第一話
気の向くままに書き始めた話なので先のストーリーが何もまとまっていません・・・(汗
お楽しみ頂けたら幸いです。
終業式を迎え、長期休暇に入って数日が経ったある日、私はお手製のスコーンと紅茶の入った水筒、前から読みたいと思っていた本を鞄に入れてマンションの部屋を出た。
「いってきまーす!」
誰の返事も返ってくることがないのは分かってるけど、必ず一声かけて出て行く。これは幼い頃に亡くなった祖母の教育の賜物だ。そのおかげで学校でも生活態度に問題はないという評価を先生方からいただいている。
まあ、勉強はもう少し上を目指せと言われたが・・・。
マンションから歩いて数分のところにある駅から上り電車に乗って三つ先の駅で降りる。
以前、居眠りをして乗り過ごしたときに降りた駅で、とても静かで緑が溢れている街だった。私は閑静な住宅街へ続く道の隣に忘れ去られてようにぽつんとある細いわき道を進んでいく。
なだらかに続く一本道は舗装されてから何十年もそのままなのだろう、所々にひび割れが入っているし、雑草が好き勝手に生えている。
しばらく歩いたところにある小さな神社の境内でまずはお参りをして、それから社の裏側にある緩やかな山道を登っていく。歩いて十分くらいで頂上に着けるし、いい運動になる。頂上には樹齢二百年くらいの大木が立っていて、周りは小さめの木々で囲まれている。
誰も来ないこの場所でのんびりと過ごすのが私の最近の日課だ。今日も大木の幹を背もたれにして本を読もうと思ったが、丁度大木で死角になっている場所に誰かいた。
その人はプラチナブロンドの髪に深い緑の瞳をしていた。日に当たっている白い肌は透き通っていて、見ている人全てが振り向くほどの整った顔立ち。日本人にはない、すらりとした長い足に決して細いわけではないがかといって筋肉質なわけでもない均整の取れた体つきの同じ年ぐらいの男の人。
うわぁ、外国人だ・・・。
私は思わず見とれてしまった。
向こうも私に気付いて、驚いた顔でこちらを見てきた。
「Who are you?」
『・・・えーと、こんにちは?』
私が英語で話しかけるとその人は更に驚いた顔をした。
まあ、私が英語話せるって知らないから当たり前だよね・・・。
私の家の隣には国際結婚した家族が住んでいる。その家の双子の姉妹の遊び相手をしていて仲良くなったのだ。
駆け落ちしてきたのよねー、と呑気に言っていた女性は笑顔のかわいい人で、ホンワカした雰囲気が場を和ませてくれる。イギリス人の旦那さんもお茶目な人でよく笑わせてくれる。
将来世界旅行に行きたいなー、なんて私が言ったら英語が話せたほうがいいからって言って教えてくれたのだ。先生がいいから私もすぐに話せるようになって日常会話なら普通に喋れるようになった。
『英語、話せるのか?』
『うん。知り合いに教えてもらったから』
『そうか・・・』
彼は突然黙り込んで何か考え始めた。ちらちらとこちらを見ているのは気のせいだろうか、いや、気のせいじゃない(反語)。
『なあ、ここは立石町で合っているか?』
『・・・ここは立石町じゃなくて立岩町だよ』
立石町と立岩町。本当に間違われやすい地名で、たまに郵便物が間違って来ることもあるくらいだ。かく言う私も、立石と立岩の駅名を間違えて降りてしまったことがある。
『立岩・・・?』
『そう。立石町は下りの電車で駅三つ先だよ』
『・・・・・・』
あ、黙った。多分、間違えたのが恥ずかしいんだろうなー。
『初めての人が間違えても仕方ないよ。地元の人でもときどき間違えるし』
『・・・・・・そうなのか』
明らかにほっとした様子だ。
きっと道間違えたりとかしたことないからどうしたらいいか分かんなかったんだろう。
そう勝手に結論付けた私はどうするべきか考え始めた。
一、駅までの道のりを教えて――といっても一本道だが――自分はここでのんびり過ごす。
二、彼の行きたいところまで道案内をする。
三、何もしない。
私としては一を選びたいところだが、土地慣れしていない彼を一人で行かせるのも少し心配だ。かといって自分から道案内を買って出てもただ厚かましいだけだろう。
どうしよう、と悩んでいると彼のほうから声がかかった。
『その・・・すまないが道案内を頼めるだろうか?』
『へ・・・あ、うん。いいよ』
『ありがとう』
そう言って彼が笑ったとき、ふんわりとした雰囲気が花が咲いたように色づいた。それを直に見てしまって思わず顔が赤くなりそうになる。
『・・・どうかしたのか?』
『な、なんでもないよ!・・・それで何処行きたいの?』
『ああ。ここなんだが・・・』
話を無理やり戻そうとした挙動不審な私の行動をスルーして住所を書いた紙を見せる。
「・・・・・・」
住所を見たとき、私は思わず無言になってしまった。
『どうした?』
『いや、あの・・・この住所、私の住んでるマンションなんだけど』
『そうなのか!?・・・では俺の兄を知っているのか?』
『ウィリアムさんがお兄さんだって言うなら知ってるけど・・・』
私が出した名前に彼はすぐさま反応を見せる。
これは彼の兄弟とみて間違いないのだろう。
『えっと、とりあえず行こう?』
『ああ』
私は彼を連れて駅へ向かおうとしたが、一つ大事なことを忘れていたのに気付いた。
『そういえば名前言ってなかったね。私は藤堂安曇。よろしくね』
『俺はイリス・ローデンハイルだ。よろしく頼む』
とりあえずの挨拶は終わったので私たちは再び歩き出す。山を降りてから携帯で陽菜さんに連絡を取る(ウィリアムさんだと話が通じなくなることが多々あるのだ)。イリス君に会った経緯を話して連れて行くことを伝えた。イリス君に電話を代わると、二言三言話して電話を切った。その顔はに少し苛立ちが見える。
目的地までの道のりで、イリス君はウィリアムさんたちのことを聞きたがった。私は当たり障りのないことだけを言って他はのらりくらりとかわしていた。
さすがに隣に住んでるってだけで詳しいことまでは言えない。まあ、知らないほうが良かったなと思うこともいろいろ知ってしまっているけど・・・。
立石駅を降りていつもの帰り道を歩く。
そこから先はイリス君も無言になったが特に気まずいわけではないので自分からは話しかけない。というよりも話しかける要素がない。
マンションに徐々に近づくにつれ、マンションの前で立っている人影が見えてきた。
「陽菜さん、ウィリアムさん」
「安曇ちゃん。・・・ありがとう、わざわざ連れてきて貰って」
「ううん、気にしないで」
陽菜さんが申し訳なさそうに言うので私は笑って返した。
イリス君のほうを見ると、恨めしげな眼をウィリアムさんに投げかけていた。
あれ・・・会いに来たんじゃなかったっけ?
『兄さん、まだこんな女と暮らしてたの?』
「ここは日本だ。日本語を使いなさい」
「ちょっと待って。君は日本語を話せたの?」
あえて日本語で質問すると、イリス君はばつの悪そうな顔をしながら答えた。
「・・・・・・少しだけなら話せる」
「少しという割には流暢な日本語だね」
わざわざ使わなくても良かった英語を使わされてつい皮肉を言ってしまった。
「ごめん・・・」
イリス君も悪いとは思っていたらしく、素直に謝った。
それをみたウィリアムさんと陽菜さんが眼を丸くしてこちらを凝視してくる。
「ウィリアムさん?」
「ああ、すまない。イリスが謝る人なんて祖母以外にいなかったから」
そうだったのか。それは貴重な経験をしたものだ。
「とりあえず疲れただろうし、中に入ろう。・・・アズミちゃん、君もいてくれ」
「ええっ!?」
込み入った話になりそうだったから、じゃあ私はこれでー、と言って立ち去ろうと思ったのに先手を打たれてしまった。
「兄さん!?」
イリス君も部外者の私が呼ばれていることに驚いている。
「大丈夫だ。彼女は事情を全部知っている。・・・俺から話した事だ」
そう言われたイリス君は驚愕の眼差しを私に向ける。
つい先程まで知らぬ存ぜぬで質問を全部かわしていたのだから、何も知らないと思っていても仕方がない。
「とりあえず入りましょ。ここにいても仕方がないわ」
陽菜さんの言葉で私たちは家の中に入っていく。
もちろん、私はイリス君から射殺されそうなほど鋭い視線を受けながらだけど・・・。
果てしなく莫迦な間違いをしていたので訂正しました・・・(泣)
誤字脱字を発見しましたら教えてください・・・><