表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラブロマンスはほどほどに  作者: れんじょう
ラブロマンスはほどほどに
3/44

一冊目 第三話

 『黒い巻き毛がくるくるとかわいらしい、私の大切な天使。 瞳の色も顔立ちもすべて遠いギリシアにいるあの人にそっくり。 けれどぜったいこの子のことはあの人でなしから隠さなければ。 貧しいけれどつつましくやっていれば二人でなんとか暮らしていける。 近くには優しい男友達もいるし。 そう思っていた矢先、私の居場所をなぜか探していたあの男が無理やり私たちの生活に押し入ってきて、自分の子供が貧相な暮らしを強いられていると、そして大事な息子の誕生の瞬間や成長を見ることを私が至らないせいで許されなかったと、私を攻め立てる。 無理やりギリシアの島に私たちを連れ帰り、息子にはなんでも与え、私は夜を一緒にできる乳母扱い。 心も体もおかしくなって静養が必要になり息子をあの男に盗られたままイギリスへ。 ギリシアにいる妹の采配であの男はまたイギリスへやってきて、私が必要だとプロポーズした。 馬鹿にして! でも心を入れ替えた男は、私の心に温かい火を灯し、それが燃え上がって愛になった。そして大切な旦那さまと息子と幸せを分かち合って……』





 ……。

 くっ。 またか。


 昨日のななめ読みしたロマンス小説。 半分くらいでうんざりして読み辞めてしまったけれど今日こそは読み終えようとローテーブルの上から取り上げて読み始めたのは、仕事帰りでいつものように倒れるように家に帰ってきて、めずらしくホームウェアに着替えてからだった。


 だって……ねえ?

 昨日の今日ですし。

 まあ、夢であったことなんですけどね。

 自分的にかなり恥ずかしい出来事だったので、会社帰りにユニ○ロによってホームウェアを替え込みで三着も買ってしまいましたよ。 ……無駄買いだなあってわかっていても。


 夢でみた超絶美形のおちゃめな不審者さんは、本の中ではお金持ちにありがち(?)な乙女心もわからない傲慢で我儘で、それでも信頼し合いたいと願う男でした。


 けっして、ちぅをすれ違いざまにしていくような男ではございませんでした。


 起きた時にキスマークになっていた衝撃は凄かった。

 夢の中なのに現実味を帯びていて。


 ……よく考えたら、キスされたところが気になって夜の間に掻いたんだよね、きっと。


 それでも場所が場所だから、ハイネックのシャツを着て隠してみて。

 出勤したときに同僚の子が目ざとく見つけて「めずらしいねえ」と含み笑いをして通りすがって行きました。 


 いやこれは、痒くて掻いただけです。


 そんな言い訳じみた答えをその子は一刀両断で、鼻先で笑ってくださいましたわ。

 でも本当なんだけどなー。 信じてくれっ!


 そんなわけで、会社帰りのユニ○ロとなったわけです、はい。

 「土日なら安いのに」なんてせこいことはこの際申しません。

 自分の安眠のために、きっちり三着、ご購入です。

 ……今月結構ピンチなんだけどね。

 

 さて。

 件の変態さんそっくりの主人公の小説も読破したことですし。

 昨日の夢見も悪いし、今日こそゆっくりお風呂に入ってから寝よう。

 

 一人暮らしのマンションだけどお風呂とトイレは別にある、そこだけは譲れなかった間取りで。 たっぷりのお湯をぜいたくに張って、ゆったりを身を沈めた。




 **********




 コンコンコン


 まるで昨日の夢と一緒の場面。

 ガラスサッシを叩く音。


 コンコンコン


 「瞳子」


 ―――――まさか。


 コンコンコン


 「瞳子。 いるのだろう」


 ぎゃあああああぁぁぁっ!

 昨日の変態だ!

 

 あれか? 私はまたお風呂の中で眠りこけて、夢をみているのか?

 きっとそうだ! これは夢だ!


 ぶくぶくぶく


 湯船の中で頭を沈めて、ひたすら夢が覚めることを祈ってた。


 「瞳子?! 悲鳴が聞こえたぞ!? 大丈夫か! ……失礼する!!」


 ふぎゃああっ!

 またあの超絶美形の変態さんが、奇術使って入ってきた?!


 ぶくぶくぶく


 ここにはいませんよー。

 ここを覗かないでねー。


 部屋を歩き回る音がする。

 でも八畳あるかないかの部屋を探しまわっても何も出ないと思う。


 がちゃ ばん(これはリビングのドアの音だな)

 がちゃ ばん(これは隣のトイレのドア)

 がちゃ


 「瞳子?!」


 ……発見されたようです。


 ざぱあっ


 太いと気にしている二の腕をごつごつした手が掴んで、湯船から引き上げられました。

 ……まっぱです。でも死んだふり。

 

 「瞳子! 大丈夫か? 意識はあるか?」


 ぺちぺちと頬を叩かれて、思わずぎろって睨んでしまいました……不覚。


 「よかった。 何ともなさそうで」


 明らかにほっとした表情で濡れるのも厭わず私を抱きあげ、部屋のソファまで運んだ。

 いっておきます。 まっぱです。


 かーっと熱くなる身体。 耳まで真っ赤になるのは、女として当然でしょう。

 まあそれが自業自得だとはいえ。


 変態さんはその間にもう一度風呂場に行き、バスタオルを持ってきてくれました。


 あれ?

 持ってきてくれる、だけでいいよ?

 どうして拭くのかな?


 「……やめて。」

 「あんな狭いところで溺れていたくせに、何を言う? ほら、落ち着いて。 風邪をひかない様に拭いてやるから」

 「うそなの。 だからやめて」


 そういってタオルをぶんどって自分の体に巻きつけた。

 あれ?これも昨日と一緒では?

 

 「うそ? うそとはどういうことだ?」


 急に元気になった私をみて、変態な不審者さんが格好良すぎるその顔をにめいっぱい皺を寄せて詰め寄ってきた。


 う。

 おかしい。

 夢なのにリアルすぎる。


 「えっと。 ほら。 びっくりして」

 「驚いたら、溺れるのか?」

 「え? いやそうじゃなくて。 まさかまた現れると思わなかったから……隠れようとして……」

 「どうして隠れるんだ?」


 不思議そうに問い詰める、変態な彼。

 ……いい加減、「変態」さん扱いも疲れたぞ?


 「ねえ? 名前、なんていうの?」

 「この状態で尋ねることか?」

 「ううん。 でも教えて」

 「……お前が名付けてくれたんだろう?」


 え? 

 人様に名前を付けるなんて恐れ多いこと、やったことなんてございません。

 だいたい、こんな濃い顔のひとなんて26年の人生の中で一度もないわ!


 「本当に覚えていないのか?」


 昨日の夢と同じパターン?

 でも本当に覚えてないっていうか、してないし。


 「そうか。 では、これでは?」


 ソファの前に跪いて、私の手を取り、そして口元まで持っていく。

 私を真正面から見据えて、私の反応を楽しむようにひとつひとつの動きをことさらゆっくりとして、口元まで持っていった手を舐めた。


 へ? 「舐めた」?


 舐められましたけど!!








 




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ