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ラブロマンスはほどほどに  作者: れんじょう
ラブロマンスはほどほどに
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自主製作 第二十二話

 玄関からダイレクトに千紗の声がした。


 鍵をどうやって開けたかわからないけれど、この際そんなことは置いておく。


 「千紗?! こっちに来て手伝って!」

 「じゃあ、お邪魔しまーっす」


 緊迫感ゼロの千紗の声に脱力しそうになりながらも、瞳子は界渡りしようとする黒綺を逃すまいと抱きしめる。


 「瞳子? なんのコスプレ?!」

 「いいから早く手伝って!」


 千紗が驚くのもわかるけれど、それより状況把握してくれっ!


 珍しく物分かりが悪い千紗に、焦っている瞳子はちょっとキレそうになりながら、それでも加勢してもらえると信じていたので黒綺を抱きしめる力をさらに強めた。


 「わかってますよー?」


 そう言いながらなにやらごそごそとバッグをあさる音が聞こえたかと思うと、力いっぱい瞳子の背中を押した。


 「ぶほっ?!」


 黒綺の背中に思いっきり顔をつけて、そのまま反動でガラス戸にのめっていく。

 


 にゅるり



 そうして三人はなだれ込むように向こう側に落ちていった。





 どたどたどたたっ


 いつもなら扉の向こうに行くような、普通に足が地面につく状態なのに、今回は千紗に背中を押されてこけたように渡ったためにサッシ枠につんのめってしまったようで折り重なるようにこけてしまった。


 「っったあっ!」

 「ん? そんなには痛くないわよ?」

 「そりゃあ千紗は一番上だからでしょ!」

 「まあそうともいいますわね?」


 おほほほほ。


 なぜか瞳子の背中の上に座っていた千紗が、相変わらずの三角なしっぽをちらちらとさせて高らかに笑っていた。


 「……っぐっ」

 

 自身の身体の細さと瞳子の身体と重量のある衣裳に押しつぶされた黒綺が、呻いてもがいて苦しんでいた。


 「うわっ! 黒綺、ごめん!」

 

 慌てて黒綺の身体から降りたけれど、黒綺はぱったりと突っ伏していた。


 「これは相当ダメージをくらいましたわねー」

 「うっ」


 それはいったい誰のせいですかっ!?

 

 突っ込みたくなる言葉を飲み込んで、おそるおそる「大丈夫?」と声をかけてみた。

 するとしぼんでいた肺に急に空気が入ったようではぁはぁと息を荒げて生気を取り戻したようで、片手を翳して『待て』とジェスチャーを入れていた。


 苦しそうかも……じゃなくて、苦しいよね。

 私と千紗がのっかった上にこの衣裳と飾りだもんね。

 確実に十キロは重いし。


 「瞳子ってば、その髪は地毛? すごい色になってるよー? コスプレするにしてもそこまで追求しなくてもいいよー?」

 「いやこれは……話せば長くなりますが」

 「げ? 瞳の色っ! てか、その肌なにーーーっ?!」


 「ひゃあああ。 気持ちいいほどひっつくよー?」と歓声を上げながら瞳子のほっぺたをぺちぺちと手で叩いていた千紗だったが、「リエンに行くって、こんなに見た目もファンタジーになるの?」とちょっと首をかしげていた。


 「えーっと。 それはなんともわかりません」

 「ごぶっ。 それは……ぐっ……アオイさ……まの血……筋だから……だ」

 「……なにそれ。 そこまでファンタジーしちゃってんの?」


 もしかして千紗はもう飲み込んだ?

 さすが巨匠。

 爆読みしているだけ、ありますね。


 「それって、瞳子がリエン出身の人の家族ってことなんでしょ?」

 「そうだ」


 黒綺がいつの間にか胡坐をかいて二人のやり取りを見ていたが、それでもまだ少し息が上がっている。


 そんなに重くないと思うんだけどなぁ。

 不意打ちだったからかな。

 うん、そういうことにしておこう。


 「でもそれとこれは関係ないでしょ? リエンの人間が血筋にいるとしても、どうして瞳子の姿がかわらなければいけないわけ?」

 「それは、仮定でしか話せないが、アオイさまが瞳子に術を掛けていた形跡がある。 たぶん姿かえの術で瞳子をこちらに相応しい姿にしていたんだと思われるんだが」

 「ふーん? じゃあその逆もあり、ということね」

 

 そっか。

 千紗の言う通り、逆っていうのもあるんだよね?

 私の瞳や髪の色が変わったのはリエンに入った直後だから、リエンにはいったから元の色に戻ったと思っていたけれど、そうじゃなくてリエンに入ったからおじいちゃんの血族だとすぐ分かるように術が掛けられた、ということも考えられるわけで。

 でもほんと、さすが千紗。

 ファンタジー街道まっしぐらなだけあって、私じゃ考え付かないことをあっさりと思いつく。


 「いや……それはないだろう」

 「え? なんで?」

 「こちら側の瞳子の姿は、リエンにあってもおかしくはなかった。 茶色の瞳、黒い髪など、私とライを見てもわかるようにいくらでもいる、ごく一般的な色だ。 けれどアオイさまの色は違う。 銀色の髪に紫紺の瞳を併せ持つのは知る限りアオイさまの家系でないと産まれない。 リエンに馴染むようにというならば別段こちら側の瞳子の色でも問題は一切ない。 それをわざわざリエンに入ったとたんかかるような術を掛けてどうする。必要性を感じえないが?」

 「たしかにね。 でもアオイっていう人の家系ということをリエンで強調したければ、瞳子本来の姿ではなくアオイさんの家系色に染め上げれば簡単だってことも考えられるでしょうに」


 黒綺って意外と自分に都合のいい方向でしか物事を考えられないの? ついと冷めた目線で黒綺を見ていた千紗だったが、瞳子の不安そうなしぐさにちょっとやり過ぎたかと思いなおしてみた。


 「あのね、千紗。 私の姿はこの際どうでもいんだけど、ただ、髪は鬘かマニキュアでなんとかなるとして、瞳はカラコンでごまかすしかないと思うんだ。」

 「……ああ、そうだわね?」

 「悪いけれど、仕入れてきてくれる? この恰好じゃ身動きとれないし」


 ちょっとその間に黒綺と話し合わなければならないしなんて千紗には口が裂けても言えないし。

 「修羅場ってるー?」なんていって入ってきたくらいだから、絶対後からいろいろネタにされるに決まってる。

 それを少しでも回避したいなんて思うのは人情っていうものです。


 「瞳子。それは千紗には酷だろう」


 床に伏せてしまったためについた埃を払いながら、ゆっくりと瞳子を振り返ってたしなめた。


 「千紗は向こう側の人間だろう? いくら魔法具を付けているからといって何度も続けて界渡りなどできないぞ。 実際、口は相変わらずよく回るようだが、顔色が優れないだろう」

 「大丈夫よ? インターバルをおけば問題ないんでしょ?」

 「たしかにそうだが、その時間がどれほど必要かはその人によって異なる。 千紗がどれだけ時間を置いて渡ることができるかというのは全くもって分からないからな」

 「うー」


 派手な形をできたらご近所様に知らしめたくはない、けれど派手な形を消そうとすると必要なものは沢山いって。

 

 どうやって明日の出社までに普通の格好にできるのか、思い悩む瞳子だった。

 

 

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