲良くなれる気がした。
蓮はとりあえず4人で修学旅行の計画を話し合うことにした。
修学旅行は2泊3日だ。
1日目は学校からバスが出てそのまま旅館で一日を過ごすことになる。
2日目は前半はみんなで遊園地を周り、午後は自由行動となる。
3日目は午前中は自由行動で午後にバスに乗って学校に帰ることになる。
「柊さんはどこか行きたいところあるのか?」
ミッキーはうつむいて黙りこくっている柊を気遣うように話しかけた。
「わ、私はどこでもいいかな」
柊はキョロキョロと視線を泳がせ恐る恐る答える。
「そうか、俺は動物園に行きたいな。実は今回の旅行先の近くにある動物園は珍しい動物がいるだけでなくて、地域限定の首吊りにゃんこストラップがあるんだ! それがどうしても欲しくって、柊さんは首吊りにゃんこ知ってる?」
何だよ首吊りにゃんこって。
物騒すぎるだろ。
「し、しってる。私もそれ集めてる。地域限定版なんてあるんだ……、知らなかった」
柊はミッキーの話に食いついた。
「マジ!? 柊さんも首吊りにゃんこ集めてたのか! そうそう、実は俺も最近知ったんだ。首吊りにゃんこ可愛いよなあ。俺もほぼ全部集めてるんだけど、その中でも首吊りにゃんこギャラクシーバージョンがめっちゃ可愛くてさ、あっ、柊さんチョコ食べる」
ミッキーがポケットからチョコを取り出す。
「た、たべる」
ミッキーは自然な動作で柊を手なづける。
ミッキーは妹がいるため、こう見えても子供の扱いがうまく相手の警戒心を解くのがうまかった。
そして、徐々に警戒心をといた柊はミッキーと女子トークをしだした。
いやなんで、お前普通に女子トークできるんだよ!
零の柔らかい雰囲気もあってか、柊は普通に会話できるまでに進歩していた。
想像していたより、うまく溶け込むことができた柊を見て蓮は内心ホッとした。
「行く場所は大体決まったとして、後もう一人はどうしようか? 女子柊さん一人っていうのは流石に可愛いそうだし、柊さんは他に誰か誘いたい人いる?」
零が柊に問う。
「うーん、私友達いないからなあ……」
「そうか、それは困った。僕も蓮くん達以外仲のいい人いないからなあ」
最後の一人を決めかねていると、
「なら私が入るわ」
ハキハキした声の方に視線を移すと、キッチリと制服を着こなし、キリッとした表情をした如何にも真面目そうな生徒がいた。
シュッとした輪郭に整った顔立ちをしているが意思の強そうな凛とした目が少しとっつきにくい印象だった。
少女はメガネをクイっと上げ整え直す。
「この班は色々と問題を起こしそうな気がするし、それに風紀が乱れている。だから私が同行するわ」
蓮は小声でミッキーに「誰だっけこの人?」と聞いた。
ミッキーが小声で「ああ、確か生徒会長の相川愛梨さんだ。決して悪い人じゃないんだが、なんていうかちょっとマニュアル人間っぽいところがあるんだ」と返答する。
「一応聞いておくけど、私の同行に不満がある人はいるかしら?」
「僕は別に構わないよ」
「ああ、俺も零くんと同じだ」
ちょっとめんどくさそうだけど、他に誘う人もいないので蓮も同意することにした。
「俺は別にどっちでもいいよ」
蓮は柊に視線を向ける。
すると柊は無言でコクコク頷いた。
「そう、じゃあ決まりね」
強気な口調とは裏腹に少し緊張していたのか相川は、そっと胸をなでおろした。
グループが決まった蓮たちは再び話し合い、2日目の自由行動では二手に別れそれぞれ行きたいところに周り、3日目の自由行動はみんなで動物園に回ることになった。
「それじゃあ、当日は個人がスケジュール管理を行い時間内に行動すること、白ヶ丘高校の生徒として恥のないよう立ち振る舞いに気をつけること、特に三木くんは人相が悪くて誤解を受けることが多そうだから気をつけること!」
「は、はいっす!」
相川に鋭い視線を向けられたミッキーは姿勢を正し答えた。
「後おやつは500円まで、それと不要なものは決して持ち込まないように!」
「えっ? おやつに制限なんてあったっけ?」
蓮が思わず聞き返す。
「暁くん、しおりちゃんと読んだ? ここにちゃんと書いてあるでしょ?」
そう言って相川がびっしっと見開いたページには小さく※おやつは500円までと記載されていた。
「おお、マジだ。知らんかった」
「しっかりして! みんなしおりは当日までにちゃんと熟読しておくことわかった!?」
「さすがにそこまでしなくていいんじゃないかな……、せっかくの修学旅行だしもうちょっと気楽な感じでも大丈夫じゃないか」
「甘いわ、月影くん! 甘いマスクをしていたら何言っても許されると思ったら大間違いよ! そうやって毎年ハメを外しすぎて問題を起こす生徒は必ずいるわ」
「ううん、わかった、気をつけるよ……」
相川の勢いに負けた零は譲歩する。
「それから、柊さん!」
相川は続けて柊の方を見た。
「は、はいぃっ!」
柊はビクっと視線を正すと今にも泣きそうな顔でぷるぷると震えだした。
まるで天敵を前にして怯える小動物のようだ。
相川は柊の予想だにしていなかった反応に少しショックを受けたのか、一瞬悲しそうな表情を浮かべ優しく諭すように言葉を続けた。
「そっそんなに、驚かなくても……、別に柊さんのこと悪く思ってるわけじゃないわ。ただ柊さんはその、無口で自分の意見をしっかり言わないことがあるから、何か困ったことがあったらちゃんと相談するように!」
「は、はい!」
相川は姿勢を正す柊を見て「まあ、柊さんはしっかりしてるからそんなに心配してないけど……」と小さく声を漏らした。
「何か今回の修学旅行はめちゃめちゃ楽しくなりそうだな」
ミッキーが心底楽しそうな表情を浮かべた。
「そうだな」
いろんな意味で楽しくはなりそうだ。
蓮はそう思った。




