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迷子の話  作者: 野分 頼(のわき より)
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迷い姫

幼い頃からよく居なくなる子供だった。注意散漫だというか好奇心旺盛というか。蟻を見つければ屈み込み、蝶を見つければ周りを見ずに追いかけ、草むらの向こうに猫の尻尾を見つければ大人にことわりもせず走って追いかけ、その結果気づけば知らない場所だったということが多々あった。


「紫乃?やだ大変、紫乃がいないわ(しずか)さん!」


「何?またいなくなったのか!すぐ戻って探すぞ佳乃(よしの)!」


少し目を離せば消えるのは当たり前だった…。



少し大きくなれば大人の言うことも理解でき、わき目も振らず走るということはなくなった。これを受け両親は酷く安心したが、今度は別の問題が発生した。成長したと思った娘が少し前の幼い頃のように気づけば消えていた。


「紫乃が帰ってこないわ…。やっぱり行かせるんじゃなかったかしら。どうしましょう…」


父の静は勤め、母佳乃は私用があったため今回は昼過ぎに娘を遣いに外にやったのだが気づけば日は沈もうとするところだった。


「もうこんなにも日が沈んでる」


近場の遣いとはいえ心配だが家を開けるわけにはいかないので佳乃は夫が帰ってきたら二人で娘探しに行くことにした。日が沈んで暫くして夫は帰ってきた。娘を背におって。



仕事の帰り、子供のすすり泣く声をきいた静は声を追って歩いた。すると道から外れた茂みの前で子供は泣いていた。


「うぅ…ここ、どこ?帰りたいぃ…とーさまぁ…かぁさまぁ……」


はっきりの聞こえてきた声は自分の娘だった。


「紫乃!」


慌てて駆け寄ってなぜこんな時間にこんなところに一人でいるのか尋ねると、良く知る場所に遣いに行ったはずが道に迷ってしまったとのこと。


「ちゃんと注意して歩きなさいと言っていただろう?まったく…」


日が沈んでしばらく経っていたのだから妻はさぞかし心配しているだろう。なぜこんなところで迷っていたんだか。


「ごめんなさい。だってね、歩いてるうちにねぇ、お花を見たり、ちょうちょを見つけたりしてたらぁ…わかんなくなっちゃったの」


先ほどまで泣いていたせいでぐちゃぐちゃになった顔を擦りながらそう言った娘に静は酷く驚いたと同時に、娘は昔から変わっていないのだと理解した。


「…そうか。母様が心配してるぞ。早く帰ろうな」


大人の了承を得ず黙って消えることはなくなったものの、外に出たら出たで迷ってしまうのだと。この娘の所在がわからなくなるの仕方のないことなのだ。なぜならここは家のすぐ裏にある川の向こうの森の前の茂みなのだから。このような近場で迷子になるとは呆れたものだと父は思った。悪いことをしたわけではないのでそれから未だ愚図る娘を諭してから背におって連れ帰ったのだった。



更に月日は経ち、娘は十四となった。初めて遣いで迷子になってから今まで両手では数えきれなくなるほど両親を心配させてきた。日だまりのようにあたたかく、未だ幼な子のような愛らしい顔を見れば大人たちはいつか危険で恐ろしい目にあわないか心配せずにはいられなかった。迷子になって困れば人に尋ねなさいと教えたが、実行したものの結局家に戻ることはできずに手分けして娘を探すことになった。

二度目に迷子になった時は再び両親の教え通りにしたものの他の十四の娘たちより幼く見えるのか警戒心の無い無垢な娘は道を尋ねた人間に連れて行かれそうになった。人目の多い場所だったので事なきを得たのだが迷子以外に誘拐という心配事がひとつ増えた。それから多様の身を守る術を教えたものの娘のどこかひとつ遅れたような動きは全く役に立ちそうになかった。

あまりに迷子になるものだから気づけば皆から紫乃という名をそっちのけで迷子になることと愛らしい姫のような容姿も含めて、「迷子姫(まいごひめ)」や、一部の年の近い友たちからは「迷子」の漢字の読みからマイゴともメイコとも呼ばれるようになっていた。



そんなこんなを繰り返しながら娘はなんとか無事十七になった。子供のような愛らしさを残しつつも、目を奪われるような笑顔を垣間見せる美しい娘になった。しかし、美しく成長する見目とは裏腹に娘の"迷子癖"は変わるどころか大人に近づく度酷くなっているようでならず、両親の不安は増すばかりだった。年頃の娘へと美しく成長したぶんいつもの迷子癖でぼうっとしていればよからぬ事を考える者もますます増えるばかりだろう。



そして両親はついに娘に結婚を勧めることにした。否、結婚させることに決めた。結婚させるからには娘を守ってくれ、頼りなり、なおかつ幸せな夫婦生活が送れるような優しい男がいいと両親は考えた。娘の噂を聞きつけここ最近は縁談の話も少なくはないがいまひとつ両親の納得できるような相手は見つからないでいた。


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