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ラブロマンスはほどほどに  作者: れんじょう
ラブロマンスはほどほどに
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自主製作 第十四話

 『素晴らしい自然が残るニュージーランド北島の小さな田舎町で、私はひっそりと暮らしている。 以前なら華麗で享楽的な生活とパパラッチに追われる毎日で、その日々に決別できたのはこの顔の醜悪な傷のおかげ。 私を愛していると嘯いて心と体と顔に怪我を負わせながらその場から逃げ去ったあの許せない男。 この田舎の大自然の中でニュージーランドの心やさしい人たちのおかげで体も心も癒えていくけれど、顔の傷だけは隠すことができない。 そのためにトレードマークだった、さらさらと流れる美しいストレートな長い金髪を傷を隠すために緩くウェーブを掛け、その上イメージチェンジをするために黒く染め、出かけるときには大きなサングラスを必ず付けた。 やっと何とか気持ちに落ち着きを取り戻したとき、街の入り口にあの男が……! 遠慮ということを知らないあの男は私を上から下まで値踏みするように眺めまわし、厚かましくも声をかけてきた……! 事故当時ならいざ知らず、あの場からいなくなり三年も経った今になってどうして私の前に現れるの!?』



 史上最低な男だなっ!

 愛してるっていっておきながら、さよならもいわないなんてっ!!

 でも、途中で絶対最低最悪な男が実はそうではなくいい人で主人公のことを思い続けていた……なんて結末なんだよねー。

 いいなあ、ほんと。


 ……わたしには、きっとないことだから。


 途中までしか読んでいない小説をテーブルの上に放り投げて、瞳子は背もたれにしていたクッションを抱きかかえた。

 

 泣くもんか。 絶対泣くもんか。

 黒綺を想ってなんて、絶対泣かないから!


 けれども瞳子のその大きな瞳からは、ぼろぼろと大粒の涙が頬を伝って落ちていた。





 あの日。

 向こう側から帰ってきたあの日を境に、黒綺はガラス戸から現れることはなかった。

 

 翌日は黒綺の体調を慮って、こちら側には来ないだろうと思っていた。

 その翌日も、黒綺の体調と魔力がどの程度の割合で回復するのかどうか分からなかったから、回復が遅れてこちら側に来れないのだろうと思っていた。

 一週間後も、十日後も、まだ黒綺の魔力が回復していないのだろうと思うことができた。

 千紗もそのころはまだ「黒綺はまだ魔力が戻らないのかな~?」と何回か瞳子に尋ねる余裕があった。


 けれどそれが一ヶ月経ち、日にちを重ねていっても黒綺がこちら側に現れる気配を感じることができない。

 それまでは毎日仕事から帰ってきて黒綺が来ることを今か今かと待ち続け、ガラス戸をずっとずっと見続けて待ちわびた瞳子だったが、期待が大きい分だけ、あれだけ黒綺と触れ合った時間があっただけに、時間が経つにつれ酷く落胆して陰鬱な気持ちになる。

 ここ最近はベッドで寝ることなく、黒綺がこちら側に来ることを願ってずっとソファの上で待ち付かれて寝ついていた。

 

 そうして、瞳子はあきらめたのだ。

 

 メールというものがあるわけでもない、電話というものがあるわけでもない、もちろん手紙のやり取りができるわけでもない、そんな異世界の人と付き合うということに疲れてしまったのだ。


 「半神」っていっていたのに、私だけだと何度も言っていたのに……うそつき。


 それは黒綺が来なくなった日数が黒綺という存在を知った日数になった日だった。


 

 それからの瞳子は、黒綺を知る以前の自分になろうと日々精進した。

 精進といういい方はおかしいのかもしれない。

 けれど瞳子はそういう気持ちで日々を過ごしていたのだ。


 仕事は相変わらず課長の尻拭いのために残業に次ぐ残業で、毎日深夜近くに帰宅していたし、千紗との定期的なランチを取っても、以前みたいに小説ネタで話がはずむこともなく淀んだ空気が二人の間に漂っていた。

 家に帰れば、以前にもまして古書店でロマンス小説を手当たり次第に買いあさり、それを以前よりもハイペースで読みあさった。 それもだんだんとロマンス小説を読むというよりもその小説をこき下ろすように辛らつな感想しか感じなくなっていく。


 殺伐とした雰囲気をまとい始めてしまった瞳子だった。


 なので余計に『精進』という気持ちになって、『楽しまなくちゃ』という気持ちだけが先行して空回りしているような状態になっていく。


 そんな瞳子を見て、千紗は怒りに怒りまくっていた。

 もちろん、瞳子に怒っているのではない。

 瞳子をもてあそんだ黒綺に対して怒りまくっていたのだ。


 ――――――もしも……もしも『今度』という機会があったのなら、絶対あの大馬鹿男をのしてやる!


 そう心に誓っている千紗だったが、瞳子の憔悴しきった顔をみると瞳子のそばにいてあげてほしいとも願ってしまう。


 瞳子ができないのなら私なんてもっとできないんだろうけれど、何とか黒綺かライに連絡がとれないものかしら。


 ファンタジー好きの千紗だが、もちろんリエンという国を知るわけでもなく、小説の上の魔法は得意でも本当にできるわけでもなんでもないただの人だから、思っていてもできるわけもなく……。

 日に日に虚ろな瞳になっていく瞳子にただ黙って横にいてやることしかできない日々を送っていた。


 

 そんなある日、瞳子と千紗が二人でいつものようにランチに行こうと会社を一歩でたときのことだった。


 目の前に黒綺の首輪をした黒檀色の猫が二人を待っていたかのように座っていたのである。

 

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