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ラブロマンスはほどほどに  作者: れんじょう
ラブロマンスはほどほどに
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三冊目 第四話

 グァラガラガララッ―――――ドンッ!




 稲妻が横一文字に天空を舞う。

 落ちたであろう雷の、地響きが屋敷を襲う。

 ざばざばと、振るというよりも桶をひっくり返したような水が空から降る。


 急な状況の変化に、さっきまで恐慌状態に陥っていた瞳子は理性を取り戻した。


 「……ここは………どこ?」


 自分を抱きかかえるアレッシオを見上げると―――――また顔が変わっている!


 たしかにアレッシオだった男は、先ほどまでは短髪の黒髪だったのに、今度は前髪が頬まで長く、後ろ髪も肩までかかるほど長くなっていたが黒髪を半分結いあげ、瞳の色も琥珀に近い茶色になり、いかにも外国人的な彫りがなくなっているけれど鼻筋が通っている、そんな男になっていた。


 「!? おろしてっ!」

 「瞳子……。 少しは落ち着け」


 その見知らぬ男は瞳子を優しく抱きしめたが、瞳子にとっては全く知らない男に抱きつかれた不快感が身体を襲う。


 いやだいやだいやだ。

 何か自分が汚れたような、汚い感じがする。


 自分の体に手をまわして、瞳子はその場にしゃがみ込んでしまった。


 「瞳子……」

 「気安く呼ばないで! ……私はあなたなんて知らない!」

 「瞳子。 私を見てくれ」

 「……どうしっ! どうして、私があなたの言うことを聞かないといけないの!」


 しゃがみ込んだ瞳子の前に、膝をついてその男がじっと瞳子を見つめている。

 空では未だに鳴り響く雷鳴。


 「瞳子っ!」


 不意に肩を揺さぶられて反射的に男の顔をみると、片方の頬が赤くなっていた。


 ―――――あ、あれはさっき私が叩いた―――――


 「前にお前に見せたいものがあるといっていただろう」


 ―――――何を言っているんだ?この男は。

 

 「まあ、憶えていないかもしれないが」


 自嘲的に笑って瞳子の黒綺(こっき)の首輪がはめられた手首をとり、軽くキスをした。


 「ここにいるときはこれを外さないように。 瞳子を守るものだから」


 黒綺の首輪? どうして私の手首にあるの?


 「……これ? うちにたまにくる猫の首輪なんだけど……テーブルに置いてはずの……?」


 「首輪? いや、これは魔法具だ」


 は?

 マホウグ……魔法具?? ―――――ってなんですか、それ?!

 どこの世界にそんなおとぎ話をフルに信じる人がいるんですか?!


 「その魔法具でここと瞳子の世界を行き来できるようにしてある」


 セカイヲイキキ………世界を行き来?!


 えええええ?????


 私ったら、また夢を見てるの?

 読んでいた本は昨日の続きで途中で読むのを止めたけれどロマンス小説で、決してファンタジーじゃなかった。

 でも……でもでもでも!

 『世界を行き来』って、異世界物だよね?

 

 せっかく仕事を休んだから昼間に寝れるだけ寝て、夜には本を読んでそのまま徹夜しようと頑張っていた。

 カフェインもがんがんとって、珈琲見るのも嫌になるくらいがぶ飲みして。

 

 そして本当に夢なのか、本当は現実なのか、見極めるつもりで挑んだのに。


 まさかの異世界物?!


 「わけわかんない……」


 項垂れた瞳子をそっと抱き上げ、男は座り心地のよさそうな木枠のソファに瞳子を下ろした。

 外では激しかった雷雨が去り、今度は風が渦巻くように強く壁を叩きつける音が聞こえてくる。

 それをガラス越しに見た男はほっと一息ついて、瞳子の横に腰を下ろした。


 「―――――ねえ? ここはどこなの」


 両手に顔を埋めているその隙間から、瞳子はちらと男を見て尋ねた。


 「顔をあげて見てごらん」


 言われるがままその通りに瞳子が顔をあげて周りを見回した。

 すると見慣れた、というかよく知っているといっていいほどの内装の家だった。


 異世界物だったら―――――こういうときって洋館?


 瞳子が見たものは、和風モダンと言っていいほどの造りの家で、木がふんだんに使われ、床もフローリング。 壁はまさかの和紙張りで、障子も襖もある……縁側も。

 どこからどう見ても最近のこ洒落た日本家屋だった。


 どうして普通の家なのよ―――――!


 「気にいった?」

 「気にいった……? ここって日本??」

 「違うな。 先に言っておくが『リエン』とも違うぞ」

 「……?」

 「ここは、瞳子のために作った場所だからな」


 『作った場所』? 私のために?


 「瞳子の世界は面白い。 何度も散歩にでかけたが、その中でみた家がとても印象深くて……特にあれは気持ちがいいものだな」


 そういって男は『縁側』を指した。


 「あそこでゆったりと日差しの中を微睡むのは、本当に気持ちがいい」


 縁側を見て微笑む男に邪気など全く感じられなくて。

 まるで『日本の心』を地でいくような話に、ぷぷっと吹き出した瞳子。


 「……おじいさんみたい……」

 「……そんなに年寄りではないぞ」

 「うん。 そうだね」


 そう言っている間に荒れ狂った風が凪いで、厚い雲の間から日差しが見え隠れし、縁側にあたった光がきらきらと輝いた。


 「あそこは特別だな」

 「『縁側』っていうんだよ?」

 「そうか。 『縁側』というのだな。 ……よし、覚えた」


 「ありがとう。 教えてくれて」と笑いながら、男は先ほどのものとは全く違う優しいキスをした。




 **********



 リリリリリリリリリリリリ………


 ―――――目覚ましの鳴る音が聞こえた。


 リリリリリリリリリリリリ………


 ―――――ん? 目覚まし?


 がばっと起き上がって頭をガシガシとかきながら、今日は一体何曜日か考え込んでしまった瞳子。


 えっと? 昨日は金曜日? 今日は土曜の休みであってる?


 日付を確認しようと、寝ぼけ眼でベッドの横のローチェストに置いてある携帯電話を取ろうとしたら―――――携帯電話がない。

 過去に携帯電話をなくした経験がある瞳子は一気に目が覚めてあたりを見回した。



 ―――――私の部屋じゃない。



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