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 和樹の従兄弟(静香の弟の息子)の結婚報告を兼ねた食事会に、柊花は家族で出席していた。和樹の従兄弟・雅也はアパレルショップで店長をしていて、新婦の美姫 (みき)とは数年前から同棲をしていたらしい。そして、美姫はすでに妊娠5ヶ月を経過していた。

「まったく……」

 静香は終始不機嫌で、眉をひそめていた。

「それに、なんなの? あの写真」

 雅也と美姫は二人だけでハワイで挙式を済ませ、そのときの写真を披露していた。そして、アルバムには膨らんだお腹にハイビスカスのペイントが施されたマタニティーフォトが含まれていたのだった。静香のぼやきを横目に、柊花と和樹は花梨を連れて新郎新婦の元へとやってきた。

「花梨、『おめでとう』って言って、この花束をお姉ちゃんに渡してね」

 柊花がそっと囁くと、花梨は緊張の面持ちで美姫の前まで進んだ。すると、

「うわ~、綺麗!」

 美姫は満面の笑みで花梨のまえにひざまずいた。花梨も美姫の笑顔に気持ちがほぐれたのか、大きな声で

「おめでとう!」

 と言って花束を渡した。

「よし、写真を撮ろう」

 和樹がカメラを構えると雅也の父親が現れ「ほら、カミさんの隣に並べよ」と言って構えたのは立派な一眼レフカメラだった。


 食事会が終わり家に戻ると、静香は早速不満を爆発させた。

「あの子、一体いくつなの? それに、挙式のことだって聞いてないわよ!」

「24歳だって。雅也は私と同い年だから、一回りも年下なのよ。同じ干支だって言ってた」

 美和はソファーに座ると、ハワイ土産のチョコレートをポイッと口に放り込んだ。

「甘~い。柊花ちゃん、コーヒー淹れて~。これ、コナコーヒー」

 静香の姉・明美も夫婦で参加していたので、帰る前に立ち寄っていた。

「まぁまぁ、これからしっかり家庭を築いてくれたら、それでいいんじゃ……」

 明美の言葉を遮るように

「い~~や、あいつら、絶対に別れる。私にはわかるんだから!」

 美姫のことがよほど気に入らないのか、静香は根拠のない悪口を延々と述べていた。着替えを済ませてリビングに降りて来た柊花を見て、

「美和、あんたも先に着替えなさい!」

 そう言われた美和は露骨にムッとした。柊花にコーヒー豆を渡すと、

「やれやれ」

 と言った。


 しばらくすると、部屋で着替えを済ませた美和がリビングに降りてきた。

「コーヒー、サンキュー」

 美和は食器棚から自分のマグカップを取り出して、カップに注いだ。

 

「そういえば、美和ちゃんはどうなんだ?」

 伯父さんが冗談めかして美和の結婚について言及した。数年前には『私は、電撃結婚するから!』と、なんの脈略もない返答をしていたが、今回は違っていた。美和は鼻高々に、

「私、結婚出来るってわかったから!」

 と答えた。


「あら、いい人みつけたのね」

 明美はニッコリと微笑んだが、柊花はあの交際からすでに結婚の約束をしたのかと思うと、不安で仕方なかった。しかし、

「だって、この前会った男性に『また、会いましょう』って言われたもの。これって、私に気があるってことでしょ? 要するに、結婚したいってことだもんね」

 その場にいた全員がポカーンとなったのは言うまでなかった……。


 それでも、柊花は美和に真相を確かめずにはいられなかった。明美夫妻を見送ると、柊花はコッソリと美和の部屋を訪れた。

「美和ちゃん、結婚の話……。あの人と?」

「まさか! あのメガバンク君はいい人そうだけど、何かイマイチなのよね。だから、いまは別の人とやり取りしてるの」

 美和はあっけらかんと答えた。

「そう。まぁ、くれぐれも用心してね」

 それだけを言い残し、柊花は日常の生活に戻ったのだった―。


 

 週末の午後、柊花は利久とホテルの最上階のレストランでランチを楽しんでいた。

「時間、大丈夫だった?」

 利久はナイフ&フォークをスマートに使いこなし、慣れた手つきでステーキをカットしている。

「うん。娘は主人と映画館に出掛けているの」

「そっか」

 利久に食事に誘われたとき、柊花には多少のためらいはあった。しかし、利久とは何もないのだから罪悪感を抱くことの方が不条理なんだと割り切ることにしたのだった。


「毎日、何してるの?」

「洗濯して掃除して、食事を作って……、平凡な毎日よ」

「あはは、幸せそうだね」

「そうでも、ないけど……」

 本当は姑の愚痴を吐き出したいと思っていた。しかし、素敵なレストランでの豪華なランチを、姑の愚痴で台無しにしたくなかった。


「あの頃は楽しかったな。ほら、覚えてる? みんなで生け簀のある居酒屋で……」

「あれは凄かった! 一番大きな魚を釣り上げたんだよね」

 柊花は笑っていたが、それと同時に耳鳴りが重く響いた―。

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