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ラブロマンスはほどほどに  作者: れんじょう
ラブロマンスはほどほどに
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自主製作 第十話

 「ねえ。 今日も東野(ひがしの)さん、休み?」


 黒ぶち眼鏡の七三分け課長が、ねちねちと千紗に問いかけた。


 「ここのところ、ちょっと彼女おかしいよね? 粥川(かゆかわ)さんは東野さんと仲がよさそうだけれど、何か聞いていない?」

 「いえ。 先週から体調を崩したようで、土日も身体を休めていたのは聞いていますが、他に何かあるとかいうのは……。 どういう意味でしょうか?」

 「いやっ!? 別に、どうっていう意味じゃないんだけど……。 ほら彼女、女の色気出まくってるでしょ。 だから……男でもできたのかなぁって」


 課長のもじもじした手を見て、千紗は悪寒が走った。


 ―――――気持ち悪っ。

 なに? この課長ってば、瞳子をそういう目で見ていたわけ?

 

 「……課長。 今の発言は一体どういう意味ですか?」

 「本当に病気だったらいいんだけどね。 まあ、粥川さんが何も聞いてないのなら、別にいいんだけど」

 「課長のおっしゃる意味がわかりません。 もちろん東野さんは病気ですよ。 ここのところずっと無理しましたから。 それは一緒に残業をしていた課長のほうがご存じなんじゃないですか?」

 「まっ……まあね。 最近仕事の能率が悪いから、遅くまで指導はしていたけどねっ」


 慌てふためる課長を見て朝から不愉快な気分になった千紗は、課長が席を立った瞬間に給湯室に向かって携帯電話を取りだした。

 

 ルルルル ルルルル ルルルル


 朝から何度コールしても全く出る気配がない。

 一人暮らしをしている瞳子だからセキュリティーは万全だとは思うけれど、なにか警察沙汰になっているのか、それとも、本当に病気になって一人で苦しんでいるのか。

 ――――――それとも。

 本当にあのガラス戸の向こうに行ってしまって、帰ってこれなくなっているのか。


 瞳子、お願いだから電話にでて。


 千紗の祈りも虚しく、コール音が給湯室に鳴り響いたのだった。




 **********




 一体今はいつ何だろう?


 まどろみの中で瞳子はうつらうつらと考えていた。


 ここは温かい場所。

 私の気持ちに感応する天候は、黒綺が一度気が付いてからずっと麗らかな春のように柔らかい日差しを屋敷に降り注ぐ。


 黒綺は。


 血をあれほど流したあとなのに、目が覚めるたびに顔色が良くなり、今ではまるで死にそうな怪我を負ったということが嘘のように回復をしている。

 それでもまだ立ちあがると多少のふらつきがあるようで、たまに壁に手をかけて立ち止まることもあるけれど、それでもたった一日前たぶんの出来事をなかったかのように動き回っているのは見ていてはらはらする。


 動いては疲れ、そして私のところに戻ってきて私を抱きしめる。

 そうして力を取り戻し、また動き回る。


 何度か黒綺に『完全に回復してから動いたら?』と注意をしても、黒綺は『することがあるから』といって取り合わない。


 何度も同じことを繰り返し、疲れて私のもとに戻ってくる。

 

 「どうして私に触れるの?」


 そう黒綺に聞いてみると、私の唇や舌が黒綺の傷を癒したように、私に触れると力が(みなぎ)ると教えてくれた。

 それだったら、黒綺が普通の状態に戻るまで、ちゃんと完全に回復するまで私は黒綺のそばにいよう。

 私という存在が黒綺を癒し回復させることができるのなら、会社を黙って休むことも何とも思わなかった。


 

 「瞳子」


 青い顔をした黒綺が、寝室のベッドに戻ってきた。

 そのまま私の腕の中に倒れ込む。

 

 「つかれた?」

 「ああ」


 烏の濡れ羽色した綺麗な黒髪に手を滑らせて、黒綺の疲れが少しでも和らぐようにとゆっくりと撫で付けた。

 黒綺の長いまつげに見入っていると、黒綺が急に大きく目を開けて破顔した。


 「何時までもこうしていたい」


 髪を撫でていた私の手を取って、その手に一つ唇を落とす。

 そしてそのまま指の間に舌を這わせて、一本一本ゆっくりと舌を浮かせながら舐めまわしていく。


 「……っ!」


 黒綺の頭が瞳子の胸に凭れかかっているので、胸のうずきが黒綺にわかってしまったのか、それとも真っ赤になった顔とどくどくと鳴り響く心臓が彼を満足させたのか、今度は空いているもう一方の手を取り自分の指に絡ませて、瞳子の耳元にその絡ませた手を持っていく。

 

 ぞわり


 敏感になった耳に、掠るように手を触れさす。

 

 「……あっ……」

 

 身体をきゅっとちぢ込ませ、吐息をだし半開きになった唇を、黒綺は自分のそれを貪るように重ね合わせた。


 「んっ。 ……んっ…!」

 「瞳子。 お前がほしい」


 「もう待てない」と呟いた黒綺のけぶった瞳を見て、瞳子は自分がいかに黒綺に愛され必要とされているかを実感した。


 「愛している」、そういって繰り返す口づけ。

 

 瞳子は深まる口づけを受けるたびに、「愛している」と囁かれるたびに、泣きたくなった。


 襲おうと思ったら、何時でも機会があったのに。

 お互い裸同然で寝ていた昨日は何もなくて。

 動き回れるようになった今日になって、そんなことをいってくるなんて。


 「……ありがとう」

 「うん? 何がだ?」

 「ううん。 何でもない」


 そういって、自分から初めてキスをした。

 その口づけに応えようと、黒綺が身を乗り出したその時。


 「あのね?」

 「なんだ」

 「私、結婚前に子供は欲しくないのね?」

 「……なにをいきなり……」

 「だから、……しないでねっ!」


 朗らかにそう宣言していたずらっ子のように笑った瞳子は、そそくさとベッドから逃げ出したのだった。


生殺し?

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