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砂時計

作者: キベ

 砂時計が落ちていた。きれいな砂時計だった。

 道端にぽつんと置かれたそれは、時を計り終える寸前だった。

 誰かが落としたのか。素通りしても良かったが、このきれいな砂時計が、動き続けるのを見たかった。

 砂時計を逆さまにする。刻まれきれなかった時間が、砂が戻りはじめる。直後、体が浮くような感覚に陥る。

 驚き、砂時計を手から落としてしまう。割れたか。とも思ったが、大丈夫だった。砂時計は倒れ、流れは止まった。

 我に返った。あたりを見回す。時が止まっていた。誰も動かない。歩く体勢で止まっている。

 さらに異変に気づく。先程まで、人はこんなに居なかった。慌てて時計を確認する。

 時間が、巻き戻っていた。

 ひょっとしてと思い、砂時計を拾い上げ、砂時計を立たせる。砂は再び落ち始めた。時が、動き始めた。通行人が後ろ向きに歩き始める。

 疑念は確信に変わった。この砂時計が、時を操っているのである。

 多くのことを考えた。どれだけ時を戻してやろうか、どんなことに使ってやろうか。誰かにこの事を相談すべきか。と。

 時間を戻しながらだが、考えすぎたらしい。夜になっていた。時計は10時ごろを指していた。おそらく昨日の10時であろう。

 これから先は、家で考えよう。


 砂時計を、使い果たした。多くのことに使った。時を止めて、犯罪をおかす。バレたら時を戻す。バレなかったら時を進ませ続ける。人生を一度やりなおすようなこともした。戻すのに時間はかかったが、それでも良かった。

 天才ともてはやされたし、簡単な未来予知もした。一度預言者として生きようとしたが、宗教だの国だのが騒ぎ出したので、また時間を巻き戻してやり直した。

 今は、今までで一番の人生を歩んでいると言ってもいいほど全て順調に進んでいた。金は株で困らなかったし、女は最高の美女を堕とした。

 だが、最大の問題があった。砂が落ちきったときだ。今まではどこかで満足ができずに、砂が落ちきる前に戻していた。だが、今はそうではない。あの時よりも先に進む必要がある。

 ――砂が落ちきるとどうなるのだろう。

 いままで見ないふりをしてきた。ひょっとすると砂が落ちきると俺は……。ということも頭の片隅にはあった。だが、今はそれと向き合わなければならない。

 砂時計を拾った時が近づいてきた。砂が落ちきりそうだ。思考が渦巻く。警鐘を鳴らし続ける。だが、この最高の人生を戻したくない――


 人生に飽きてきた。恐怖と不安から常に逃げてきた。だが、それももう限界だった。何度人生をやり直しただろうか。何度最高の人生を歩んだだろうか。

 多くの生き方を試した。だが、どこか虚ろだった。それは、この砂時計のせいだった。

 どれだけの名誉を手にしても、常に残りの残量に気をはらっていた。どれだけ自由に生きても、砂時計に拘束されていた。

 ふと、思いつく。なぜ俺はこんなものに縛られているのか。こんなものがあるから俺はこれに怯えているのではないか。

 俺は、砂時計をつかみ床に叩きつける。枠組みが外れる。そうだ、最初からこうすればよかったんだ。なぜ気づかなかった。壊してしまえばなかったことになる。

 なんども叩きつけ、踏みつける。ガラスが割れ、砂が飛びちる。

 我に返ったが、既に手遅れだった。砂時計は無残に破壊され、もはや時を計ることはできない状態だった。必死でかき集めても、どうしようもなかった。

 手から砂時計が消えていく。視界が暗くなっていく。


 道を歩いていると、速報が入ってくる。世界で有数の金持ちが死んだらしい。なんでも、死因が不明で、最後はうわ言を繰り返していたそうだ。

 俺は、道端に落ちている、きれいな砂時計を拾いながら、そんなニュースを読んでいた。

久しぶりの一般短編です

迷走しながら書いたので不安ある

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― 新着の感想 ―
[良い点] 砂時計に恐ろしさを感じていたところ。砂が無くなることを常に恐れているところとか。確かに最終的に砂時計に呪縛されてるって思うようになるよねと主人公に共感しました。 [気になる点] 砂時計の機…
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