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兄×兄×兄  作者: 太郎
プロローグ
1/21

プロローグ

 

「怖い」


 ふと思い出した三人の兄達の私への対応。それは私を怖がらせるのに十分すぎる材料。

 震える口唇の隙間から漏れ出た本音はか細すぎて、誰かに届く前に消えた。

 別に届いて欲しいなんて思ってない。だから、誰にも聞かれなくて良かった。特に私が恐怖する三人の兄に聞かれなくって。

 あ、ヤバイ。もし聞かれたらって想像しただけで鳥肌が立ってしまった。


 一番上の兄は私よりも六つも歳上で、凄く頭が良い。どんなことでも数式や哲学で乗りきってきたようなガリ勉な人で、全ての問題を自分で解けると妄信している。

 だから、私が少しでも彼の構想上の行動から外れると怒るのだ。誰よりも頭は良いのに理不尽なのが残念すぎる。

 正直一番私達を支えてきてくれた分信頼しているし、好意はあるのだけど、時折見せる意味不明な言動にいつも悩まされる。

 意味が分からない所さえなければ、一番頼りになる存在だと思っている。

 そんな兄は最近父親化してきてて、日々怖くなる。

 基本、無表情。けれど長い髪と黒縁眼鏡に隠れて常に怒っている様にしか見えない。でも、本当に怒っている時はすぐに分かる。悪魔の様な笑みを浮かべるから。その顔は本当に……ああ、思い出すだけで悪寒が走る。


 その点二番目の兄は扱いやすいかもしれない。けれど、一番怒らせてはいけないのが彼だ。

 人に好かれやすい愛らしい目鼻立ちにくりくりした瞳。明るい茶色がかった地毛。信望も厚く小学校からずっと生徒会長をしてる。

 普段物腰柔らかで誰よりも私を庇ってくれる優しい兄だが、琴線に触れるような何かを言ってしまったら……終わりだ。嫌だと泣き叫ぼうと終わらない彼らしいねちねちとした攻撃が飛んでくる。

 ちょうど今年高校を卒業したばかりで新人社会人だ。けど、最近はよく『あー高校に戻りたい』とか口にする。

 きっとそれは兄が卒業した年に私が同じ高校に入学したから、私を苛めたかったのだろう。そこら辺では三つに歳の差に感謝する。


 三番目の兄は、所謂(いわゆる)不良だ。強くて力持ちでバカで単細胞で、正直言葉でなら私は何度も勝ったことがある。

 けれど、正直意味の分からないところに琴線があるからあまり関わりたくない。すぐに怒るし、手を出そうとするし、すごんだ時の怖さは一番だし。

 中学時代、『歩く雷』という威名を貰って、いつもバチバチやっていた。大人しくなったのか、今では生傷作って帰ってくる事はほぼない。

 ツーブロックに三白眼、大人と同じ位にしっかりした体躯に、無口な性格が相まって『怖い人』に仕立てている。

 幼い頃はとても優しくバカやって遊んだ記憶があるのだけど。

 一つ歳上で同じ学校ということもあっていつでも会うことが可能だから、休み時間の度に私の教室に来てよく嫌がらせをする。その度に友人にからかわれているのを三番目の兄は知らない。

 

 こんな三人の兄を持った私は毎日心臓のキャパシティから逸脱した攻撃を受けては必死で耐えている。

 なのに、友人達にこの状況を説明すると口を揃えて私を罵倒しにかかる。


『は? あんた、それ本気で言ってるの? うっらやましい位にイケメンの男に囲まれてるのに? バカじゃないの? それともあんたの目は節穴?』

『鈍感過ぎるにも程があるでしょや。そこまでいったらただのバカよ。バカ!!』

『そんな乙女ゲームみたいな展開がこの世の中にあるんだー……逆ハーレムとか最高条件じゃん。それの何が駄目なの?』


 普段話している時は仲の良い友達で、勿論私もその友達のことを好きだけどそこまで言われる筋合いないよね?

 そう思わせる程の迫力で友人達は迫ってくる。

 え、私の立場は? 何で皆はお兄ちゃん達の味方をするの? と、聞きたいが聞いてもどうせ同じ罵倒が返ってくるだろう。


茉央(まお)。何だよ。やっぱり先に帰ってやがったのか」


 ゾクゾクゾクッッ!!

 悪寒が背筋を駆け登り、すぐに振り向くと――三番目の兄がいた。赤茶色く染色された短髪をバリバリとかきながら私を睨んでいる。

 あ、ああ。怖い。ごめんなさい。あわあわと口だけが動いて、三番目の兄に謝罪する。特に悪いことはしてないけど。


「お前。本当に無口だよな……そんなんだからクラスの奴等に目をつけられるんだろーが」

「……目、なんてつけられてないよ。友達だっているし」

「つけられてんだよ。お前には分かんないだろーけど、俺には分かるんだよ。……男だから」


 ちぇっと舌打ちしてから三番目の兄は再度私を睨み付けた。けど、睨んでいるのに兄の頬がうっすらと赤くなっているのが謎。

 睨んでいるのか怒っているのか分からない表情で品定めするかの様にじろじろと視線を移動させたのが怖くなって、三番目の兄から目を離した。

 あ、しまった。

 そう思ったけどもう遅い。私はもう既に行動してしまった。


「なんだよ? お前、何で今目ぇ反らした?」

「ご、ごめんなさ……」


 三番目の兄は目線を外すとすぐに怒る。理由は分からないけど気に入らないらしい。

 だから反らさない様に気をつけていたのに、つい反射的にやってしまった。


「その態度ムカツク。何でそんなビビるんだよ。俺が怖いのかよ……大体っ、今日も勝手に一人で帰りやがって!」

 掴みかかろうとしてるのか分からないが、乱暴な足取りで三番目の兄が近づいてくる。それが怖くて咄嗟に頭を庇って謝った。

「っごめんなさい」

「こーら。茉央が怖がってるでしょ。(さとし)は顔も言動も怖いんだから気をつけなよ」

(かける)兄ぃ……帰ってたのかよ」


 私のことを優しい目で見ながら二番目の兄は、三番目の兄の後ろからゆっくりと歩み寄った。

 私に掴みかかろうとしていた三番目の兄は二番目の兄を見ると、すっと私から離れた。が、今度は二番目の兄を睨み付けた。


「ここは僕の家だよ? 帰るに決まってるでしょ。それに、早く帰らないと慧が茉央に何をするか分からないしねー……」

「翔兄ぃ……」


 正直、救われた。三番目の兄程ではないが、けど、二番目の兄も危ないからすぐに信用しちゃいけない。それで何度騙されたかとかは考えないでおこう。

 三番目の兄の乱暴な言動から解放されて次に待ってたのは二番目の兄の垂れた瞳から送られる熱い視線だった。


「あーあ。やっぱり高校留年すれば良かった。そうしたら茉央と同じ高校で先輩になれたのに…あと、慧みたいに一緒に帰ったりしてみたかったのに」

「私、慧兄ぃと一緒に帰ってないよ」

「でも嫌なんだよ。慧は茉央の高校生姿を見れるのに僕は見れないのって、なんか嫌」

「でも……」

 翔兄ぃは社会人として働いているじゃん……と、言おうとしたら。


「いっそのこと茉央を監禁しちゃえば良いのかな? したっけ、茉央の全てを見てられるし慧にも(あおい)にも取られないし万事解決!」


 再び悪寒が走った。さっきも思ったけど兄といると私は何度も何度も悪寒が走ってしまう。

 凄く凄く優しい笑顔で優しい言葉使いで内容が違っていたらすぐにでも頷きそうな口調なのに、悪寒を感じさせるなんてむしろ凄いと思う。

 それもわざとなのかな……? だとしたら、私をどれだけ私を苛めたいのだろう。この兄達は。


「歳上は目上の人間だ。敬称を外して呼ぶな」

 二番目の兄はニコニコと笑顔(何も知らない人には綺麗な笑顔に見えるかもしれないが、私には命を取られる様な邪悪なものを感じさせられた)を見せていたのに、後ろから一番目の兄が声をかけたと同時に真顔に戻った。

「はあ。碧兄さんも帰ってきたの?」

 呆れた様な二番目の兄の声。心底うざがっているのが伝わってくる。

「態度が悪い。目上の人が帰ってきたら愚民は『お帰りなさいませ』と言うのが常識だろうが」

「愚民って……」


 三番目の兄が嘲笑う様に言うと一番目の兄の眼鏡の奥の鋭い眼が、睨んだ。

 この三人の中で一番位の高い(少なくとも私はそう思ってる。この家族を守ってきたのもお兄ちゃんだったし)一番目の兄の睨みは効果覿面で馬鹿にした慧兄ぃも黙りざるをえなかった。


「お前達は愚民だ。私の様な頭がない」

「はいはい。分かったよ。僕らは愚民だったねー。お帰りなさいませー、碧兄さん?」

「……俺は言わねぇから」

 三番目の兄は眉間にシワを寄せて、怖い顔を更に怖くさせた。

「分かっていないのが態度に出ている。だから翔は馬鹿なのだ」

「バカはそっちでしょ、碧兄さん。気持ち悪い生物の観察のお仕事があるのに何で家にいるのさ」

「むっ、それはだな……」


 お兄ちゃん達がそれぞれに話し始めて、私への興味が薄れた。やっと逃げられる、そう思ったのに言葉を濁した一番上の兄は私を見ていた。

 眼鏡がキラリと光っているからだけじゃない兄の恐ろしさ。つり目だからか、余計迫力がある。と、考えている場合じゃないという雰囲気がびしびし伝わってくる。


「え、お兄ちゃんが帰ってきたことと私って関係があるの?」と、私。

「当たり前だろう。真央が阿呆な弟共に犯されはしないかと心配だったのだ」と、一番上の兄。

「真央を傷つける様な行為、僕はしないよ。僕はもっと真央を甘く甘く溶かして依存させてから犯すし。まあ、僕は……だけど」と、二番目の兄。

「って、翔兄ぃも犯すんじゃねーかよ。安心しろ、真央。俺はそいつらと違って真央の気持ちが整理つくまで待てるからよ」と、三番目の兄。


 ちょっと待って。そんなに急に話を進められると分からなくなるし、非日常的な言葉が飛び交いすぎてほとんど理解出来てないから!

 大体、何故三人の兄が帰ってくる理由が私にあるのか全く理解出来ない。犯す、依存? ナニソレ。それが理由だとしたら危ない香りがぷんぷんですよ?

 うっ!また、来た。なんか嫌なことがありそうな時な悪寒がゾクゾクと背筋を走っていく。何度も経験してるはずなのに悪寒はやっぱり慣れなくて気持ち悪い。


「まあ、これも仕方がないことだ」

 一番目の兄は邪悪な笑みを浮かべながらも私を見つめて、

「僕達、みーんな」

 二番目の兄は垂れた目をくしゃりと細めて笑いながら両手を広げ、

「お前……いや、茉央の事を」

 三番目の兄は眉間のシワを緩めながら、声を揃えて言った。


「「「愛しているからな」」」


 悪寒は的中した。何度も言われてきた、私を困らせる為に言う彼等の意地悪な言葉。

 学校での男性との交流が少なくてちょっと男の人に囁かれるだけで死んでしまいそうになる私の特性を理解して、苛めてきているんだ。絶対、そう。

 私のことを好きでいてくれるんだ。と、甘い考えを持っていたのは幼い頃までだ。もう、私はそんな甘い言葉に騙されない。

 じゃないと、前みたいに押し倒されたり口づけされそうになったりとか冗談で済まされないような悪戯をされてしまうんだ。

 だから、私は反抗するの。


「私はお兄ちゃん達のことを愛してなんかないんだから!」




 しかし、私は数ヵ月後にこの発言を後悔することになる。




《誰を攻略しますか?》

  →(あおい)

  →(かける)

  →(さとし)



まとめ。

私(茉央(まお))→高校一年生。15。

三番目の兄((さとし))→高校二年生。17。

二番目の兄((かける))→高校を卒業したばかりの社会人。18。

一番目の兄((あおい))→学者を務める社会人。21。

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