06.初めてのゴブリン捕獲作戦。
こんな街からそう離れていない場所にゴブリンが現れるなんてな。
久しぶりに見るゴブリンはサイズの割に弱そうに感じた。
いや、俺たちパーティが強くて頼もしいだけだ。
「グギャァアァァオ!!」
ゴブリンが雄叫びを上げ、俺らに向かって飛び込んでくる。
(ミズナを中心に陣形展開!ヒルクは注意を引いてくれ!)
「「了解!!」」
狙い通り、ゴブリンはヒルクに気を取られた。
「カギャァァ!!ムキャオ!!」
ゴブリンが左手でヒルクを捉えた次の瞬間、
ゴォォォォ!!
ゴブリンは手のひらから激しい熱波を放つ。
しかし、ヒルクの盾はしっかりと受け止めている。
「のわっ!あっちぃぃ!」
ヒルクの盾はアイアン製だ。
いずれ熱が伝われば持っていられなくなる。
くそっ、相性が悪いな。
俺はすかさずミズナに次の指示を伝える。
(ミズナ!アクアタンク発射だ!ヒルクの盾を狙うんだ!)
「了解なのよっ!」
プシャァァ!
徐々に熱を帯び始めたヒルクの盾を癒しの水が冷やす。
(ヒルク!そのままゴブリンの顔面めがけて突進だ!
この隙に一気に行くぞ!ユータン!)
「あいよっ!」
ヒルクの盾で視界を奪われるゴブリンに、死角からユータンが距離を詰める。
その走りはアサシンかの如く無音に近かった。
魔族のトップやジェイみたいに荒々しいやり方じゃなく、みんな指揮通り着実に仕事をしてくれる。
これが、人間の強さなんだ...。
ユータンはゴブリンの背後に回り込むと、愛用のソードの柄で後頭部を殴打した。
「グ...、ギ...。」
ゴブリンは平衡感覚を失い、地面に倒れ込む。
「これで終わりだ!」
俺はすかさず鎖を投げ、ゴブリンの腕と胴体を絡め取って捕縛した。
ゴブリンはこれ以上抵抗しなかった。
「ふぅ...。みんなのおかげで何とか捕まえられたぜ。
ありがとうな。」
「ウチら指揮通りに動いてただけさね!
アンタのおかげだよ、コウ。」
「やっぱ相棒の作戦はすげぇよ!
まさか俺らだけで仕留めちまえるなんてな!」
「アタシなんて、本当に何もしてないのよ...。」
初めてのゴブリン戦を終え、みんなは安堵し、喜びを分かち合った。
今日はもう遅い。
ミズナの家に連れて帰って、明日にでも王国に引き渡す事にした。
・・・・・・・・・・・・・・・
すっかり日は暮れていた。
双子は途中で別れ、ミズナと二人で帰宅する。
「なぁ。このゴブリン、明日まで大丈夫かな?」
「しっかり鎖で縛ってるし、きっと大丈夫なのよ!
それに、引き渡す前に調べちゃいたい事もあるのよ。」
「そっか。ミズナは熱心なんだな。」
「うん。アタシは何としてもこの世の秘密を知りたい。
きっとこの世界は、何かを隠してる気がするのよ。」
ミズナは普段見せない真剣な表情をしていた。
「んじゃ、邪魔しちゃ悪いから俺は寝るよ。」
「あっ、待ってコウ!ゴブリンと二人は流石に怖いから、...今日はアタシの部屋で一緒に寝て欲しいのよ♡」
...なっ!まさかの展開キターー!!
こりゃ頑張ったかいがあったってもんだ。
「え...、い...、一緒にって、ミズナのベッドで...?ですか?」
「当たり前なのよ〜!一つしかベッドないんだから。
てか、また何で敬語なのよ...。」
マズい!
このままだと前屈みでベッドへ向かう事になる。
「アタシは少し研究してるから、先にベッドに入ってていいのよ。
今晩は冷えるみたいだから暖めておいて欲しいのよ!」
...///
完全に前屈み九十度でミズナのベッドへ向かう。
毛布を上げた時に香るそれは、まさにフラワーガーデンだった...。
ベッドに入ると、俺はとにかくバレないように仰向け以外の態勢を取った。
眠ったフリをしてミズナを待とうと思ったが、思いの外疲れていて、寝落ちしてしまった...。
・・・・・・・・・・・・・・・
「キャー!!!」
ミズナの悲鳴で目が覚めた。
外はまだ暗く、まだ夜中みたいだ。
「ミズナ!どうしたっ⁉︎」
飛び起きてミズナの方に目をやると...、
ミズナの右腕がゴブリンに噛みつかれていた。
...!
俺は本気でゴブリンの頭を殴り、口の中に両手を捻じ込み、アゴを裂く勢いで広げた。
「おい!ミズナ!しっかりしろ!!」
噛まれていた腕を見ると、血は出ていない様子だ。
このゴブリン、歯がなかったのか...。
しかし、皮膚は紫色に変色していた。
「...ビ、ビックリしたのよ〜!」
ミズナは泣きそうな表情だった。
「ごめんな!俺がもっとしっかり鎖で縛っておけば、こんな事には...!」
俺は激しく後悔した。
キツく縛らなかった昨日の俺を殴りたい。
ミズナの噛まれた腕を優しく撫でる。
「大丈夫なのよ...!何日かすれば治るのよ。
って、コウの手冷たいっ!」
「そんなに冷たいかっ?ごめんごめん。」
この時、俺も気づいていた。
魔族やゴブリンと違い、俺の手から放たれる冷気の存在に。
やっと落ち着いたミズナを守るように、俺たちはベッドで眠りについた。
・・・・・・・・・・・・・・・
窓から刺す光で俺は目を覚ます。
目の前にはスヤスヤと眠るミズナの顔があった。
こうして見ると、まだまだ子供の顔なんだなと思った。
俺はミズナを起こさないようにベッドから出る。
リビングで紅茶を淹れ、今後の作戦を考えていた。
しばらくすると、遠くから話し声がした。
俺はマントを被り、窓からこっそり外を見る。
ヒルクとユータンだった。
俺は玄関を開け、二人を迎え入れた。
「おはよう。ヒルク、ユータン。
ミズナは遅くまで研究してたみたいで、まだ部屋で寝てるぜ。」
ミズナの部屋の方を見ると、ちょうど起きてきた。
「おはようなのよ。ユータン、ヒルク。」
「...ど、どうしたんだよ!その腕!」
驚いた表情のヒルク。
ミズナはすっかり落ち着いた様子で冷静に答える。
「昨日、ゴブリンの遺伝子を取り終えてウトウトしてたら、急に噛みつかれちゃったのよ。
けどそのゴブリン、歯がなかったみたいで助かったのよ...!」
「そうだったのか...。まあ、不幸中の幸いというか、腕が千切れたりしなくて良かったぜ。」
腕は痛々しく見えるが、ミズナは笑顔で話し始める。
「でね!大事なのはここからなのよ。
遺伝子を調べた結果なんだけど、人間の遺伝子と完全に一致したの...。
これって、どういう事だと思う...?」
「そうさねぇ。
間違いじゃないんなら、ゴブリンは長い時間をかけて人間から進化...?」
「いや、そうじゃないと思うぜ。姉貴。
そもそもこのゴブリン自体が人間として生まれたにも関わらず、ゴブリンに変化したって事だろ?」
「アタシもヒルクと同じ意見なのよ。
あり得ないと思って再検査したけど、結果は同じだった。」
...なに⁉︎
ゴブリンが元々人間だった⁉︎
肌は青く、耳は尖っている。
どちらかと言うと、俺たち魔族に近い種族だろ。
俺はこの事実が受け入れられず、ミズナに魔族についても調べるよう頼む。
「待ってくれミズナ!俺の遺伝子も調べてくれ...!」
「ありがと。コウ。
アタシも今から頼もうと思っていたところなのよ。
じゃあ、そこに横になってもらってもいい?」
俺はベッドに横たわり、ミズナに顎を押さえられ、甘い息のかかる程の近さにミズナの真剣な顔がある。
そして、ミズナの華奢な指が口の中へ侵入して粘膜を採取された。
...ふぅ。なんかエロい気分になりかけた。
「よし!これでオッケーなのよ!
結果が出るまで二、三時間かかるから、その間に国王の宮殿へゴブリンを引き渡しに行くのよ!
けど、宮殿の周辺は魔族探しに目を光らせてるはずなのよ。
コウはお留守番してた方がいいと思うんだけど、どう?」
「分かった。俺は家で今後の作戦でも考えてるよ。
気をつけて行ってきてくれ。
ヒルクとユータンはミズナの事、頼んだぞ。」
「ああ!行ってくるぜ!」
三人はゴブリンを連れて玄関から出て行った。
...さて、俺の手から溢れ出るこの冷気。
ゴブリンとの戦闘で活かす方法でも考えるか。
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