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第四話


 次の日。

 私はいつもより早い時間に目が覚めてしまった。

「・・・もっかい寝よう」

 昨日あんなことがあったから、普段より眠りが浅かったみたい。いまいち疲れが取れてない感じがするなぁ。

 さあもう一度夢の世界へ!と目を閉じた瞬間―――。



 パリンッ!

 ガッシャーーン!!



 ・・・・・・世界は無情だった。





 ◇ ◇ ◇ ◇





 寝間着にしているジャージ姿のまま玄関を出てお隣さん――もといウィリアムさんの所へ行く。

「・・・ウィリアムさん、どうかしました?」

 インターホンを押して少し大きめの声で中に声を掛ける。もちろん、ご近所さんたちはまだ眠っていらっしゃる方たちもいるので小さめですが。

 しばらくしてドアが開いたかと思うと、まだ四歳になったばかりの双子の姉妹が出迎えてくれた。

「おはよう。麻那まなちゃん、彩音(あやね)ちゃん」

「おねえちゃんっ!・・・」

「ふえぇぇん!」

 私にしがみ付いて泣き出した二人をあやしながら中に入って扉を閉める。流石に朝から子供の泣き声がしたら世間体というものが危ぶまれるのでここは迅速に。


 中に入ると花が活けてあった花瓶が無残にも割れており、テーブルの上に置いてあっただろう多くの物が床に散乱している。

 視線を少し奥へやるとウィリアムさんと陽菜さん、そしてイリス君がいた。

「ふざけるな!そんなことあって堪るかっ!」

「落ち着きなさい、イリス。これは・・・」

「納得できるかよっ!」

 激昂したイリス君がウィリアムさんに詰め寄っている。陽菜さんは床に座り込んで耳を塞いでいる。まるで、全てを拒絶するようなその様子に何があったのかを知る。

 おそらく、ウィリアムさんが家を出る決心をした最大の理由を話したのだろう。



 ウィリアムさんの脳には小さな腫瘍がある。今はまだ小さいがこれから大きくなっていくであろうそれを取り除くことができる医者は今の世界には存在しない。それほど奥深くに腫瘍は存在していた。



「聞きなさい、イリス。これは父も母も知っている。知った上で私を家から出してくれたんだ」

 そう。意外なことに、ウィリアムさんのご両親は陽菜さんと結婚することを反対されなかった。反対したのはあの家の権力者であるウィリアムさんとイリス君のお祖父さま。

 何でも血筋が一番だと考えていらっしゃるとかで・・・。


「でも!・・・だったら何で、俺には何も言ってくれなかったんだ!」

「・・・すまない。お前にはまだ伝えない方が良いだろうと思って何も話さずに出た」

「言ってくれれば、俺だってわざわざ日本に来て兄さんを連れ戻そうなんて考えなかった!あの人の命令でも聞かなかったのに!」

 最後には力なくそう言ったイリス君はうな垂れるように下を向き、ウィリアムさんも申し訳無さそうな顔をして何も言えずにいた。


 ――――・・・・・・ここは何も言わずに見守るべきでしょう。


 ええ、もちろん空気を読んで黙って傍観しています!

 たとえ麻那ちゃんと彩音ちゃんがこちらを見てどうにかして欲しそうな眼差しで見ていても黙って見守りましょう!


「・・・アズミちゃん」


 はい、ウィリアムさんに気付かれました・・・。

 というか、インターホン押した時点で気付かれてるよね。


「私たちの問題に巻き込んですまなかったね。もしお祖父さまがこちらに来てもアズミちゃんには何の被害が行かないようにするよ」

 だから―――


「ウィリアムさん」

 私はウィリアムさんの言葉を遮ってできるだけ普通の声で話しかける。


「もう関わるな、と言われてもどうしようもありませんよ」


 ――普段のように話さなければ何を言ってしまうか分からない。


「それに、ウィリアムさんたちの事情を始めて聞いたときから覚悟くらいしています」


 ――今さら何もなかったようにするなんてできるわけがない。


「ウィリアムさんたちのお祖父さんが日本に来て、まず最初に標的にするのはこの子達か私でしょう」


 ――あの豪傑(、、、、)は簡単に人の感情を踏み躙り、冷酷なことをしてのける。


「たとえウィリアムさんが関係ないと言っても事情を知っているだけで狙われるのは当たり前です」


 ――いつか、こんな日が来ることは予想できていた。


「だから・・・」


 ――だから・・・


「私だけ除け者にするなんてやめてください」


 ――私は私の持てる全ての権力(ちから)を持って立ち向かう。



 にっこりと笑いながら言い切った私を見てウィリアムさんが大きく溜息を吐いた。

「どうせこれ以上何を言っても引く気はないんだろう?アズミちゃん」

「はい。だってもう狙われるのは決定事項でしょうから」

「・・・後戻りはできなくなるよ。それでも良いのかい?」

「もとより覚悟の上です」


 ―――そんなものに怯えるくらいなら私はここにいない。



「――――それじゃあ、色々と迷惑をかけるけどこれからもよろしく」


 差し出された手は


 何をしても揺るがないと思ってしまうほど大きく


 けれど小さく震えていた。


 私はそれを止めるように


 強く 思いっきり


 掴んだ。



「はい。こちらこそよろしくお願いします」



 ―――さあ、これからが本当の勝負の始まりだ。


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