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ラブロマンスはほどほどに  作者: れんじょう
ラブロマンスはほどほどに
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二冊目 第二話

 だんだんと深くなる口づけ。


 意識が、そのことしか考えられなくなる。


 息をすることさえ忘れて貪るようにキスをする。


 「瞳子」


 顔かたちは変わっていてもこれだけは変わらない、深く低く、耳に響く声。

 名前を呼ばれて欲望に潤んだ目をした瞳子は彼の瞳をじっと見た。


 「……離して」


 まだ理性のある今のうちにやめなければ、私は自分が許せなくなる。

 たとえそれが夢だとしても。


 言葉受けて、私に馬乗りになっていた身体を離してソファに座った変態さん。

 そのまま私を自分の膝に座らせた。


 「どうして? どうしてこういうことをするの?」

 「どうして? ではどうして瞳子は嫌がらない?」


 質問を質問で返してきた。


 「だって。 ……これは私の妄想で。 あなたは私の理想………なんでしょう?」

 「理想?。 そうだ、理想だ。 瞳子に好かれるためだけにこの身があるからな」

 「ほら。 やっぱりそうじゃない」


 ロマンスにどれだけ飢えて、とうとうこんなリアルな夢を見るまでになってしまったのか。

 欲望に駆られて自分を投げ出すほどのロマンス。

 でも、私がほしいのはこんなのじゃない!


 「ふ」


 ほろほろほろと涙が落ちる。

 夢の中なのに自己嫌悪に陥る。


 「なぜ泣く?」


 やさしく声を掛けてくれるのは、この人が私の理想だからだ。

 やさしく背中を撫でてくれるのも、この人が私の理想だからだ。


 こんなことを夢の中で求めるほど、私はどこで壊れてしまったんだろう。

 毎日ちゃんと仕事をして、唯一の楽しみであるロマンス小説を読んだだけなのに。


 こんな夢なんて、いらない。


 涙にぬれた顔をその人の胸にあずけ、わたしは声を押し殺して泣き崩れる。

 

 理想の人?

 金髪碧眼が?

 それとも黒髪黒瞳?


 そんなんじゃない。

 私の理想はロマンス小説では見つけられない。


 だから早く夢なら覚めて。


 


 泣くことに疲れ果てて眠った瞳子の乱れた長い黒髪にその男はやさしいキスをひとつして、淋しそうに去っていった。



 ********



 うっわー、腫れぼったい。


 鏡を見ながら瞳子は独りごちた。


 夢の中で思う存分泣くと、本当に泣くんだなー。

 はじめて知りましたよ。


 まじまじと自分の顔を見て、瞳子はちょっと笑ってしまった。


 昨日の夢は全部覚えている。

 自己嫌悪に陥る夢なんて、めったに見るものじゃないけれど。


 中身は一緒でもいつもとは違う顔立ちの男が、いつものようにやってきて。

 顔が違うから今度こそ本当に変質者が入ってきたと思ってやっつけたのに。

 

 夢ってすごい自己都合。

 私の渾身の一振りを左腕一本で防御して、怪我ひとつしないなんてさすが夢。

 そして……そのままソファになだれこんでキスを重ねた。


 うわっ。

 キスを重ねただなんて!

 そんな羨ましいことが、どうして現実ではないんだろう!

 黒綺(こっき)とはなんどもキスをしているけれど、それとはまったく違うモノ。


 うきゃあ。


 思い出して感じるほうが顔が赤くなるということも、今日初めて知りました。


 でも私、えらい!

 ちゃんと貞操を守りましたよ。

 夢が初めてなんて、洒落にならないでしょ。

 いやそれよりも、ああいうことやこういうことを文章では嫌というほど知っていても本当はさっぱり分からないから、その辺り夢ではどうなるんだろう。

 もやもや?


 夢の中で涙を使い果たした分だけ、瞳子は躁状態になっていた。


 ふっふっふ。


 本当に格好よかったなあ。

 美形を間近で見る機会なんて、夢の中くらいだもん。

 もうちょっと堪能してもよかったかな?


 

 朝起きて、昨夜のことが夢だとわかったときの安堵感はものすごかった。

 足元に木刀があったのにはさすがにおかしいなと思ったけれど、でも折れているわけじゃないし。

 化粧も落とさずお風呂も入ることもせずそのままソファに倒れ込むから、変な夢ばっかりみるようになったんだね、きっと。


 熱いシャワーを浴びながら、納得いく結論を探しだした瞳子なのでした。

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