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ラブロマンスはほどほどに  作者: れんじょう
ラブロマンスはほどほどに
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自主製作 第八話

 あったかい―――――――――


 ふわふわの真綿にくるまれたような、陽だまりの中でうたた寝したような、そんな暖かさに包まれて、瞳子はゆっくりと目を覚ました。


 あーあ、よく寝たなぁ。

 こんなによく寝れたのは、ひさしぶりかも。


 うーんと伸びをして、身体に気合を入れて起き上がろうとすると、


 ぺた


 伸びた手に、何かがあったった。


 いつもなら伸びをした時点でベッドヘッドの合板に手をしこたま打つのだが、今日はなぜかそんなこともなく。 それどころかせいいっぱいの伸びをしてもどこにも打ちつけない。

 けれど、その手のひらにぺったりとした感触が……。


 おそるおそる目を開けて掛け布団から顔を出すと、目に飛び込んだのは人肌で。


 ――――――――へ? 千紗ったら裸で寝てたっけ?

 まあどうでもいっか。

 さっさと起きて、ご飯作んなきゃ。


 そろりと蒲団を抜け出して朝食を作りにキッチンに行こうとした瞳子が見たものは、珪藻土の美しい壁や雪見障子。 それは黒綺(こっき)が瞳子のために作った家の寝室だった。

 驚いて千紗を起こそうと振り返ると、そこに寝ていたのは千紗などではなく、家の主である黒綺、その人で――――――。


 なんでーーーーーーっ!?


 思わずその場にしゃがみ込んで頭を抱えてしまった。

 その瞬間。

 自分がほとんど裸状態だということに気がついた。


 ぎゃあああああぁぁぁぁっ!!

 なんでなんでなんでーーーーーーっ!!!?


 普段の自分なら、わかる。

 だって会社から帰ってきたらいろんなものを脱ぎすててソファでごろんと横になってロマンス小説三昧なんだから。

 でもっ。

 どうしてこの家で、黒綺の横でショーツ一枚で寝ていたかな、私!


 しばらくそのまましゃがみ込んでいた瞳子だったが、いつまでも現実逃避はよくないと、昨日の自分の行動を朝起きた時点から思い出そうと努力を始めた。


 あ。

 千紗がうちに泊まったのは昨日のことで、朝食……つくったよね。

 二人で一緒に出社するなんてないことだから、電車の中での会話が新鮮だったなあ。

 仕事は? うーん、たしか課長が自分のミスを全部私のせいにして残業をしなくちゃいけなくなった……よね?

 そして遅くに家に帰ってきて、疲れてたけどいつものように本を読んでたっけ。 うん。

 もう一冊読もうとしたけど、……止めて。 お風呂に入った。

 お風呂から上がって身体を拭いているときに、ガラス戸を割れるかと思うくらい強く叩く音がして…。

 黒綺が……黒綺が?

 

 記憶が一気に押し寄せてくる。

 黒綺が傷つき倒れ、血が止まりなく拭きだしていた様を。

 そしてそれを自分のキスが、舌が、癒していく様を。


 「黒綺!」


 ベッドの上で寝息を立てて眠っている黒綺を見てほっとすると同時に、まるで死人のように冷たくなった身体を思い出し、そろそろと黒綺に近づいてその肌の温かさを確かめようとおそるおそる黒綺の胸に触ってみた。


 ――――――あ……よかった。 あったかい。


 ほっとしたのもつかの間。

 なにやら視線を感じてその視線の元をみると、黒綺の目が大きく開いていた。


 「おはよ……う? 黒綺、大丈夫?」

 「……瞳子。 それは挑発か?」


 へ?


 何のことやらと、黒綺の視線の先をたどっていくと、裸の自分が四つん這いになっているという事実にたどり着いた。


 「あっ……あっ……こっ……これはっ!」 


 瞳子は耳たぶまで真っ赤になりながら、ベッドのシーツを必死でかき集めようと努力をしたけれど、自分と黒綺の重みでシーツを寄せることができなくて、黒綺にかかっている掛け布団をはぎ取って巻きつけようとした。


 「やめたほうがいいぞ?」


 布団の端を引っ張って布団を死守した黒綺をいぶかしげに見つめると「私も瞳子と似たようなものだからな。 私は恥ずかしくはないが、瞳子は違うのだろう?」と笑いながら言った。


 その通りです!

 でもそれでは私も困るんです!!

 こういう場合、一体どうしたらいいんでしょうか……?


 何とかこの状況から脱却しようと頭の中で持てる知識を総動員すると、簡単に洗って干したホームウェアを思い出した。

 黒綺にできるだけ背中を向けて寝室を出て洗面所に行こうとすると、みしっとベッドのきしむ音とともに後ろから抱きしめられた。


 「こっ……黒綺?」


 肌がっ。 素肌が密着してるんですけども?!

 黒綺の体温と匂いが、直に伝わってくるんですけども?!


 瞳子に凭れかかるように背後から抱きしめた黒綺は、その首を瞳子の肩に埋めて懇願した。

 

 「すまんが、もう一度ベッドに戻ってきてくれないか?」

 「ひえっ?! なんで?!」

 「頼む」


 普段だったらこんなことを頼まれても絶対に許さないのに、昨日の死にかけた黒綺を思い浮かべると、そのくらいは何ともないことだと気付いた瞳子で。

 黒綺の、体温は戻ったけれどまだ顔色が冴えない様をみると、そのくらいはいいんじゃないかと思ってしまった――――――それが罠としても、なんとなく大丈夫なようなきがして。


 「……いいよ。 ベッドに行こっ」


 まるで自分が誘いをかけているような変な気分になりはしたものの、瞳子は黒綺に抱きしめられたままベッドに戻って、そのまま倒れるようにベッドに寝転んだ。


 瞳子に緊張が走ったが、黒綺は予想を裏切って何をするわけでもなく、ただ瞳子の首にひとつキスをおとしてそのまますぐに寝入ったように規則正しい寝息を縦出した。


 ―――――あれ? もう寝ちゃったの?

 やっぱりまだ無理をしているんだよね。 だってあんなに血を失ったんだもの。

 このままそっとしておかないと、回復するものもしないよね。


 そうやって、瞳子はそのまま黒綺の抱き枕のようになり、しばらくは一緒に寝ようと目を瞑ったのだった。




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