表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラブロマンスはほどほどに  作者: れんじょう
ラブロマンスはほどほどに
9/44

三冊目 第一話

 『私の上司は最悪。 いつも周りにはスーパーモデル並みの美女がいる。 彼女達は別れた後に貰う花を用意しているのが私だと知っているのかしら――――。 ローマ一の広告代理会社に社長秘書として勤めだして半年。 社長のビジネスにおける天賦の才と発想力の豊かさは尊敬に値するけれど、女に対してのだらしなさは不愉快以外何物でもない。 だから私は自分の本当の気持ちを隠して彼に接し、信頼を得ている。 捨てられ続けられる女たちのようにはならない。 でも私の容姿じゃ彼も振り向くことは決してない。 ところが彼は自分にしな垂れかからず、彼の莫大な財産にも興味がない私に興味を持ち始め、事あるごとに休日だろうが私を手元に置きたがった―――――』




 失敗。

 まじで失敗。

 読んだことがありすぎなシュチュエーションでした。 がっくり。


 仕事の帰りがけに古本屋でしこたま買い足したラブロマンス小説。

 その中で主人公二人の表紙絵が素敵なものからピックアップして読み始めたのに。


 この前と違うのは、舞台だなー。

 イタリアだし。

 この表紙の絵の男前に、確実に騙された。


 浅黒い肌で短めのすっきりとした漆黒の髪。 肩幅が広くて無駄のない筋肉。

 そして何よりも、彫が深いけれどシャープな顔立ちが素敵なんだなあ。


 仕事疲れでふらふらしていても、どうしても止められないロマンス小説の魔力。

 玄関を上がって直ぐに着替えて、がさごそと古本屋の安い紙袋からお気に入りの一冊を取り出して読み始めたのは、夜十時過ぎ。

 今はもう十一時だからそろそろこのあたりでやめないと、明日の仕事に差しさわりが出る。

 まだ週半ばなので、さっさと見切りをつけて直ぐにお風呂に入って出てきたのが十一時半で。

 髪を乾かして、ベッドに潜ったのが真夜中を過ぎようとしたころだった。


 コンコンコンコン


 ―――――ガラス戸を叩く音がする。


 コンコンコンコン


 ……無視できるなら、したいんですけど。 はふ。


 コンコンコンコン


 「瞳子」

 「あのね? 部屋に電気が付いてないときは寝てるのよ?」


 ガラス戸を前にして、どうせ言っても無駄なんだろうなあと思いながらも言わずにいられなかった。


 「入れてくれぬか」

 「……どうぞ」


  はあ。 諦めが肝心です。


 瞳子が二重ロックの鍵を開けてガラス戸を引こうとしたとき、いつものようにガラス面が浮き出て、人型になり、そしてそこから件の変態が抜け出てきた。


 「―――――え? えええええ?????」

 「何をそんなに驚く? こうやっていつも来訪しているだろう?」


 ち……ち……違うわっ!

 そんなことで驚いてるんじゃない!


 「どうして……顔が違うのよ! ってか、さっき読み始めたばかりの本の主人公じゃない!」


 ガラスから抜けてできた男は、確かに昨日までのシャルルと違って短く切った漆黒の髪に切れ長の目、けれど彫が深くて瞳子がたぶん今までの本の中で一番男前だと思っているその人の顔だったのだ。


 「……アレッシオ」

 「違う」

 「ヴィンチェンチオ」

 「違うな」


 呆れた顔でシャルル(仮名・すでに顔は違う)は否定した。

 無駄だとは思いつつも、どうしても主人公の名前しか思いつかない。

 でもその顔は「アレッシオ」なんですってば!

 シャルル(仮名)改めアレッシオ(仮名)、に決定。


 「こちらの世界の名前は、本当に面白いな? ただ瞳子が付けてくれた名前にはどの名前も及ばないが」 


 口の端を少しだけあげて微笑むのは、反則的に格好がいいです。

 ぼーっと見惚れます。

 見栄えって恐ろしい。


 …………あれれ?

 『こちらの世界』?


 「こちらの世界って、何?」

 「……これは失言だな」


 ちょっと横を向いて、古典ギャグのようにごほんごほんと咳き込みながら誤魔化そうとしているのは、正直驚きです。

 誤魔化すならせめてもっと分かりづらく誤魔化してほしい。


 「あー、なんだ。 頼みがあるんだが」

 「……なに?」

 「瞳子がいつも飲んでいる『こうひい』を淹れてくれないか」

 「珈琲? ……別にいいけど」


 アレッシオのいう『こうひい』の発音が変でちょっと気になったけれど、この場を離れられるいい口実なのでそそくさとその場を離れた。

 その間にアレッシオがテーブルにある黒綺(こっき)の首輪を袂に隠したことを、私は全く気付けなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ