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ラブロマンスはほどほどに  作者: れんじょう
ラブロマンスはほどほどに
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自主製作 第二十一話

 ちょっとまったぁーーーーっ!


 まるで某リトル○ールドでどこぞの国の民族衣装を着てにこやかに写真を取っているそのままの姿 (もしくはコスプレ)で、心の中は唖然茫然としていた。


 ってことはなんですか?

 私の心の王子様は、黒綺ってことですよね?

 んで、私のロマンス好きの責任も、黒綺ってことですよね?


 ロマンスじゃなくて、ファンタジーじゃんっ!!

 千紗みたく、ファンタジーを爆読みしてたら今頃このわけわからん対処方法をかなりの確率でしっていたんだろうけ・ど・もっ!

 こんな状態、どうしたらいいんですかぁーっ!!


 突っ込み所をかなり間違っている瞳子だった。


 「アオイさまの魔力の色が強すぎて、波動が完全に消えるまで正確にはわからないんだが、瞳子にはかなり強力な魔力があると今の時点でも感じるぞ?」

 「そうだな。 私も同意見だ」


 なんか目の前に立つ二人が聞き捨てならない話をし始めました。

 誰に何があるってか?

 私に魔力があるってか?

 そんなわけないでしょーがっ!


 「なーにいってんの? そんなのあるわけないでしょ? 一般人ですよ、一般人」

 「義姉上は、カイの半神という時点で一般人とはほど遠いぞ?」

 「たしかにな。 それにアオイさまの血筋だから魔力があってもおかしくはない」


 血……血筋って!?

 そんなこと関係ないでしょー?!


 ウルウルとした瞳で二人に訴えても、瞳子を見ることもなく二人で何やら相談事を始めてしまって、結局『瞳子に魔力あり』なんていう恐ろしい話がどんどんと進んでいく。


 いや……ね? もうね、いいですよ。

 どんとこいですよ。

 だって、瞳も髪の色も肌すら変わったしね。

 この上魔力が追加されても、もうなんでもこいですよ。


 がっくりと肩が落として、一人ごちる瞳子だった。

 

 頭の上で今後の瞳子の身の振り方が決定されて行く中、なんとか気持ちを落ち着かせて、ライと話をしている黒綺をちらりと盗み見る。


 王子様、なんだよね。

 あの男の子、なんだよね。

 おじいちゃんが亡くなったときにぶっきらぼうに手を添えてくれた、男の子。

 たった一瞬の出来事をずっとずっと忘れることができずにいた、そのくらい強烈な印象の男の子。


 ―――――黒綺だったんだ。


 そう思うと、さっきまでの不貞腐れていた自分はどこへやら、想いが溢れてきて、へにゃんとなってしまう。

 黒綺の横顔を見るだけで、すぐ近くにいるっていうだけで、顔がほころんでくる。


 もちろん、そうじゃなくても会えなかった時間に黒綺を求めていたことは自覚している。

 けれど自分がどうしてロマンス小説を好きになったか、どうして最後には王子様と幸せになりたかったのかということを思い出すと、その王子様が目の前にいるという事実が瞳子の気持ちにさらなる火をつけた。


 急に押し黙った瞳子を不信に思ってライが瞳子に目を向けると、思わずくすりと笑いをもらした。


 「義姉上……面白い顔だな」

 「へ?」

 「顔がゆるみ過ぎているぞ?」

 「げ?」


 ぎゃあああっ!

 顔に出ていましたか!?

 そんなつもりは毛頭ありませんでしたけれどもっ!


 「瞳子。 部屋に戻ろうか」


 瞳子の緩み過ぎた顔を嬉しそうに見ていた黒綺が、他の誰にもそんな顔を見せるなとばかりライの目線上にわざと身体をずらし、締りのない顔の瞳子をライに見せないようにした。


 「うん……あ、でも」

 「どうした」

 「界渡りって、結構魔力消耗するんだよね?」

 「? たしかにそうだが」

 「黒綺。 魔力、ある?」

 「それは……、もちろん界渡りするくらいはあるが」


 「じゃあ、私の世界に連れてって」


 その言葉を聞いたときの黒綺の衝動は大きかった。

 苦痛にゆがんだ顔、考えこみ過ぎたように眉間にしわを寄せた顔、まるで百面相を見ているようにコロコロと表情が変わって、けれど何か言いたげに瞳子を見つめていたが、結局は自分を納得させたかのように一息ついて頷いた。


 「義姉上?!」


 あまりにもあっさりとリエンに渡ることを了承すると思ったら、まさかカイを引っ張り出したとたんに帰ると言い出すとは……!

 

 瞳子の考えについていけず、また黒綺の嬉しそうだった顔が一瞬にして落胆したことに、ライはやはり黒綺の拒絶した一ヶ月は瞳子が関わっていると確信した。

 

 憔悴した黒綺と憤懣やるかたないライを見てきょとんとした瞳子だったが、それよりも早く家に戻りたいという気持ちが強くて、黒綺に界渡りを急かしてしまう。


 「えと? 今から行ける?」

 「あ……ああ。 大丈夫だ」

 「そう! ありがと」


 晴れやかに笑った瞳子の手を取ってそのまま姿見の前に立つ黒綺を、ライは申し訳なさそうに見送っていた。



 にゅるり


 

 いつものように水溶き片栗粉の中に身体を入れたような、不快な感覚が全身を覆う。

 けれどそれも一瞬あるかないかで、すぐに何とも思わなくなっていた。


 あれ?

 なんで?


 黒綺は瞳子を見ることもなく、そのまま寝室を抜けて居間にある姿見まですたすたと歩いていく。


 「瞳子。 このまま瞳子の部屋まで渡るぞ」

 「あ。 ……うん。 お願い」


 

 にゅるり



 二度目の界渡りは、それでも瞳子の身体に何一つ負担を強いることなく終わった。


 ルルルルルルルル♪


 家の電話が部屋に鳴り響く。

 ディスプレイ表示で相手が千紗だとわかると、飛びつくように受話器を取った。


 「……もしもしっ?!」

 『あ! やっとでたか。 ……おかえり、瞳子』

 「あはは。 ただいま、千紗。 こっち来れる?」


 家の壁時計で時間を確認しながら、千紗が瞳子の家にこれるかどうかチェックする。


 『ん~。 実は家の前』


 ピンポーン♪


 千紗の返事と同じタイミングで、チャイムが鳴った。


 「黒綺? 千紗がきたの。 玄関に……黒綺?!」


 自分のご大層な格好ではさすがに千紗がひくだろうからと黒綺に迎えを頼もうとしたら、黒綺がガラス戸の前で界渡りをしようとしている姿が目に飛び込んだ。


 「ちょ……っ! 黒綺、どこにいくの?!」

 「もう私は必要ないだろう?」

 

 黒綺の憂いを含んだ瞳をみて、何かがおかしいと感じた瞳子は、黒綺の裾を引っ張って界渡りをしようするのを防ごうとしたが上手くいかない。


 「えっ?! …ちがう! 違う、黒綺!! ちょっとまって!」

 「もう待つのは遠慮する」


 ライに頼まれでもしてリエンに界渡りしたのだろうが、リエンは瞳子が生きる世界ではない。

 ここが、瞳子の生きる世界。

 その世界に帰りたいといったのは、瞳子自身なのに。

 どうしてまだ私をとどめようとするのか?


 不思議に思った黒綺だったが、もう『待つ』という行為には飽き飽きし、自分の女々しさにうんざりしていたので、ここでもうその想いを断ち切ろうとしていた。


 「お願い! ……どうしてわかってくれないの?!」

 

 こんなに黒綺を必要としているのがどうして分かってもらえないのか。

 どうして急に『必要ない』というのか。

 瞳子には全く理解できなかった。


 「えーっと。 もしかして、修羅場ってるー?」


 その時、玄関のドアからこっそりと探るように千紗が顔を出した。

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