密かな計画
ある日、佳乃は外に出ていた。用事をすませて家に帰る途中で娘の姿を見つけた。
「紫乃…あら?」
迷子になるのを心配して声をかけようとしたが、止めた。娘の隣に見知らぬ若い男がいたからだ。娘より少し年は上、涼やかな顔立ちは一見近寄り難い感じがしたが笑うと目尻にできる皺は愛嬌があって印象的だった。気になったのでゆっくりと歩いていく二人をそっと追いつつ様子を見ることにした。娘が笑顔を向ければ青年は頬を染めながら目尻に皺を寄せて笑い、それを見た娘はそれ以上に頬を染めて笑い返していた。
「紫乃ってばあんなに赤くなっちゃって……恋人かしら?いやでもちょっと距離があるような……好きな人かしら…」
ブツブツと独り言を言う佳乃は訝しげな視線も気にせず二人を観察し続けた。どんな話をしているかは分からないが、恋人でないにしろ端から見る二人は想い合っているに違いなかった。
それから時間を少し開けて家に帰った。娘はいつもと変わった様子はなく夕食の準備を始めていた。料理が完成する頃には夫が帰り、いつも通り三人で夕食をとった。そして夜遅く、佳乃は外で見かけた娘と青年のことを夫に話した。
「そうか…紫乃が……」
佳乃と同じくそんな相手がいたのかと驚いていた。その青年が娘に誠実な人間なら問題はないのだがいかんせん大事な愛娘であるし両親は青年のことを全く知らない。結局、しばらく様子を見て心配ないようならその青年との結婚も視野に入れようということになった。
青年について調べれば調べるほど……というか少し町の人に聞いただけなのだが、彼は優しく、誠実な青年としてとても有名らしかった。軽く聞いただけでとても評判の良い人間だということがわかってしまった。非の打ち所がないというのは彼のためにあるような言葉だった。人当たりのよい人間なぶん若い娘たちに人気だそうだ。しかし両親が勝手に話を進めているだけで娘と青年は本当に恋愛関係なのだろうか。もしそうでなければそもそも二人は知り合いなのに困ってしまうだろう。なるべく娘も相手の気持ちも考えてやりたい。
「佳乃は紫乃をこのまま観察するんだ。最後の最後まで本当に紫乃を任せていいのかどうか見極めるんだ!」
少しばかり興奮しすぎているのが気になるが、どうやら静は上手く結婚させるべく動き出すようだ。私も二人が結婚してくれればとても嬉しいので賛成だ。
「わかったわ!じゃあ静さんは紫乃と彼の関係についてもっと詳しく情報を集めるのよ!」
色々な人に話を聞けば二人が恋人同士なのかそうじゃないのかきっとわかるはずだ。町の人っていうのはみんな噂好きなものなのだから。