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普通の高校生活  作者: えぬこ
普通の高校生活
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第二章

物語が盛り上がるまでもう少しかかりそう・・・

「部活を作ろうと思うの」


 少し階段を上った場所、そこをステージかと思っているかは知らないが、時雨は嬉々とした表情で俺にそう告げた。なぜそんな嬉しそうな表情をしている?もしかしてこれが世紀の大発見というのではないだろうな。まあなんにせよ、昨日俺が予想した通りになってしまった。どうするべきか…

 俺がこの状況をどうするか考えていたところ、時雨には俺が入部するか否か悩んでいるように見えたらしく、


「悩むことはないわ!まだ部員は私とあんたの2人だけなんだから、自由に作り上げることができるわよ!」


 と自信満々に言い放った。だが部活を作るには課題があった。もうお分かりであろう。


「部員や顧問、部室はどうするつもりだ」

「そんなのすぐ見つかるわよ」


 即答である。かなり楽観的に考えているようだが、彼女はいったいどんな生活をしてきたのだろうか。とても気になる所存である。


「そんな簡単にはいかないだろうが、部員に心当たりがあるわけでもないだろうし、顧問になるともっと難しいぞ」

「大丈夫、部室と部員の1人と顧問には心当たりがあるわ」


 意外にも、目星はついているようだった。


----


 俺たちが向かった先は部室棟。そこには主に文化部の部室が詰め込まれており、時雨が目当てにしている部活もそこにあるらしかった。ちなみに部室棟にある部活を上げると、1階に、コンピューター研究部、化学部、書道部、その奥には…百人一首部なんてのがある。さっきから聞こえてくる奇声のようなものは、きっと札を取るときに出てしまう声なのだろう。そして今から我々が向かう2階にあるのは、文芸部、料理部、映画研究部、その奥は空き教室もとい物置として一応は機能しているようだ。

 その物置が部室候補なのはわかった。じゃあ、あとは部員だな。そう思い、俺が階段方面へ向かおうとすると、肩をつかまれ、呼び止められた。


「ちょっと、どこ行くのよ」

「どこって部員にも目星がついてるんじゃなかったのか?」

「ええ、ついてるわよ」

「じゃあこんなとこにいないで案内してくれよ」


 こんなところで道草を食っている暇はないと、俺はそう言いたい。だが、どうやらそういうわけでもないらしい。時雨が指しているのは、先ほど紹介した文芸部室の扉だった。この部屋にお目当ての人物がいるらしい。時雨は俺が口を開こうとした瞬間に、その扉をぶち開けていた。こいつは人の筋肉の動きが見えているのではあるまいか。いやそれよりここは文芸部室ではないか、この扉の開け方はどうなんだ?完全なる迷惑行為だが!


 扉の先にいた文芸部員と思われる人物は意外にも1人で、部屋の隅に椅子を配置してこちらの様子を全く気にしていないかのように読書を続けていた。そして部室中央、とりあえずそこに置いてみたといわんばかりの机に腰かけていたのは、学校で1番人気であろうどこの学校にも1人はいる癒し教師の照穂美(てるほみ)先生だった。ここの顧問だったのか、知らなかった。というかこの人は怒りもしないが、先ほどの行動が読書中に行われた時の重罪度をご存じであろうか。


「あら、時雨さんじゃない。どうしたの?」

「あの子を我が部に引き抜きに来ました!」


 時雨は奥で淡々と読書を続けている文芸部員を指してとんでもないこと言い出した。この様子だと無理そうだぞ、ほら、先生困ってるよ時雨ちゃん。だが、その困った表情は見る見るうちに回復していき、


「まあ!そうなの?」


 ついに喜びにまで発展してしまっていた。どういう表情筋をしているのだろうか。


「よかったじゃない未知(みち)ちゃん!こんな近くに観さ…むぐ」


 先生が何かを言い出す直前、いつの間にかその未知という少女は先生の口を手で塞いでいた。その瞬間は本当にいつの間にかとしか形容できず、もはやワープの域であった。

 未知さんは先生の口から手を放して、


「先生、それはダメ」

「ご、ごめんね」


 何かを叱った生徒に先生が謝るという絵はそうそう見られるものではないだろう。

 あぁいやいや、それよりも、今は部活問題である。未知さんはこの件についてどう考えているのか。


「私は別に構わない。でも文芸部をなくすことは不可能である。そちらがこの部に入部することも視野に入れて考えてほしい」


 全く詰まる様子もなくすらすらと話していく。まあ、短い文だから詰まることもないと思うが、なぜか分厚い文庫本でも簡単に読み上げてしてしまいそうな雰囲気だった。こう言ってはあれだが、コンピューターのようだった。

 一方時雨はというと。


「え、視野?そうねぇ、でも、うーん」


 何をそんなに悩むことがあるのか。混ざってそれなりに邪魔にならないような活動をすればいいじゃないか。


 「私はもっとみんなでわいわいしたいのよ。でも残したいのかぁ」


 時雨はまだ悩み続けるだろう。その悩みの原因、いや原因というのは悪く聞こえるな言い方を変えよう。んんっ!その悩みの元である未知さんは、これまたいつの間にか隅にある椅子にて読書を再開していた。

 その時に口を開いたのが、


「あの、こういうのはどうでしょう」


 先生がおずおずと手を挙げた。それに時雨が「どうぞ!」と応えると目を輝かせて案を挙げた。


「いろんな会社、小さくすればPTAなんかにも支部みたいなのがあるでしょ?そんな感じのを文芸部に作ってみたら?」


 先生が挙げたのはとても一般的な案であった!甘いぞ先生、時雨はそんな普通な案に乗るわけが…


「それもいいわね!そうしましょ!ということで(仮)(かっこかり)団はここに発足しました!」


 決まってしまったのだ。こんなにもあっさりと、残念なネーミングセンスによって、突拍子もない1人の少女によって、俺の学園生活はのどかな草原からけもの道へと変貌した。なぜそこまで言えるのか、それは彼女、時雨の考えることは今回のように予想もしない結末を迎えてしまうからである。


----


 あれから数日が経った。あれ(・・)とは、そう(仮)団などという意味の分からない団が結成された日のことである。その後の活動といえば、時雨が他の団員を探してくると言って俺、未知(後に同級生と判明)、先生を(仮)団拠点もとい、文芸部室に残して学校中を走り回って、6時になると決まって帰還。そこから仲良く解散という流れで、相変わらず扉をぶち開けてくるのは変わりない。休み時間にも探しているらしいが一向に収穫がないと俺に愚痴ってくるのがいつもの流れだ。

 だが、今日は成功パターンらしい。

 いつものごとく扉をぶち開けた時雨が帰って来たのは、部室を出てから実に30分の出来事だった。長い間探し回ってやっと見つかったのが嬉しかったのだろう。「おまたせー!」と満面の笑みを見せて入場ししてきた。いつもと違ったのはその後ろにいる2人の人物だった。


「紹介するわ!まずこの人は神木灯里(かみきあかり)くん、同級生よ!」

「同級生の神木です。よろしくお願いします」


 さわやか~なイケメンの神木くんとやらが今回の犠牲者らしい。だが犠牲者はもう1人いるのだ。


「そしてこの子が恵美(めぐみ)ゆずちゃん!2年教室から引っ張ってきたわ!」

「どうも、えぇと恵美ゆずです。急に連れてこられたのでよくわからないのですが、よろしくおねがいします?」


引っ張ってきたとか、本人も急に連れてこられたって証言してるぞ。こいつには常識という概念がないらしいな。団員が2人増えたことにより、時雨は上機嫌だとうかがえる。だがもう1人なぜだか嬉しそうな人物がいた。


「ほわぁぁぁ」


 穂美先生だった。


「なんで先生もうれしそうなんですか?」

「だってだって!あぁ、ひ、秘密です」


 何かを言おうとしたのだろうが、未知に視線を送られ、口の前に指でばってんを作り言葉を押し込めてしまった。なにをこそこそしているのか…まあ気にしないほうがいいのだろう。

 それはさておき、目当ての部室、部員、おまけに顧問まで付属するというミラクルを引き起こしてしまったわけで、満足げに部室内を見回した時雨はうなずき、


「では!これより(仮)団は、正式に活動を開始します!」


 意味の分からん団体のスタートを宣言した。

 

ありがとうございました。

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