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ラブロマンスはほどほどに  作者: れんじょう
ラブロマンスはほどほどに
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自主製作 第十二話

 ジュージューとベーコンの焼ける音と、パーコレーターのこぽこぽとドリップする音。

 肉の焼ける匂いと珈琲の香りが部屋中に広がっていく。


 誰かのために食事を用意するっていうのは本当に幸せなんだなって思う。

 美味しそうに食べてくれる人がいるから、美味しいものを作ろうっていう気持ちになる。


 サラダを盛った皿にカリカリに焼けたベーコンを添えて、次に卵をサニーサイドアップに焼き上げる。

 これにバターをたっぷりと塗ったフランスパンを出せば、黒綺(こっき)が食べたいと言っていたメニューになる。

 これでミルクとオレンジジュースを添えれば、それこそロマンス小説ならこと(・・)をなした後に男がベッドまでトレイを運んできて女に差し出す朝食になるなあ。


 ロマンス小説かあ。

 黒綺と知り合ってから、なんかあんまり読む気が失せたような気がするなあ。


 自分の家に戻ってきたことと食事を作るといういつもの生活をしているという安心感からか、ここ何日か頭の片隅にも思い出さなかったロマンス小説のことを考える余裕がでてきた瞳子だった。


 「瞳子」

 「はいはーい。 今持ってくね!」


 黒綺は珈琲をあまり飲んだことがないから、ミルクたっぷりに入れて。

 千紗は……あとからベッドを見てみよう。


 

 千紗は、瞳子が無事なことを確かめたら、そのまま床に崩れるように倒れ込んだのだ。


 会社では上司から嫌みたっぷり聞かされる羽目になり、千紗自身は瞳子の身の心配をして何度も何度も携帯に連絡したのに繋がらずで。

 とうとう耐えきれなくなって会社が終わった後にマンションの大家さんに連絡を入れて無理やり鍵をあけてもらったのだそうだ。

 どうやって鍵を開けてもらったかは鍵型の尻尾がある千紗のことだからあえて聞かないでおいた。

 それが身のためっていうものです。


 倒れ込んだ千紗を黒綺に頼んでベッドに運んでもらったのは30分ほど前。

 憔悴している千紗は、そのままぐっすりと寝てしまった。


 ――――――ごめん。本当にごめんね、千紗。


 疲れ切った千紗の表情の中に唯一口元に笑みが見てとれて、少しだけ安心した瞳子はスタンドライトを消して少しでも疲れた身体が休めるようにと願った。 


 

 「あまり量が作れなかったけど、どうぞ」

 「ありがとう。 美味しそうだ」


 嬉しそうに笑い、美味しそうに頬張る黒綺に、瞳子は温かいものを感じ始めていた。


 「これは……燻製の肉になにか匂いが付いていて、美味しいな!」

 「黒綺って、実はグルメ? このベーコンは桜チップで燻製したものだからいい香りがするでしょ」

 「桜チップ?」

 「そう。 香りのある木で薫製すると香りが肉に移るからね。 これは『桜』という木で燻製していたものなの」

 「リエンでも同じようにできればいいんだが……」


 単純な会話をしているだけなのになぜか頬が緩んでしまう自分がどこかおかしいのかと思い始めたころ、なぜか黒綺がそわそわし始めた。


 「どうしたの?」

 「……時間だ」


 瞳子の世界では黒綺は魔力を消費していく。

 それも本来の姿であればある程、なぜか魔力を放出していうのだという。


 だから以前は猫の姿になって一日中この世界を散歩していたらしい。


 怪我をするきっかけとなった事柄で魔力のほとんどを使いきった黒綺だったから、この世界に来てしばらくいてるだけの魔力を回復させただけでも驚異的で。

 半神(私らしい)にずっと触れることで魔力と気力を回復させた結果だから当然といえば当然なんだけど。

 

 「うん。 じゃあこれ、もったいないから向こう側で食べて? 包むから」

 「……瞳子」


 瞳子は自分が今どん風に黒綺から見えるか全然理解していなかった。

 料理を作っていた時は満たされたように微笑んでいたし、食事をとっているときも自分は食べないからと頬杖をついて始終にこにことしていたその顔が、『時間だ』といった黒綺のたった一言で一瞬にして崩れ、つらそうな顔を伏せて目線を合わさないようにしてしまっている。


 ―――――瞳子のさびしそうな後姿をそのまま抱きしめてやれたら。

 不安に感じることなど何もないと言ってあげることができるのならば。


 自分の魔力がここまで微弱になったことのない黒綺は自分に自信を持つことができなかった。

 瞳子を護ると誓ったあの日以来、それは揺るがない想いだったが、魔力のない自分に戸惑いを隠せず『護る』ことができないのではないかという漠然とした不安が黒綺を強く襲っていた。


 

 キッチンでは瞳子が残った食材を食べやすいようにサンドウィッチにしていた。

 手を動かしていると、黒綺が向こう側に帰るという事実を考えなくてすむという理由で。


 ―――――わかっていた。 わかっていたけど、本当にちょっとの間しかこっち側にいることができないんだな。

 顔色も随分悪くなってきたし。

 ここでまた私が向こう側に行って黒綺を癒されたらと思うけれど、それじゃあこっち側の私の生活が成り立たない。

 黒綺とずっと……ずっと一緒にいたいけど、生活が一変するだろう向こう側に行く勇気がない。


 サンドウィッチを作り終え、風呂敷に包み終えてしまうと、瞳子は黒綺のいるリビングに戻った。

 黒綺の限界が近づいている。

 そのことが分かるほど黒綺の顔色は悪く、すぐに向こう側に行けるようにとガラス戸の前で待っていた。

 瞳子は風呂敷を渡し、傾げるように頭を下げてきた黒綺に両手を広げて抱きついた。

 瞳子の『自分から進んで抱きつく』という今までにない行為を、黒綺は驚きはしたものきつく抱き返して、ゆっくりと試すように口づけをした。 ―――――何度も何度も。


 そしてガラス戸に手を翳し、ゆっくりと向こう側に渡って行った。




 

なぜか食べ物の話ばかりになってしまいました(泣)


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