二冊目 第三話
『無理やり好きでない男と妹の代わりに結婚させられ、逃げた妹を探そうにも止められる。 男は優しかったが、イギリスの職場にいきなり辞表を出したことを不審に思った男の同僚が城を訪れたことから、男の私に対する態度がおかしくなってきた。 私をお金や貴族という地位が欲しくて結婚したと勘違いしだすようになり、私という存在を無視するようになってきた。 城の中でこれといって何もすることがなく手持無沙汰になった私は前の職場に復職を求め、男のもとを去った。 あれから一年経ち、男がイギリスの家にやってきたが、私には男に対する不審しかなかった。 けれどそれは誤解で、彼は私を一目見て自分の妻の選択を間違えた、妹に感じていたのは私に似ているからで、実は私こそが彼の生涯の伴侶だと気がついた。 妹は妹で彼の友人である男こそ自分の夫になる人だと感じたが、結婚の約束に縛られて式をあげなければという義務に襲われ、それを夫が諭して駆け落ちさせたのだということを、私はこの時初めて知ったのだ。 同僚がやってきたときは嫉妬で狂いそうになったと。 ああなんという幸せ。 そして今、私たちは本当の結婚式を妹夫婦と一緒に挙げなおしして幸せを誓い合う』
いいなー。
どらまだなー(棒読み)。
『生涯の伴侶』っていいなー。
嫉妬、してほしいなー。
ぽいっ
ロマンスがふんだんに盛り込まれた小説を、瞳子は無造作にテーブルへと投げた。
これで何冊目かな? 千冊はもういっていると思うけど。
読むたびに古本屋に出しているので、自分がどれほどの小説を読んだかなんてすでにわからなくなっている。
図書館とかで、借りれないかなあ。
瞳子は本を読む速度が人よりも早い。
その上ロマンス小説に至っては似た内容が多いことと、あのシーンは飛ばし読みをしだしたので余計に読む速度が速くなっている。
そろそろ古本屋にいかなくちゃ。
ストレリチア・オーガスタの鉢の横に紙袋に入れて山積みにしてあるロマンス小説たち。
次の人に読んでもらえるといいな。
あー、でも……。
夢の変態さんが主人公の分は残しておこうかな。
あんないい気分(?)にさせてもらったってことで。
ふふふ。
がさごそと紙袋から件の小説を取り出し、そして先ほどテーブルに投げた小説と合わせて本棚にしまいこんだ。
誰もこの家に来ることはないけれど、やっぱり背表紙でばれるかな?
うん。 カバーでも作りますか。
瞳子は包装紙を取っておくという癖があるので、そこからお気に入りの一枚を出してせっせとカバー用に折りだした。
うーん。
これしちゃうと、美形さんたちが見えなくなるんだよね。
何かいい方法ないかな。
ごろんとソファに横になり、カバーを付けた小説を掲げて考え込んだ。
あー、でも気持ちいいなあ。
このまま寝てしまいそう………………って!
駄目駄目駄目駄目!
がばっとソファから起き上がって急いでお風呂に入り、そのままベッドに直行して何日振りかできちんとした寝具の上で寝ることに成功した瞳子は、ほっと一息ついた。
これで大丈夫。
今日こそは変態さんも出てこないでしょう。
にやにやと笑う自分がおかしくて、蒲団を顔まで引き上げて口元を隠した瞳子なのでした。
**********
コンコンコンコン
――――――ガラス戸を叩く音がする。
コンコンコンコン
―――――ガラス戸を叩く音がする?
コンコンコンコン
「瞳子」
―――――え?
えええええええええええええええええっ?
「ちょっとまて」
「わかった」
違!
そっちの「まて」じゃなぁーいっ!
蒲団を床にぶん投げて、瞳子はもうダッシュでガラス戸に向かった。
まだ少し濡れている髪が瞳子の顔にまとわりつくが、そんなことを構っている余裕は彼女にはなかった。
「なんでっ?」
「……扉越しに一体何だ? 中に入れてくれぬのか?」
「いや、そうじゃなくて! なんで今日も現れるの!?」
せっかく同僚の千紗が寝不足気味で壊れかけている私の代わりに小口現金の収支を合わせてくれて早く帰るようにしてくれたのに。
だからいつもよりも随分早く帰ってこれて、ちゃんとお風呂にも入ったし、蒲団にももぐったぞ?
なのにどうして、今日もまた夢にでてくるんだーーーーっ!
「入っていいか?」
「駄目です」
「せっかくこうやって会いに来たのに」
「結構です」
「そういわず」
にゅる
戸のガラスが熱を持って柔らかくなったように膨れ上がって、そこから手が、足が、そして最後には人型になって。 最後にぱちんとガラスがはじけてシャルル(仮名)になった。
うーん。ガラスなデスマスクです。
思わず無料で奇術がみれました、みたいな?
これって夢だからいいけど、現実で見たら絶対気が狂うよね。
「で? 私、入っていいなんて一言も言っていませんが?」
「そうだな」
「で? 折角ですからお聞きしてもいいですか? どうして私のところに毎夜くるのかな?」
「毎夜ではないだろう?」
「上げ足を取るな! ……ほとんど毎夜でしょう」
「そうともいうな」
にっこりとほほ笑む姿は、神様のように光り輝いています。
そうだよねー。だって、ロマンス小説の表紙絵だもん。
うっとりとシャルル(仮名)の顔に見惚れている隙に、その変態さんは私の腰に手をまわし、自分のほうへと引き寄せた。
「瞳子。 会いたかった」
ぐぐっと近寄る超絶美形な顔。 あの碧い瞳に負けては駄目だ。
「昨夜もお会いしたように思いますが?」
本当は美形な顔をずっとずっと見ておきたかったけれど、ふいっと顔を背けてキスを避けた。
---失敗。
口にされる代わりに、耳にキスをされました。
ぞくぞくっと、甘い何かが耳を中心に身体を駆け巡り、思わず肩をすくめてしまう。
そんな私を面白がってか、シャルルは耳に唇を軽くつけたまま、まるでくすぐるように私の名前を呟く。
「瞳子。 逢いたかったと言ってくれ」
――――――違う意味では会いたかったです。 目の保養なので。
そんなことを言おうものならこの変態はどうでるかわからないので、口を噤みました。
なかなかいいところで終わらず長くなりそうなので、途中ですが切りました