ハートの女王がヒステリックの原因を探す物語
リハビリ作品です。
……あぁ、私は今までなんて酷いことをしていたのだろう……
全て思い出した。
どうやら、私は『不思議な国のアリス』に出てくる『ハートの女王』ことロザリアに生まれ変わっていたらしい…
何故私が前世のことを思い出したかというと、ただ単純にクロッケーで遊んでいた時に槌として握っていたフラミンゴを振る時の勢いが余り滑って転んで頭を打ったのだ。その時の衝撃で記憶が戻ったようだ。
前世の私は『不思議な国のアリス』のファンだった。作者であるルイス=キャロルを研究する為に大学は文学部に所属した。グッツだって沢山集めた。……そもそも私の死んだ原因は大英博物館に保管されてる原作を見に行こうと思って乗ったイギリス行きの飛行機で事故にあって死んだのだ。
「女王様!お目覚めになりましたか?お具合はいかがでしょう?お水をお持ちしましたがお飲みになられますか?」
私が思考してる間に
看病してくれていたらしいトランプがお水を運びに戻って来た。
数枚ものカード達が必死に私の機嫌を損ね無いように気を使ってくれている。
……今までの私だったら「うるさい…死刑だ!」とこんなにも頑張ってくれているカード達に言っていたことでしょう。
前世の記憶を思い出したからにはもうこんなことは言え無い。
「看病してくれていたみたいで、有難う。では、お水を頂こうかしら?」
…なにせ、このカード達は皆、私の大好きな『不思議の国のアリス』に出てくる登場人物で、なによりヒステリックな私に付き合ってくれていたカード達なのだ。
カード達は一様に驚いたあとに嬉しそうに「はい!」と微笑んでくれた。
さて、私の記憶が戻ったことで面倒臭い状況が生まれた。
「あぁ、白い薔薇を植えちゃうなんて…あー、死刑にしたい。すぐさま死刑にしたい…」
体調も良くなったことだし、庭でも散歩するかなぁと思って廊下の窓から庭をチラリと見ると
「大変だ!白薔薇を間違えて植えてしまったぞ!」
と、トランプ達が一生懸命白薔薇を抜いて紅薔薇に差し替えてる所だった。
前世の私から言わせれば「あぁ、勿体無い。そういう時は赤いペンキで白薔薇を紅薔薇に替えればいいのよ。」と冷静に注意指摘するのだが
今世のヒステリックが災いして怒りが溢れ出て来る。…死刑なんて、そんなことをしてはいけ無いとはわかってる。けど、…怒りが収まら無い。
「どうしたの?」
そんな時、一応私の今世の旦那さん・ハートの王様ことファリオが私に声を掛けた。
「別になんでも無いわ。」
怒りが頂点に達しそうな私は自分で思ったより素っ気ない口調になっていたかもしれない。(いつものことではあるんだけどさ)
「そぉ?…何か嫌な事があるなら、犯人まとめて死刑にしちゃえば良いじゃないか。」
「…そんなこと出来ないわ。あのカード達だってわざと間違えた訳じゃないもの。」
「……珍しいね。」
ファリオは少しばかり驚いた表情をしたが、特に気にした様子も無く次の瞬間はいつもの顔に戻った。
ファリオのいつもの顔は少し八に下がった眉をしながらも微笑んでいるのがデフォだ。
折角整った顔立ちなのに、困った様な表情をするから勿体無い。
ちなみに王様!のような貫禄も無い。一度、真顔を見たことがあるが普段のギャップもあって物凄くカッコよかったから尚更勿体無い。……あれ、ファリオの真顔を見たのはいつだっけ?
まぁ、良いや。
そもそも、困った顔をさせてる原因は私なのよね。というか、原作でもほっとんど目立って無かったし。
「ねぇ、ロザリア?僕はね、ロザリアが楽しいならそれで良いんだよ。ロザリアが楽しければ僕だって楽しい。ロザリアがイライラしてるなら、僕は悲しい。」
私を諭す様にファリオはつらつらと語りかけてくる。なんとなく、悪寒が走る。……何故だろう?
きっと、ファリオがこんなに長く言葉を話すことが短いからだ。いつも、私に困った様な笑顔を向けるけど特に何も言わない。
「僕の物は全て君の物なんだ。だから、ロザリアは全て自由に使って良いんだよ?……それともトランプ達には飽きた?もう使えない?なら、棄てようか?」
……。今まで、トランプ達を死刑にしてた私が言うのもなんだけど、とても残酷な言葉だ。いつも笑っているファリオは悲しそうにしている。
「ねぇ、すぐに代わりの遊びを考えるから、いかないで。僕の元なら離れていかないで。好きだよ、ロザリア。好き、好き、」
狂った様にファリオは私に愛の言葉を送る。そんな愛の言葉を聞き続けて、
あぁ、そうだ
……私は前にも同じことがあったことを思い出した。
始めにトランプの死刑を考えたのは誰だっけ?
ーーーそうだ、ファリオだ。
でも、何で?
ー私の為。私がヒステリック染みてイライラしてばかりだから。
どうして、イライラしてたんだっけ?
ー私が前に一度前世の記憶を思い出して混乱して、泣いて、喚いたからだ。「元の世界に帰りたい。」そう言って周囲に当たり散らした。ファリオを困らせた。悲しませた。
そのまま、ひとしきり暴れた後、私は疲れ果てて寝た。ファリオの悲しそうな顔が夢に出てきた。……前世の記憶はまた私の夢の中に封印した。無かったことにした。
自分で封印しておいて、どうやら、自分で前世の記憶を思い出そうと躍起になっていたらしい。それが思い出せないからイライラ、ヒステリックになっていたらしい。なんて迷惑な話だ。
ごめんね、ファリオ。
私、もう大丈夫だよ。落ち着いたよ。もうイライラしないよ。
私が「大好きだよ、ずっと一緒にいるよ」そう言おうとした時、
「……そうだ、他の世界からロザリアの遊び相手を連れて来れば良いんだ。」
……は?
他の世界、から。
「ちょっと待って!他の世界から…なんてそんなこと出来るの?」
「ん。大丈夫。…もう少しだけ代わりが来るのを待っててね?」
「違う!他の世界なんて、そんなの存在するの?」
私が言うや否や。ファリオは私を痛い程に抱き締めた。
「行かせない。ロザリアは僕のものだ。ロザリアはずっと僕と一緒にいるんだ。」
……肩が震えてる。ずっと困った顔をしてたのは私がまたいつ「元の世界に帰りたい」って言うかわからなかったからだ。
「うん、ずっとファリオと一緒にいるよ。大好きだよ。」
やっと、言えた。
「所で、何か他の世界連れてくるもので何か希望とかある?……最近、処刑をしてなくて鬱憤が溜まってるだろう?」
…失礼な!
あれから私はイライラの原因がわかったことでヒステリックを起こさなくなった。トランプ達とは関係良好だ。
ファリオは今も変わらず優しい。そして、困った顔をしなくなった。うん、やっぱりそっちのがカッコイイ。
「僕のオススメは、生きた卵かな?えーと、ハンプティダンプティって名前だっけな。」
!
ちょ、その名前…もしかして…
「あ、あと…そっくりな双子も面白いかもしれないね。」
やっぱり…
ファリオが言ってる他の世界って『鏡の国のアリス』のことだったのか!
……正直言うと、凄く気になる。
私の顔を見たファリオはオッケー、と何処かへ去って行った。
ファリオから命を授かった白兎が鏡の国へ行った時に間違って人間の女の子『アリス』を連れて来ちゃうのはまた、別のお話。