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ラブロマンスはほどほどに  作者: れんじょう
ラブロマンスはほどほどに
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三冊目 第二話

 ドリップしたばかりの珈琲ほど、香りがいいものはないなあ。

 

 ソファにわがもの顔で座っているアレッシオ(仮名)の分と自分の分をマグカップに入れて、サーバーとミルクポットと、彼の好みがわからないから砂糖も付けて。

 夢の中なのにいやにリアルだなあと思いながらも瞳子は所望された珈琲を淹れてアレッシオのところまで戻ってきた。


 「おかえり」

 「……ただいま」


 瞳子が珈琲をもってキッチンから戻ってきた途端、なぜだか沈んでいたアレッシオの顔が輝きを取り戻した。

 

 ―――――私って、もしかしてかなり好かれてる?

 そんな錯覚を起こしてしまいそうになる。

 でもだいたいが私の自己都合の夢だしね。

 アレッシオが私のことが好きでも、それは私が作りだした設定だっていうことだけで。


 そう思うととても悲しくなった瞳子だったが、珈琲ののったトレイをテーブルに置こうと思ったときに朝とは違う違和感があった。


 ―――――あれ? 黒綺《こっき》の首輪がない。 たしかここに朝置いたはずなんだけど。


 「ねえ? ここに会った首輪、知らない?」

 「うん? 首輪とはなんだ? 机の上には何もなかったが……?」


 そうだっけ?

 たしかに朝はソファの下に黒綺の首輪があって、なくしたら嫌だし、テーブルの上に置いたつもりなんだけど……。

 でも平日に黒綺はこないんだし。

 黒綺の首輪が落ちてるわけなんて、ないし。

 あ! もしかして私って朝も変な夢でもみたのかな?

 それとも今の夢が変なのかな?

 うん。 きっとそう。 そうにきまってる。


 「あっ。 うん、なんでもないの。 気のせいみたいだし」

 「そうか」


 テーブルにトレイを置いて、ちょっとアレッシオからは距離を置いて座ったら、アレッシオの手が伸びて瞳子の腰を掴みぐっと寄せられた。


 「……できたら、その手を離してほしいんですけど」

 「こっちのほうが落ち着くだろう?」

 「落ち着きません」

 「口をとがらせた瞳子は本当にかわいいな」


 うわっ

 この人はどうしてこう、歯が浮くようなことを言ってくれるんだろう。

 ロマンス小説の主人公なら外国人だから、そういったことをさらっと言ってのけるけれど……あ、アレッシオはどうなんだろう?


 「……あのね? アレッシオはどこの国の人なの?」

 「アレッシオ?」

 「あ! 違っ! ……ごめんなさい。 えっと、あなたはどこの国の人なの?」


 心の中で勝手に名前を付けているので、すらっとその名前がでてしまいました。

 大変失礼な行為ですね。反省。


 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、アレッシオはなぜか考え込んでしまった。


 「国……か」

 「うん、そうだよ? どこの国の人なの?」

 「リエン……リエンという国から来た」

 「え? リエン? どのあたりにあるの?」


 世界史は結構得意だったんだけれど、そんな国の名前、聞いたことがない……と思う。


 「この世界のどこにもない国だから、どこにある……というのはわからないが」


 ―――――は?


 『コノセカイノドコニモナイクニ』

 そんな言葉を聞いたような気がします。


 「瞳子。 折角淹れてくれたこうひいが冷めるぞ」

 「あ……ああ、ごめんなさい。 ……どうぞ。 好みがあるだろうから、お砂糖とミルクは自分で入れてね?」


 アレッシオにマグカップを手渡して、砂糖とミルクを進めたけれど、―――――あれ?戸惑ってる?


 「瞳子がいつも飲んでいるものをくれないか」

 「う…うん。わかった」


 私の珈琲の飲み方はミルクを半分きっちり入れるカフェオレで。

 ただしお砂糖は入れない。

 だってそうしないとケーキやチョコのお菓子の甘みを半分殺すことになるから。


 でもこれって、好き好きだと思うんだけど。


 慣れた手つきでミルクを入れてそのままアレッシオに渡し、自分の分にもミルクを入れてもう一度ソファに座りなおした。


 「……こうひいとは、苦いものなのだな」


 マグカップをまじまじと見つめながらアレッシオが子供のような感想を述べた。

 

 「今まで珈琲、飲んだことないの?」

 「ないな」

 「じゃあなぜ飲みたいだなんていうの?」

 「瞳子が美味しそうにいつも飲んでるからな」

 

 ―――――いつも?……いつもって。

 夢の中でしか出てこないくせに、どうやって私が珈琲を飲んでいるところを『いつも』見れるのよ。


 「もっと甘いものだと思っていた」

 「あ、じゃあお砂糖入れる?」

 「いや?いい。 瞳子が飲むのがこれならこれに慣れよう」


 別になれる必要、ないよ?

 だってどうせ夢だし。


 慣れない味に顔を顰めながら珈琲を飲みほしたアレッシオを見ていた瞳子に、アレッシオは顔を近づけそのままためらいのないキスをした。


 「これで苦くなくなった」


 ううううううう。

 やられた。


 口を思わず抑えて、ソファの端っこに逃げた瞳子だった。


 「瞳子。 ……今度私のところに来ないか?」

 「……はい?」

 「見せたいものがあるから」


 えっと。それは常套文句?

 女を連れ込む時に使う、常套文句ですよね?


 「できたらご遠慮したいです」

 「そういうと思った」


 悲しそうな笑顔を向けて、アレッシオは私の顎に手をかけた。


 「いつか……いつか私を愛するようになってくれ」


 ゆっくりと落ちてくるアレッシオの唇。

 そして重なったそれをわざと開いて、唇に言葉を乗せた。


 「愛してる」


 そしてその言葉を瞳子の身体の中に入れ込むように、深く息もつけないキスを何度も何度も重ねる。


 「愛している。瞳子。お前だけを」


 うるんだ瞳と熱い吐息と、たった一つの言葉を乗せて、何度も繰り返すキス。


 ―――――私はその言葉を信じることができなかった。




 **********



 リリリリリリリリリリ


 新しくなった目覚まし時計に起こされました。


 ベッドを抜け出してカーテンを開ける。

 朝の日差しがとても気持ちいい。

 目覚ましの珈琲でもいれようかとキッチンに立つと、昨夜の夢が思い出される。


 『こうひい』


 そうだ。珈琲とはいわなかった。

 『こうひい』と言っていた。

 全く知らないような発音で。


 ―――――夢って、こんなのだっけ?


 そういえば住んでいる国の名前……そうそう、『りえん』?

 聞いたことがないなあ。

 仕事から帰ってきたら、インターネットで調べてみよう。


 つらつらとそんなことを考えながらコーヒーサーバーを探した。


 おっかしいなあ。 いつもコーヒーメーカーにセットしてあるんだけれど。

 食器伏せにもないし……。


 ふと顔をあげてリビングをみるとそこに、昨夜の夢と同じ光景があった。


 テーブルにサーバーとミルクポット、砂糖の壺。


 そしてマグカップが―――――二個。



 

 ―――――え?



 


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