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あんりみてっど。どぅーむ  作者: あんりみてっど。
6/12

導入部再考⑥

 「よし、いい汗かいた。 これでまたブルース・リーに1歩、いや1.3歩近づけた気がするっ!」

 現在の時刻は夕方5時4分、桃子宅桃子の部屋にて。胡散臭さ120%のジークンドーDVD通信教育講座”ジークンドーマスターへの道”2章の第7回を自分の部屋で受け終えたばかりで気分が上々の桃子は目を輝かせている。ブルー・スリーやジークンドー関連の書籍、DVDがぎっしり詰まった本す棚に桃子は”ジークンドーマスターへの道”を大切そうにしまい込む。

 「む、5時過ぎてる、そろそろ出ないと」

 桃子はスマホで特に誰からもメッセージが来ていないことを確認し、黒のラインが入った黄色いジャージ姿から黒地にパンダのワンポイント刺繍が入ったハーフパンツと薄手のパーカーのセットアップに着替え、靴はスニーカーという女子力の低い普段着の格好で家を出る。

 昨日のこと、珍しく環の体調が悪そうだった。桃子は心配で今朝方、環に今日零限神社で行われるお祭りのイベント、巫女さんの舞に出れそうかスマホのチャットアプリで聞いていた。環の返事が返ってきたのはお昼頃、メッセージには”余裕過ぎて鼻血でそう”という大丈夫なのか大丈夫じゃないのかよくわからないことが書かれていた。

 桃子はメッセージを見て少々不安になり、再度本当に大丈夫なのかという内容で環に返信した。返事はすぐに返ってきたが、返ってきたのは”だから余裕過ぎて鼻血でそうだから大丈夫”という最初と似たようなメッセージである。桃子はチャットのやり取りだけじゃ環が大丈夫なのかは結局わからなそうだと思い、最後に”よくわからないけど無理はするなよっ”とメッセージを送り、環とのやり取りはそれで終了した。結局、環の文面は不安を増幅させるだけで桃子にはどっちなのかよくわからなかった。

 しかし、なんにせよ、環が出れないようなら自分が代わりに巫女さんの舞に出なければならないのだ。正直なところ、環の体調にはあまり期待できそうにないなと桃子は思っていた。きっと巫女さんの舞には自分が出ることになるだろう、人前に出て目立つ行為はそれほど気乗りしない。そんな思いを抱えながら桃子は少々憂鬱な気持ちで近所の零限神社へと歩みを進める。


 5時をとっくに回り、夕闇差し掛かる。神社の周辺まで来ると、さすがにお祭りというだけあってお店もずらりと並んでおり賑わっている。当然ながらいつもとは人の数も段違いだ。桃子はせっかくなので境内に行く前にたこ焼きでも買っていこうと思うが、運が悪くどこのたこ焼き屋も人が行列人になるほど並んでいてすぐに買えそうにない。巫女さんの舞は6時から、時間にあまり余裕がない桃子は渋々諦めかける。しかしそんな時、”たこ焼きロシアンルーレット”という屋台の看板の文字が桃子の目に映る。並んでいる人は誰もいない。8個入りで500円、味が悪いのか、変なものが入ってるのか、それともうまいけど人が誰も並んでいないのはたまたまなのか、この状況は幸か不幸か、桃子はたこ焼きロシアンルーレットの看板をまじまじと見つめながら様々な想像を膨らませる。

 「決めたっ」

 迷ったが結局桃子は冒険して買っていくことにする。 

 「ます」

 屋台に入るとすぐ、目に飛び込んできたのは長身の黒人、桃子は屋台の店主が黒人という予想外に思わず一瞬固まる。しかし、すぐに何事もなかったかのようにふるまい、たこ焼きロシアンルーレットを買う。

 「……たー、1箱、まだ熱いやつで」

 「マイドッ」

 低く太い声の黒人のマスターからアツアツの1箱を買い、桃子は人ごみの少ない屋台の裏側を通って境内に向かう。

 今日の一大イベント、巫女さんの舞がもうすぐ始まるだけあってか、境内周辺は特に人で混雑している。役員の人が整備に回るほどの数だ。

 「うっわ、人いすぎ、巫女さんの舞出たくねー……」

 桃子は巫女服姿でこれほどの数の人目にさらされることを想像して一言ぼやく。


 境内の奥の方に入ると巫女服姿の少女が3名、少し遠目に見ても3人とも美少女ということは一目瞭然である。環の姿はない。やっぱり来ていないようだ、体調不良なのか、桃子はため息を着きそうになる。しかし、ふと桃子は疑問を抱く。巫女さんの舞に出る巫女は本来3人だったはず、もう3人いるじゃないか、と。そんな風に思いながら3人の巫女を眺めていると、巫女の中で一際異彩を放っている美少女に桃子はどことなく誰かの雰囲気を感じ取る。桃子はその巫女に唸りながら訝しい顔をして近づく。

 「うっわ、やっぱり! 環美少女バージョンっ」

 幼馴染みの親友で、ほぼ毎日顔を合わせている桃子でさえ、間近で近づいてやっと本人だということがわかるほど環の今の姿は普段とギャップがあった。

 「あ、桃子じゃん」

 「環が前髪分けたの久しぶりに見た、ついでにメガネなしも。 それに巫女服姿って、破壊力高い」

 「破壊力? なんのことやらよくわからないけど。 とにかく前髪を分けた瞬間から魔力が逃げていくのを感じた、そして私はコンタクトよりメガネ派閥、巫女服は案外気に入ってるけど、早く巫女さんの舞を終わらせて戻さねば……」

 「もう目隠すのやめちゃえば? 前髪が目にかかってるほうが魔力が高くなるっていうジンクス、よくよく考えてみると意味わからないし、それ」

 「だがやめない。 このジンクスはカリスマ霊媒師、高町森羅先生の受け売りなんだからねっ」

 桃子の提案を環は間髪入れずに却下する。環が目を前髪で隠し始めたのは小学校の頃からである。当時オカルトテレビ番組に出演していたカリスマ霊媒師のジンクスを環は今でも信じているのだ。そこは環にとってはかなり譲れない部分らしい。


 「何回も聞いてるよ。 ま、目を隠すも隠さないも環の自由だし、わたしは別にどっちでもいいんだけどね。 どっちにしたって環だしね」

 「違いない」

 「でも髪を分けると美少女ってちょっと面白いから普段目隠してた方がやっぱいいかも」 

 「ところで桃子、その手に持っているたこ焼きっぽいたこ焼きは?」

 ソースとマヨネーズのいい匂いが鼻を突いたのか、ふと環は桃子の持っている白い袋を指さす。

 「おお、たこ焼きってばれた」

 「ソースとマヨネーズの匂いがするからたこ焼きっぽいかなって」

 「ふふふ、普通のたこ焼きだと思ったら大間違いだぜいっ」

 「普通のたこ焼きじゃない? え、なになに」

 「その名もたこ焼きロシアンルーレットっ、だぜいっ! 食べる?」

 「うーむ、むむむ、闇鍋の闇を、このたこ焼きからは感じる……なんかソースとマヨネーズの匂いに混じって心なしか甘い匂いとか辛い匂いが」

 「気のせい気のせい」

 「おーけー、それなら1つもらおうか! 本番の前に気合を入れた腹ごしらえ!」 

 「冒険者よ、召し上がれっ!」

 まだ熱いたこ焼きロシアンルーレットの中から一つ、環はたこ焼きを選んで口に含んだ。


 「熱ちちっ、む、これは。 カスタードクリーム、だと? ソースとマヨネーズかかってるのに、正直味は微妙。 これは当たりなのかはずれなのか」

 「他の食べてないからいまいちわからないね……恐るべし、たこ焼きロシアンルーレットっ」

 「じゃ、次桃子の番ね!」

 「よしきた」

 「ん。 黒いけど、うまい」

 「イカスミぃ! カスタードよりはるかにうまいだろー! 私もそっちの方ががが」

 「いや、巫女さんの舞台これから出るんだから環にイカスミは渡せないぜっ」

 「ぐぬぬ」

 「やぁ桃子ちゃん、こんばんは」

 桃子と環がたこ焼きロシアンルーレットで盛り上がっていると神主の刈部啓介がやってきた。

 「お、優男神主、こんばんはっ」

 「すっかりそのあだ名で定着しちゃったね」

 「のようですよ」

 「いいよいいよ、僕あんまりそういうことにはこだわらないからね」

 刈部は急に今までの柔和な表情から真剣な顔つきになる。

 「にしても、桃子ちゃん」

 「はい? どした……?」

 それまでの刈部とは明らかに対照的な雰囲気に桃子は少し怯える。

 「環ちゃんのこの巫女さん姿はどうっ!?」

 刈部は興奮気味かつ自慢げな顔をして環の方に両手をかざし、巫女の姿を強調する。いつもとはテンションが若干異なる刈部に桃子は少し戸惑いつつも率直な感想を述べる。


 「ど、どうって、環には見えないぐらいハイパー美少女だよ」

 「ふふ、僕の思った通りだったよ」

 「なんですと?」

 「環ちゃんはメガネと髪さえなんとかすれば絶対美少女だって確信してたからね!」

 「え、普段の環しか見てないのに環が美少女なのよく見抜けたね? わたしは幼馴染みだから知ってたけど、今まで環が美少女だって見抜けた人は多分一人だっていなかったのに」

 「あっはっは、僕の目を侮ってもらっては困るよ。 僕の奥さんだって元は環ちゃん並にすごく地味な人だったんだからね」

 「マジか」

 「これで零限神社で普段も環ちゃんを巫女さんとしてバイトで雇えばお賽銭を投げてくれる人が、ふふ、ふふふ」

 「おい優男神主、キャラが崩壊してるぞ……」

 目を光らせる刈部に環が珍しく突っ込みを入れる。


 「あ、そうだ。 環ちゃん、もうすぐ舞の時間だけど本当に体調は大丈夫なんだよね?」

 「もちもち」

 「良かった良かった」

 「刈部さん、そろそろ時間ですので」

 役員の人がいよいよ巫女さんの舞の時間であることを知らせに来る。

 「あい、了解しました。 じゃ、環ちゃん、出番だよ」

 「あいあいさっ、任せといてっ」

 今の環のノリノリの様子じゃ、巫女さんの舞も大丈夫そうだと桃子は一安心する。

 「桃子ちゃんも境内の裏から見ていくかい? 特等席だよ」

 「お、いいの? じゃ特等席もらいっ。 お礼に冷めてきたけどたこ焼きロシアンルーレット1つ上げる」

 「たこ焼きロシアンルーレット? 面白そうだね、それ。 1つ頂くよ、ありがとう」

 刈部は桃子の差し出したたこ焼きロシアンルーレットから一つたこ焼きを取り出し、口に含める。

 「ん、キムチだね、とてもおいしいよ」

 「アタリな方か……わたしの予想だと当たり外れ半々てとこで、はずれ率が今は高い気がするな」

 「はずれ率? お、始まるよ」


 笛、和太鼓、弦楽器の音が境内に鳴り響く。祭囃子の演奏が始まるとともに3人の巫女が曲に合わせて華麗に舞いを踊る。

 「環、かっけー。 にしても普段とギャップありすぎてもう誰だよってレベル……」

 「あはは、環ちゃんと付き合いが長い桃子ちゃんは特にそうなんだろうね、環ちゃんもいつも目を前髪とメガネで隠してるから。 僕なんかはまだ環ちゃんとはご近所付き合いで2年目ぐらいだし、最初から環ちゃんは美少女だってわかってたから桃子ちゃんほどびっくりはしていないかもしれないね」

 「へー、啓介さんて環と知り合って2年なんだ」

 「うんうん、実は僕がユーフォリアに来たのは3年前でね。 零限神社の一人娘だった美麗さんに一目惚れしてね、結婚してなかった時に帆乃夏が生まれて、ずっと先代であるお父さんに結婚を許してもらえなくて大変だったんだけど。 零限神社の跡取りになって本気で美麗さんと帆乃夏を守っていこう、お父さんの神社への想いも引き継いで神社を切り盛りしていこうって決めてようやく数年前にお父さんからお婿さんとして認めてもらってからなんだ。 だから、環ちゃんと知り合ったのはほんの2年前ぐらいのことなんだよ」

 巫女さんの舞を見ながら柔和な笑顔で刈部は身の上話を桃子に語る。

 「へー、啓介さんて顔には似合わずけっこう大変だったんだね」

 「あはは、顔に似合わずって。 まぁ、大変っていうのはこの神社はけっこう歴史もあるからね。 今でこそ色々とお父さんから許してもらってるけど、すぐには認められないこととか、中々、難しい所もたくさんあったんだよ」

 「ふーん」

 「大人の事情ってやつさ、桃子ちゃん。 さて、巫女さんの舞の終わりには神主が締めなくちゃならない決まりだ、だからもうそろそろ僕は行かないと」

 「お」

 「済まないけど桃子ちゃん、巫女さんの舞を締めくくった後も色々とやらなければならないことがあるから、これ環ちゃんに渡しておいてくれないかな?」

 「ん、報酬?」

 「うん、4人分のお手伝い料プラス環ちゃんの巫女さんの舞出演で追加料金入れておいたから。 環ちゃんには後でまた挨拶しに行くから、ありがとうって伝えておいてくれるかな?」

 「おーけー、伝えとくー」

 「桃子ちゃんもありがとうね、琉瑠人君と一葉ちゃんは来ていないようだけど2人にもありがとうって伝えておいてもらえると助かるよ」

 「あいあいさっ」

 刈部が席を立ってすぐ、桃子はたこ焼きロシアンルーレットを一つ口にする。

 「あまっ、まずっ。 ソースとマヨネーズにあんこって組み合わせ最悪、気分が悪くなりそうだ」

 刈部が境内を出て10分ほどで巫女さんの舞は終了した。

 「環お疲れーって、着替えるのはっや!」

 巫女さんの舞が終わったので桃子が環を迎えに行くと、すでに環は巫女服から着替え終わっていた、前髪とメガネも元通りである。

 「魔力が戻ってくるのを感じる、これで完全復活ヒャッハー」

 環の服装は灰色のセーターにジーンズ、スニーカーと桃子に劣らず女子力の低い服装である。

 「あ、環。 そういえば優男神主がしばらく忙しいからこれ渡しといてくれって、はい」

 「お、報酬きたー」

 環は嬉しそうに報酬が入った封筒を桃子から受け取る。


 「そういえば、うろぼろす部の活動資金ってもう使い道決まってるの?」

 「いや、特に決まってないよ」

 「そうなんだ。 てっきり何か使うあてがあると思ってた」

 「なんなら廃工場地帯の門をぶち壊して正面から乗り込むための工具をこの資金で」

 「待て待て。 廃工場地帯は桃子が大好きなママに聞いて忍び込めるってわかったんだろ?」

 「あ、琉瑠人も来てたんだ」

 「あ、ってなんだよ。 にしても桃子も環も女子力低いな」

 「あ、の、ねっ! あれは廃工場地帯に忍び込む方法を教えてもらう条件で母さんに言わされたんだから、別にわたしが母さんを大好きってわけじゃあないんだからねっ! それに女子力が低いって余計なお世話なんだけど!」

 「ぷ」

 「ぷ、ってなんなんだぁあああああ! 馬鹿にしてんのかぁあああああ!?」

 「別に。 ぷ」

 真顔で別に、と言った後、嘲笑を含んだ表情で自分を見下ろす琉瑠人に桃子は何とも言えない屈辱感を覚える。

 「この屈辱感は何なんだぁあああああ!」

 「てか環、お前結局巫女さんの舞に出てなかったじゃねぇか。 いやでなくて良かったと思うけどよ。 何せあの3人の美少女の巫女さんの中にお前が混じってたんじゃ浮き過ぎて、あの巫女さんの舞は最高に」

 屈辱感の真っ只中にいる桃子をよそに、琉瑠人は環に巫女さんの舞について話を振る。境内の奥に入っていない琉瑠人は当然のごとく巫女さんの舞の中に美少女巫女姿の環がいたことを知らない。

 「いや、私いたんだけど」

 「良かっ、ん? は?」

 環がぼそりと口にした言葉を聞いてしばらくず琉瑠人はきょとんとする。


 「いや、だから」

 「すまん、俺の聞き間違いか、今なんて言った?」

 「いや、だからさ。 今日の3人の巫女さんの中にいたってば」

 「え……え? 環、お前は何を」

 琉瑠人は環の言っていることが冗談にしか思えず信じられない。

 「啓介さんから報酬ちゃんと2倍もらったもの。 ほらこれ、ぐへへ、これでまたうろぼろす部の活動資金が増えた」

 「え? ええ!? な、いや。 そんなまさか、え、え、え、え、え?」

 しかし、巫女さんの舞に出ていたと何回も言う環に、琉瑠人は徐々にそれが本当のことであると理解し始める。

 「え、って何回言う気だよ」

 桃子がうざそうな顔で琉瑠人に突っ込みを入れる。

 「いや嘘だろ? どこにいたっていうんだ? 冗談だろ? 冗談だと言ってくれッ!」

 「だーから、冗談じゃないって、ちなみに私は中央だったよ」

 「中央、だって……?」

 琉瑠人は今一度先ほど見た、まだ自分の中に鮮明にある3人の美少女巫女の姿を思い浮かべた。しかし、どう考えても琉瑠人はあの3人の中に環がいたとは思えない、今の環とは明らかに雰囲気、容姿が違いすぎてとても信じがたいといった様子である。。

 「あの美少女巫女が環、だ、と? そんな馬鹿なっ! 桃子、環の言ってることは本当なのか!?」

 「さぁねー」

 「ここは大事なとこだろっ! 答えろよっ! いや答えてくださいお願いしますっ!」

 「じゃ、たこ焼きロシアンルーレットの結果次第で教えてやらなくもない。 残りは4つ、当たりを引くことができれば教えてやるよっ!」

 「あ、まだ4つも残ってたんだ。 じゃ、私、もう一つもらう」

 「さすが環っ、怖いもの知らず!」


 「たこ焼き、ロシアンルーレットだと? いいだろう、その勝負受けさせてもらう」

 「先、琉瑠人4つの中から選ばせてあげよう」

 琉瑠人は差し出されたたこ焼きを真剣な眼差しで見つめ、10秒ほど迷った末にマヨネーズのかかりが一番少ないたこ焼きを選び口に投げ込み咀嚼する。

 「よしうまい、勝っ」

 琉瑠人は口の中に広がる美味に自分の勝利を確信した。しかし、彼を地獄へと誘う異変はすぐさま起きる。

 「勝っ、か、から、辛っ、辛ぇええ!」

 琉瑠人の口の中全体を侵食するかのように、凄まじい辛味と痺れが一瞬で広がる。

 「あ、無理だこれ、ダメな辛さだ、あ、やばい、やばいやばいやばいやばい」

 辛味と痺れはやがて痛みへと変わり、琉瑠人は顔をゆがめて涙目になって悶絶し始めた。

 「ぷくく、ざまぁ」

 「おー、まいがっ」

 その様子を桃子はにやけた表情で愉快そうに眺めている。表情が見えにくいが環も心なしか楽しそうだ。

 「ぐあぁ、ダメだ、あがぁ、ダメだわ! 飲み物買ってくる!」

 「ストップ!」

 「なんだよ! 口の中がヒリヒリしてこっちは死にそうなんだよ!」

 「耐えろ」

 「はぁ?」

 「勝負は琉瑠人の負けだろ? だがしかし! 帰るまで口に辛い物以外何も入れられずに耐えれたら環が本当に美少女巫女だったのか真相を教えてやらなくもない!」

 「て、てめぇはぁあああああ!」

 「ぷくく、さてどうする? わたしは別にどっちでもいいんだけどねっ」

 特意そうな表情で余裕をかましている桃子に琉瑠人は自分が今感じている辛さ痛み、この苦しみをいつか本気で味わわせてやりたいと思った。

 「くっ、いいだろう! 俺も男だ! その勝負、受けて立ってやるぜ!」

 涙目になって辛さをこらえる琉瑠人は桃子との勝負を受けて立つ。

 「じゃ、あと2時間ぐらいな、お祭り見て回るから」

 「に、二時間んん!?」

 「琉瑠人と桃子の勝負、面白そうだから私も見ていこう。 てかその前に私もたこ焼き1つ」

 「あ、そうだった、はい」

 「うん、うまい。 チーズと、これは明太子かな」


 その後、3人はお祭りの屋台を見て回ったりお祭りのイベントを楽しんだ。約2時間が経過し、琉瑠人の口の中の症状が治まる頃、3人は思いがけない人物に遭遇する。

 「あ、あれ。 一葉先輩じゃない?」

 「なに!?」

 「お、ほんとだ。 しかも珍しい、隣に伊織先輩がいる」

 「2人きりで楽しんでるっぽいね、琉瑠人おつ」

 「な、んだと……」

 「邪魔かもしれないけど、とりあえずあっちに行こう。 伊織先輩と会える機会あんまりないから、月曜日から廃工場地帯に忍び込む予定も直接確認しときたい」

 3人は一葉と雲田伊織に近づく。

 「一葉せんぱーい、伊織せんぱーい!」


 環の馬鹿でかい声に一葉と伊織が桃子達の方を見る。

 「あら、環ちゃんだ」

 「どうもどうもこんばんはっ、伊織先輩会うの久しぶり」

 「うん、久しぶり」

 身長はあまり高くはなく、口数は少ないが、常にきりっとした表情と黒縁の眼鏡が知性を感じさせる。それが雲田伊織である。

 「デート中のところ失礼かもしれないんですが」

 「で、デートってわけじゃないの環ちゃん」

 顔を赤くしつつ、明らかに動揺している様子であるが一葉は環の言葉を否定する。

 「環ちゃん、僕のメッセージみていないのか? 一葉も送ってるはずなんだけど、僕らもお祭りに行くよっていう趣旨の」

 「なんですと?」

 伊織の言葉に環はスマホを取り出して画面を確認する、すると伊織と一葉から約30分から1時間ごとに5件ほどメッセージが届いていた。電話の着信も伊織から2件ある。

 「げ、すびばせん、全然気が付かなかった。 設定サイレントにしてたの忘れてたわ」

 「まぁ問題ない、結局みんな集まってるし。 あ、そうだ。 この機会に桃子ちゃんと琉瑠人君のIDもチャットアプリに登録しておきたいんだけど教えてもらっていい?」

 「あ、私も琉瑠人君と桃子ちゃんのID教えてほしいな」

 「もちろんですっ」

 「すぐに教えますっ!」

 「ところで伊織先輩、お父さんのお手伝いは大丈夫なの?」

 桃子と琉瑠人がチャットアプリのIDを一葉と伊織に教える中、環が伊織の家の事情について尋ねる。

 「うん、とりあえずは一段落ついたんだ。 普段あんまりにも忙しくて顔を出せないから少し気が引けてたんだけど、ちょうどさっき1時間ほど前に時間が空いたから、僕もせっかくだし行こうと思って環ちゃんにメッセージ送ったんだ。 一葉に聞いてみたら一葉は環ちゃんの巫女姿を見に行くっていうから一緒に来たんだよ」

 伊織は2人きりでいることの事情を3人に説明した。

 「それにしても環ちゃん、すごいきれいだったしかわいかったね! 動きにキレもあってかっこよかったし! 私、ムービーと写真30枚ぐらい撮っちゃったよ!」


 「ええ、マジか! やっぱりあの3人の巫女の中にいたのかよ!」

 琉瑠人は一葉の素のリアクションでようやく環が美少女巫女3人のなかにいたことを理解した。

 「だからそれは私は何回も言った」

 「チッ、バレたか」

 普段とギャップがあまりにも大きい環の巫女服姿によほど感動したのか、一葉は巫女さんの舞が終わって時間が経っているのに全く興奮冷め止まぬ様子である。

 「せっかく久しぶりに5人集まったんだ。 ここで立ち話もなんだし、どこかファミレスとか座れるところで話さない? 僕が気になってる廃工場地帯にまつわる都市伝説の話もしたいし」

 「お! 都市伝説聞きたいっ! 野郎どもさっさといこうぜ!」

 「じゃこの辺の近くにしゃいぜり屋あるからそこで」

 うろぼろす部5人は場所を話しやすいファミレスに変えることにする。

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