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ラブロマンスはほどほどに  作者: れんじょう
ラブほど。おまけ
43/44

附録 『こんぺいとうは秘密のお菓子』

千紗目線、それとも深雷目線かな?

 手のひらに一粒、ぽとんと菓子が落とされた。


 甘い甘い一粒の金平糖にもにたとげのある菓子。


 チョコレート色のそれは、丹念に魔力を練って作った魔法の菓子。


 それを舌にのせてゆっくりと転がして味わう。



 

 『千紗。愛している』




 魔力で練った甘い菓子は、その練られた時の気持ちを映しこむ。


 

 『千紗』『千紗』『千紗』



 ひと舐めごとに、ライが呟く。

 舌を通して直接響く、ライの声。


 

 ふつり



 舌の上で全てとけてしまった菓子の、残った甘味を最後までゆっくりと味わった。


 もうライの声は聞こえないけれど。




 

 「ライ……」


 この前ライがこちら側に来たときに携帯電話のカメラで撮った写真が、千紗にとって唯一の慰めになっている。

 リエンという異世界の国の国王という立場では、そう何度もこちら側に渡って自分に会いに来てくれるなんてことは望めないのもわかっている。

 

 どうしてこんなにライが好きなんだろう。

 どうしてこんなにライを想って泣きたくなるのだろう。


 瞳子や黒綺ほど、濃密な時を過ごしたわけでもなんでもないのに、どうしてこんなにライを好きになってしまったのか。

 人を愛してしまうっていうことは、案外簡単なものなのかもしれない。


 「はぁふ」


 いつまで考えていても仕方がない。

 菓子に慰めを求めるのも、本当は止めたほうがいいのかもしれない。


 次にライが来たときに、もう菓子を持ってきてもらうのはやめよう。


 携帯電話を畳んでソファにごろんと転がると、千紗はライの姿を思い浮かべた。

 黒壇色のつやのある美しい長い髪と、同じ色の、けれども透明度のある不思議な瞳。

 黒綺と顔立ちが似ているせいか、声も黒綺とよく似て低く響く声だけれど、黒綺のそれよりは少しだけ高めに抑揚をつける、大好きな声。

 あの声であの顔であの眼差しが、私を虜にする。ライなしではいられないように、私を捉える。


 「千紗」


 やだ。幻聴まで聞こえてきたのかしら。

 やはりあの菓子はもうやめないと。


 「千紗」


 あああ。ほんっともう駄目。自分が情けなくなる。


 顔をうずもれさせていたクッションから、ちらっとガラス戸に目をやって、自分の妄想からおさらばしようと企んだ千紗だったが、顔を上げた瞬間に真っ赤になった顔をもう一度盛大にクッションへとダイブさせた。


 「千紗」


 みしっ


 ソファが沈む。

 ほのかに温かい体温が、密着した身体から伝わってくる。


 「千紗。淋しかった」


 そういって、ライは私の体を背後から抱きしめた。

 首筋に当たるライの熱い吐息と唇が、甘く身体に沁み込んでいく。

 剣胼胝(けんだこ)のある血管の浮き出た男らしいごつごつした手が、私の身体を弄っていく。


 「あっ……」

 

 口に受けるよりも早く、身体のあちこちにキスを落としていく。

 

 「ああ。いい匂いだ」

 

 いつの間にか上着をずり上げたライは、私の肌から直接匂いを吸い込んでつぶやいた。


 「ライっ!」

 「ん?どうした?」


 背中に顔を密着しているせいで、ライが笑っているのがよくわかる。


 「猫じゃないんだから。いきなりそういうの、やめてよね?」

 「いきなりじゃないと、面白くないだろう?」

 「面白いとか面白くないとか。そいういの、ほんっとやだ」


 嬉しいのか恥ずかしいのか、自分ではもうわからない。

 ただ、背中の温もりだけが、今の自分にはとても大事なことがわかってる。


 「ライ……」

 「なんだ?」

 「……なんでもない」

 「千紗は私に会えてうれしくないのか?」


 なんてことを言うの?

 嬉しいに決まってるでしょっ!?

 でもできたらこんぺいとうを食べる前だったらこんなに激的に恥ずかしくはなかったのに。

 っていうか、こんぺいとう、無駄にした感ありありなんですけどー?


 「あーあ、もったいないおばけがでてくるわ」

 「……それはいったいどういう意味だ?」

 「えーっと?まったくライには関係ないから」

 「ではそれがどうして今言う必要があるんだ?」

 「いいのよ?だって私の心の声だし。三段論法だし」


 「言っていることの意味がわからん」と呟きながら、それでもなお千紗を抱く腕の力を強めて、自分という存在を千紗に植え付けようとライはしていた。


 「ライ。時間」

 「うん……もう少しだけでも」

 「後から苦しくなるのは、ライなんだから」

 「そうなんだが、少しでも千紗といたいと願うのは駄目なのか?」

 「それは……私だって……そうなんだけど」


 どうしてライはこういう恥ずかしい台詞をさらっと言えてしまうんだろう。

 たしか瞳子も似たようなことを言っていたけれど、これってリエンの人の特性?

 それとも単に私がこういう言葉を言われ慣れていないせいなのか。


 「ほら。時間だって」


 そういうとさすがにライも諦めたようで、ため息をつきながらもくるっと私を自分のほうに向かせて抱きしめた。


 馬鹿。

 こういうときにこそ、キス、してよ。


 なんで身体にはしてくるくせに、顔に限ってしようとしないのか。

 それこそ「やってることの意味がわからん」、でしょうに。


 「深雷さーん?そろそろやばいですよー?」


 ちゅっ


 悔しいから自分からくちづけをした。

 それも猫にするように、軽くするやつで。

 そうするとなぜかいつも口を拳で塞ぎながら顔を真っ赤にして後ずさるライ。

 面白すぎだわ。

 

 ライはそのまま後ずさり、それでも惜しむように千紗を見て、リエンに通じるガラス戸に手を入れ込んだ。


 「千紗、また」

 「またね」


 にゅるり


 そうしてまた、静かな時間が千紗に戻ってきた。


 ほろほろほろ


 気がつくと、千紗は涙を流していた。

 いつもこうやって、突然来て帰っていくライ。

 会えたひとときは、至福のひととき。だけど、そのあとに必ず訪れる淋しさが、私の心を蝕んでいく。

 

 ほろほろほろ


 もう駄目かもしれない。

 やはりファンタジーは小説の中だけにしておけばよかった。

 自分の身に降りかかってくるなんて、誰が思うの?

 瞳子の時は、それでも自分ではなかったから応援もできた。

 けれど、いざ自分がその世界の人にこんな気持ちになるなんて。

 会える会えない、なんてものじゃない。

 つながりが見えない。

 違いすぎる世界に、身体が拒否をする。


 千紗はとめどなく流れる涙をそのままにして、これからの自分というものを考えようとしていた。




 にゅるり


 リエンの城の、アオイさまの部屋に姿見に界渡りを終えたばかりのライが酷く憔悴した顔で現れた。

 

 「ライ」


 誰もいないはずの部屋の片隅に置かれていた椅子に座っていた黒綺が、疲労に苦しむライに声をかける。


 「カイ……どうしてここに?」

 「波動が感じられなくなったからな」


 「千紗のところにでもいっているのだろうと当たりをつけたがそのとおりだったな」と、苦笑をしながら以前の自分とまったく同じことをしている弟を懐かしそうに見ていた。


 「どうする気だ?」

 「何が」

 「もちろん、千紗を、だ」

 「それをカイが言うのか?異世界の義姉上を妻にと願ったカイが」

 「そうだ。だからこそ、お前に問う。瞳子は本当に偶然だが、こちらの世界の血族でもあった。けれど千紗は違う。お前も千紗が瞳子の家に渡ったときにどんなに苦しんだか見ていたはずだ。千紗がこの世界に馴染むにはそれ相当の苦しみがついてくる。もしかしたら慣れるということすら無理かもしれない。それでもお前は千紗をと願うのか?」

 「……」

 「それにお前は国王だ。……投げ捨てることはできないぞ?」

 「わかっている。もちろん投げ捨てることなど考えたことはない。……けれど、けれどでは、私には自由がないのか?好きな女を娶ることもできないのか?」

 「そんなことはいっていない。ただ、千紗の場合は難しいといっているだけだ」


 お前はそれを分かって千紗のところへと渡るのか?


 黒綺は目線でライに問うた。


 好ましく思うから、魔力が溜まるごとに千紗に会いに行く。

 好ましく思うから、わずかな時間しか会えなくても、あちら側に渡る。

 国王ではなく自分という存在を感じさせてくれる、千紗という人間。

 千紗の前だと国王という作られた自分を脱ぎすてることができるから、渡るのだ。


 思い抱いて、力強く見返してくるライを、黒綺はただじっと見つめていた。


瞳子基準でいくと、黒綺は上、千紗は同い年、でもライは……?なんですよねー。

まあ、ライ君は実は若造さんだということで。

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