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あんりみてっど。どぅーむ  作者: あんりみてっど。
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導入部再考⑦

 5月20日、午前7時32分。この頃桃子は眠れない。睡眠不足なのはいつもとあまり変わり映えはしないが、睡眠不足の理由だけはいつもとは違っている。環が行方不明になってもう10日が経つ。

 ”顔のない白衣都市伝説”を調べに廃工場地帯に忍び込むと交わした約束を想いながら、目線を下に桃子は通学路を歩く。心配な気持ち、不安と焦燥感が日に日に募っていく。


 いつも環とは一緒だった。10日いないだけでこんな気持ちになるなんて、10日、いやひょっとしたら10日どころの話じゃないかもしれない、もしかしたらもう環とは、そんな風に思うと桃子は居ても立っても居られない気持ちになった。

 学校が終わって放課後、桃子は環がいないうろぼろす部の部室の前にやってくる。部長の環が行方不明のためにうろぼろす部の活動は一時休止中。誰もいない部室の扉を開けて、桃子は眉を八の字にする。環との思い出を振り返る。


 「よ、よぉ、奇遇だな。 桃子、お前、毎日ここに来てるのか」

 声の方を振り返ると、神経質そうな顔の琉瑠人が腕を組んで壁に背を寄りかけて立っていた。

 「だったらなんだっていうんだよ……てか、わたしが毎日ここに来てるの陰からこそこそ見てたの知ってるから。 陰からの視線が気持ち悪い、毎回ちゃんと出てこいや」

 「なっ、い、いや別に俺は、その、壁に寄りかかるのが趣味なんだよ! たまたま毎日この辺りの、その辺だよ、その辺のポイントが一番なんだよ!」

 まさか桃子にばれているとは全く思っていなかったので琉瑠人は神経質そうな顔をそのまま紅潮させて焦りながらそこにいる理由を無理やり言葉にした。


 「あっそ、きめぇな」

 「あん?」

 軽蔑の視線と言葉を琉瑠人に送った後、桃子はまた部室のほうを眺めるように見る。寂しそうな顔をする、部室を見つめる桃子を見て琉瑠人はそう思った。

 「チッ、なぁ、桃子……お前このままでいいのか?」

 舌打ちし、現在の桃子の在り方に苛立つように琉瑠人は桃子に問う。

 「いいわけ、ない……」

 「だったらお前な」

 「うるさい! 琉瑠人に言われなくてもわかってるんだよっ! オカルトみたいな変な名前しやがって!」

 溜まっている想いを琉瑠人にぶつける、八つ当たりなのは分かっていた。その想いをぶつけられるのは琉瑠人ぐらいしかいないことも。

 「あん? 聞き捨てならねぇ、オカルトだと? てめぇ、俺がどれだけオカルトと言われることにコンプレックスを感じているのか分からないわけじゃねぇだろうがっ! 大体、てめぇだって桃太郎みたいな変な名前してんだろっ!」


 「あんだとぉっ!」

 「ケンカかね?」

 「あん? あ」

 物凄い剣幕で琉瑠人が振り返ると化学の教師、田辺のしかめっ面があった。

 「あ、いやその別になんでもないんですよ、はは」

 桃子はその隙にムスッとした顔で振り返りその場から去る。

 「あ、そっちの女生徒、ちょっと」

 「いや、ほんとに俺達別にケンカとかじゃないんで、じゃ、俺も失礼します」

 琉瑠人も田辺をけむに巻いて桃子を追いかける。玄関の所まで来て、靴を履いている最中の桃子が琉瑠人の目に入った。

 「おい待てや、桃子っ」

 「うるさいな、もう決めたって。 どうも、わたしっぽくなかったんだよな」

 桃子は眉毛をキリッとさせる。

 「は? 何を言ってんだ」

 

 「環を探すぞ」

 環がいなくなったことがよほど堪えていたのだろう、琉瑠人は最近ずっと腐れ縁の幼馴染みのこいつがこいつらしくないと思っていた。内心、琉瑠人は環のことは勿論、ずっと最近の桃子の調子を陰ながらに見ていて桃子のことも心配だった。しかし、ようやく桃子に桃子らしい行動力が戻ってきたことに琉瑠人は安心できた。

 「琉瑠人、一応幼馴染だろ? 手伝え」 

 「ふ、何を言い出すかと思えば、俺だって暇じゃないんだぜ」

 琉瑠人は安心から少しの笑みをこぼす。

 「あっそ、じゃいいや一人で探す」

 「あ、まてまてまてっ」

 琉瑠人は校舎を出ていこうとする桃子を慌てて引き止める。

 「なんだよ?」

 「手伝わないとは言ってないぜ。 ま、しょうがねぇな、腐れ縁だがお前らとは付き合いが地味に長いからな。 今回だけ付き合ってやるよ」 

 「最初から手伝うなら手伝うって言えばいいのに、まわりくど。 それに、いっつもあんまり自分から話しかけてこない癖して、琉瑠人も環のことがよっぽど心配だったんだろ」

 「べ、別にぃ……」

 琉瑠人は白々しい顔でそっぽを向く。

 「あっそ……じゃ、ちゃんと探せよっ」

 「お前の方こそちゃんと探せよなっ」

 「うるさいなっ! 言われなくてもわかってるよ!」

 「あん?」

 お互いつっけんどんな口調で、ケンカしているようにも見えるのだが、不思議と仲がよさそうにも見える、周囲の目に2人はまるで兄妹のよう映った。

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