配信開始
他の連載中作品の投稿も進めて行くので投稿ペースはゆっくりですが宜しくお願いします。
岡豊女子高等学校
高知県の中央部に広がる香長平野の一角に存在する山、岡豊山、四国の覇者として名高い長曽我部氏の本拠地が置かれていた山の麓に存在する女子高、岡豊女子高等学校は照り付ける初夏の陽射しの中に包まれていた。
夏と見紛うほど厳しい陽射しは昼休みの教室の中にも容赦なく降り注ぎ、教室にいる生徒達がノートや下敷きを忙しなくパタパタと振る中、窓際の席で一人の美少女が少し気だるげに紙パックのアイスティーをストローで啜っていた。
170センチを超える長身にスラリとして均整の取れた肢体とツインテールに纏められた滑らかな黒髪に黒檀の瞳の美貌は、気だるげにアイスティーを啜っていると言う状態でさえ一幅の絵にしてしまい、同級生達はそんな彼女に時折羨望と若干の嫉妬が混じった視線を向けていた。
アイスティーを啜る美少女、2年生で銃剣道部のキャプテンでもある長曽我部渚はそんな視線の中にアイスティーを啜り、紙パックの半分程を空にした所で一度ストローから口を離して降り注ぐ初夏の陽射しを恨めしげに見上げた。
「……全く、何なのよこの暑さは」
渚は恨めしげに呟きながら再びストローを口に含むと紙パックに残るアイスティーを全て飲み干し、小さく一息ついた後に紙パックを潰して席から立ち上がった。
立ち上がった渚は手近な所にあったゴミ箱に潰した紙パックを捨てると身体を解す為に軽く伸びをした。
渚が軽く伸びをした後に自分の席に戻ると降り注ぐ陽射しに少し顔をしかめさせていると空席だった前の席にセミロングの黒髪と黒目に小麦色の肌の健康的な美貌と渚程では無いが十分長身で引き締まった肢体が印象的な美少女が弁当の包みを手に座り、それを確認した渚は自分の鞄から弁当の包みと新たなアイスティーの紙パックを取り出しながら口を開いた。
「お疲れ儀子」
「ほんとだよー、やっとお昼食べられる」
渚に声をかけられた生徒、渚の同級生で渚と同じ銃剣道部に所属する福留儀子はぼやきながら弁当の包みをほどき、その様子を目にした渚は同じ様に弁当の包みをほどきつつ笑顔で口を開いた。
「まあ、防災訓練についての話し合いなんだからしょうがないっちゃしょうがないわよね」
「だよねー」
渚と儀子はそんな風に会話を交わしながら弁当の蓋を開き、儀子は卵焼きを箸で摘まんで口に運びかけたがその途中でその手を止めて笑顔で言葉を続けた。
「そう言えば今日からスタートだよね、購入出来た渚?」
「勿論大丈夫よ」
儀子の問いかけを受けた渚は微笑みながら応じ、それを聞いた儀子は笑顔で卵焼きを口に運び、瞬く間に咀嚼した後に言葉を続けた。
「良かったー、そう言えば信ちゃんは購入は出来たんだけど今日の放課後から部活の合宿が始まるから開始は遅れちゃうって言ってたよ」
「そっか、それじゃあ仕方無いわね」
儀子の言葉を受けた渚は少し表情を曇らせながら呟いた、儀子の台詞の中にあった信ちゃんと言うのは渚と儀子の同級生で隣のクラスに所属している久武信江の事で彼女は放課後から始まるテニス部の合宿の為、渚と儀子の計画している予定に参加する事が出来ないのだ。
「まあ、しょうがないわよね、暫くは取りあえずあたし達で楽しむとしましょうか」
「そーそー、それ大事だよ」
渚が気を取り直す様に明るい口調で告げると、儀子は何度も頷きながら笑顔で相槌を打ち、渚はその様子に微笑みながら鞄からたたまれている一枚のチラシを取り出した。
VR初のファンタジーシミュレーションRPG「ドラゴーン」本日1900より配信開始
渚がチラシを拡げるとその紙面にはその様な文言が記されており、渚はその文面を見ながらゆっくりと頷いた。
この日、急速に普及していくVR系ゲーム初のファンタジーRPGゲームの本格配信が開始される、そして渚と彼女の仲間達はVR技術によって確立された異世界とも言うべき空間に参加して行く事になる……
これから始まるのは異世界とも言うべき世界で紡がれる彼女達の物語……