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第二話


 部屋に通された私たちは、陽菜さんとウィリアムさんが座った反対にイリスくんが座って、私は少し離れたところで話し合いを聞くことになった。


「それで、彼女に事情を話したってどういうことだ?」

 イリス君は苛立ちを隠すことなくウィリアムさんたちにぶつける。

 イリス君の斜め後ろに座っている私はうわぁ、なんて思いながらその状況を眺めていた。

「アズミちゃんはうちの隣の部屋に住んでいるんだ。その付き合いの延長線で話しただけだ」

「こいつが周りにバラすとか考えなかったのかっ!?」

「アズミちゃんはそんな子じゃない」

 ああ、とうとうこいつ呼ばわりされちゃったよ。あとでシメておこう。うん、決定。

「何度も言っている筈だ。私はヒナと別れるつもりもないし、家に戻るつもりもない。彼らにもそう伝えろ」

「じゃああの莫迦な従弟に当主継がせるのかよ!」

「父さんがそう言ったのならそうなるだろう」

「兄さんは当主になりたくないのか!?」

 終始イリス君が声を荒げて会話――もとい、喧嘩――が続いています。

「なれと言われればなる。だが、それによってヒナと別れさせられるというのならならない」

「っ!・・・なんでその女なわけ?それだけは教えろよ」

 きっぱりと言い切ったウィリアムさんにイリス君は声を失ったみたいに途端に腑抜けた感じになった。

「ヒナが私に安らぎをくれたから」

「安らぎって・・・何だよそれ、まるで家の中が息苦しかったみたいな言い方は」

 イリス君はウィリアムさんの言葉を認めたくなくて、でもウィリアムさんが家を出たの事実だからどうしていいのか分かんないって顔してる。

 きっと彼は知らないのだろう。ウィリアムさんがどういう気持ちであの家を出て、日本へとやってきたのか。

「・・・イリスさん。あなたがこの人を大事に思ってくれているのはよく分かるわ」

 沈黙が降りていた場でそれを破ったのは、今まで一言も喋らなかった陽菜さんだった。

「でもね、これ以上ウィルがあの家に縛り付けられてたらウィルはウィルでなくなっちゃってたかもしれない。わたしはウィルを助けたかったの」

「それで・・・それで兄さんに何もかもを捨てさせたのかよ!」

 イリス君がそれまで以上に声を荒げて陽菜さんを睨む。そして、陽菜さんはそれを静かに受け止めている。いや、正確には受け止めようとしている。

 陽菜さんの中にもウィリアムさんに全てを放棄させてしまったという自責の念が強く根付いている。そこを突かれて、動じないわけがない。

「あんたがいなかったら兄さんはずっとあの家で父さんと母さんと一緒に暮らしてた。それをあんたが壊したんだ!」

「イリス、それは違う!」

「何が違うんだよ!その女が兄さんを・・・!」

 イリス君の言葉はそれ以上続かなかった。否、私が静かに立ち上がってイリス君に平手打ちをかましたから続けられなかったのだ。うん、いい音がした。

 さすがのウィリアムさんもいきなりのことに呆然としている。

「君さ、相手を傷付けてるって自覚ある?」

「っ!?」

「その顔はないみたいだね。じゃあ言っとくけど、君が今言おうとした言葉は陽菜さんだけじゃなくてウィリアムさんも傷つけることになるよ」

「なっ・・・なんでそんなことがお前に分かる!」

「『その女が兄さんを誑かして、身体使って誘惑したんだろ』とでも言いたかったんじゃないの?」

「それは・・・」

 押し黙ってしまったのでおそらく図星なのだろう。

「それ言ったらさ、陽菜さんも傷つけるし陽菜さんの手をとったウィリアムさんも侮辱してることになるんじゃないの。それくらい分かるでしょ」

「・・・・・・」

 反論できないから無言になったか。

 とりあえず言いたいことは言ったから私は元の場所に戻った。

「あ、どうぞ話続けてください」

 って、さすがにこの空気じゃ無理かな。陽菜さんは今にも精神の糸が切れそうなほどギリギリなとこに立ってる感じだし、多分ウィリアムさんとイリス君だけだと話し合いにもならないだろう。

「・・・これ以上話しても進展しないみたいですし、今日のところはこれくらいにしたほうがいいんじゃないですか?」

 ウイリアムさんにそう提案すると、そうだね、と了承の返事が返ってきた。

「もうお昼だ。何か食べよう」

「あ、じゃあ今日は暑いですし、そうめんにでもしましょうか」

 いそいそと立ち上がって作業を始めた二人をイリス君は悲しげに見ていた。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 話し合いも今日はもう終わりということで、私はお役目御免となって自分の部屋へと帰る。

「ただいまー」

 真っ暗な部屋に私の声だけが空しく響く。

 そのことは気にせず、私はおやつに持っていったスコーンと紅茶を鞄から取り出して昼食代わりにする。ほんとはウィリアムさんたちに誘われていたけど、私はそれを断った。

 食べ終わって一息ついた私は本を取り出して椅子の上で体育座りをして読み始める。


 内容は、在り来たりなファンタジー小説だ。

 この世界には魔法があって、精霊や龍が棲んでいる。主人公は破天荒な性格の魔法使い。旅をしている魔法使いは途中、山の中で怪我をした龍の子供を助ける。迷子になった龍の子供を親のいるところまで帰しに行く話である。まあ、その途中でお約束の闇商人が龍の子供を手に入れようと躍起になったりとか、お姫様が自分のお人形にしようとしたりとか、いろいろあるけど。


 そんなに厚くない本なので、夕方には読み終わった。それよりも、時間を気にせず読んでいたから晩御飯の準備が出来ていない。

 急いで立ち上がったと同時に、インターホンが鳴る。


 誰だろう・・・?


 慌てて覗いてみると、外にイリス君が立っていた。


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