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⑥
目を覚ますと、彼は思い出していた。
彼の母親を老人ホームに入居させる際に母親のさみしそうな目を。
父親は彼が小学生低学年の時に他界した
それ以来、母はまるで鬼のように働いた。
その頃から、まるで自分の母親が妖精のようにするり、ひらりと、
自分の元から遠ざかっていくような、感覚を感じていた。
あの日は雨が降っていた。
強く惹かれた手は母親のものではない。
自分の手を握る誰かを見たいと思っても、見ることはできない。
しかし、彼にとって心地が良かった。
電車にでも乗っているような、眠くなっていくような
不思議な感覚。